啄木の息 <ブログ版>

─ いまもなお瑞々しく語りかけてくる啄木の魅力を追い その息づかいに触れてみたい ─

     「本家 啄木の息」のリンクは、このページの最下段にあります。

 

2017-08-04

[][] 啄木を歌う “弱さをいつわらず歌うには強さが要る…” 谷川俊太郎

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[ナンテンハギ]


◯『手紙』谷川俊太郎 集英社発行


石川啄木


  涙をこぼれるがままにしておくには

  勇気が要る

  弱さをいつわらず歌うには

  強さが要る

  でたらめと嘘

  裏切りと虚栄

  その矛盾と混沌のさなかに

  ひとつの声が起ち上る

  さながら悲鳴のように時代を貫き

  どんな救いもないからこそ

  言葉は

  言葉であることで自らを救う


  黄ばんだ写真の奥から

  私たちをみつめる哀しげな顔

  青年は時代の傷口

  いつまでも癒えない傷口

  そこから流れ出る歌は

  私たちの血の

  途絶えることのない

  調べ





2017-08-02

[][] 共感と驚異「いたく錆びしピストル出でぬ 砂山の…」啄木

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[タイマツバナ]



〇『明解国語総合』  三省堂 2010年

  読書の森へ

「麦わら帽子のへこみ」  穂村弘


  • 短歌が人を感動させるために必要な要素のうちで、大きなものが二つあると思う。それは共感と驚異である。共感とはシンパシーの感覚。「そういうことってある」「その気持ちわかる」と読者に思わせる力である。

  頬につたふ

  なみだのごはず

  一握の砂を示しし人を忘れず   石川啄木


  思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ   俵万智


  • 石川啄木俵万智の歌が多くの読者を持ったのは、このような共感性に優れているためである。読者は自分自身の体験や気持ちをその作品の上に重ね合わせてカタルシスを得ることができる。

  • 共感=シンパシーの感覚に対して、驚異=ワンダーの感覚とは、「今までみたこともない」「なんてふしぎなんだ」という驚きを読者に与えるものである。石川啄木俵万智の歌には、共感の要素のほかに、実はこの驚異の感覚が含まれている。

  砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね   俵万智


  いたく錆びしピストル出でぬ

  砂山の

  砂を指もて掘りてありしに   石川啄木



2017-05-05

[][] 新刊『朝の随想 あふれる』啄木に会いに…

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[『朝の随想 あふれる』(カバー写真:著者  右端、微かに消えかかる山は「利尻富士」)]


『朝の随想 あふれる』

 山下多恵子 著 未知谷

2012年4月から9月まで半年間、週一回、NHK新潟ラジオ「朝の随想」で話した原稿を集めたもの。

「語る」ように書き、「聞く」ように読みたい、「動詞」にまつわる26のお話。


#お話のうちのひとつ#

第2回「会う * 啄木没後100年」

もしも歴史上の人物にたったひとり会うことができるとしたら、私は迷うことなく石川啄木に会いに行きます。

啄木の歌集『一握の砂』は、文学性の高さ、多くの人に親しまれているという点で近代以降の歌集のなかでも突出しています。 

  砂山の砂に腹這ひ/初恋の/いたみを遠く思ひ出づる日

  山の子の/山を思ふがごとくにも/かなしき時は君を思へり

  はたらけど/はたらけど猶わが生活楽にならざり/ぢつと手を見る (生活=くらし)

私たちはうれしいとき淋しいとき苦しいとき、『一握の砂』を開くとその時の感情にぴったりの歌が必ず載っています。

啄木が亡くなって今年(2012)で100年になります。1912年(明治45)4月13日、啄木は息をひきとりました。桜の散る午前九時半でした。啄木は、わずか26年2カ月の生涯を実によく生きた人であり、人を愛し人に愛される人間でした。

啄木に会うことは叶わないことですが、彼は作品を通して「生きなさい。生きるんですよ」と私たちをやさしく励ましてくれているような気がします。そう思うと、生きる力が湧いてくるのです。それを私は「啄木の力」と呼んでいます。


『朝の随想 あふれる』

 山下多恵子 著 未知谷

 2017年5月発行 1500円+税


目次

1 在る 2 会う 3 渡す 4 似る 5 訪ねる 6 書く 7 思う

8 焦がれる 9 歩く 10 運ぶ 11 感じる 12 悩む 13 写す 14 忘れる

15 励ます 16 降る 17 佇む 18 あふれる 19 信じる 20 生きる

21 支える 22 刻む 23 待つ 24 気づく 25 つなぐ 26 伝える


登場する文学人

塔和子/石川啄木五味川純平森鴎外二葉亭四迷網野菊種田山頭火宮澤賢治太宰治紀貫之北條民雄川端康成/P. ヴェルレーヌ坂口安吾吉本隆明/宮崎郁雨/埴谷雄高井上光晴知里幸恵/平出修/中島敦ほか



2017-02-08

[][] 新刊寸評『海の蠍 明石海人と島比呂志』

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◎新刊寸評 

 増補新版『海の蠍(さそり) 明石海人と島比呂志』山下多恵子 著

  • 明石海人(1901〜1939年)と島比呂志(1918〜2003年)、2人の作家の共通点はハンセン病。2人が全身全霊で伝えた言葉と壮絶な人生を紹介している。
  • 明石の時代、ハンセン病は「不治の病」であった。失明と気管切開を経た明石は「空中に腕を回して文字を書き、あるいは呼吸管の穴をすりこぎのような手でふさぎ、その息を声帯に回して、辛うじて声を発し」、言葉を紡いだ。
  • 一方、島の時代、ハンセン病は治療薬で治癒する病気となった。それにもかかわらず療養所で囚人のような生活を強いられた島の作品を「囚われの文学」と捉え、読み解いている。
  • 本書は2003年に刊行されたものの「増補新版」。雫石町出身、新潟県在住の著者が「新潟日報」に連載した「島比呂志からの手紙」を加えた。

(2017-02-05 岩手日報)

新刊『増補新版 海の蠍(さそり) 明石海人と島比呂志 ハンセン病文学の系譜』

 山下多恵子 著 未知谷

 2017年1月発行 2700円


2016-12-26

[] 新刊!『海の蠍(さそり) 明石海人と島比呂志』

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新刊『増補新版 海の蠍(さそり) 明石海人と島比呂志 ハンセン病文学の系譜』

 山下多恵子 著 未知谷

 2017年1月発行 2500円+税

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はじめに

  • 明石海人と島比呂志──本書において私は、彼らの生きた姿と残された言葉をたどりながら、生きることと書くこと(歌うこと)の関係を考えたい。
  • 極限にあってなお、書く(歌う)ことをやめなかった、それどころか書くことに全生命を注ぎこみ、そのことによって生き抜いたという事実は、私がずっと問い続けてきたことへの大きなヒントになるように思われる。すなわち、ひとはなぜうたうのか。私が知りたいのは、それである。
  • 彼らが全身全霊で伝えた言葉を、私たちもまた全身全霊で受け取らなければならない。それは言葉に託した彼らの思いであり、残った者に対する信頼のかたちであるからだ。

目次

 海の蠍 明石海人への旅

  I 「癩」であること

  II 歌集『白描』の世界

 人間への道 島比呂志の地平

  I 「人間」として

  II 囚われの文学──島比呂志を読む

 島比呂志からの手紙「らい予防法」を越えて

増補新版へのあとがき

  • 『海の蠍』は、2003年に刊行されました。私の初めての本でした。13年かかって、「増補新版」というかたちで再び世に出せることになり、感慨深いものがあります。
  • 久しぶりに自分の書いたものを読み返し、明石海人・島比呂志という、ふたつの実存と再会したような気がしました。軽い、あまりにも軽い言葉たちが闊歩するこの時代に、ふたりの命がけの言葉が投げかけるものは大きいのではないでしょうか。

   2016年12月 山下多恵子



2016-03-15

[] 「地雷ではなく花をください」

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「地雷ではなく花をください」

「続・地雷ではなく花をください」

「続々・地雷ではなく花をください」

  • 絵・葉 祥明  文・柳瀬房子
  • 自由国民社


かけがえのない地球をつくりましょう

 かけがえのない地球を残すため

  地雷ではなく 花をください

  地雷ではなく 花をください


Let's make the only one Earth a better place

 To leave it better for the future

  Give me not mines but flowers !

  Give me not mines but flowers !



この本の舞台となったボスニア・ヘルツェゴビナは、1992年に74年の歴史を閉じたユーゴスラビアという国の一部だった。


ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は1995年に終結したが、旧ユーゴスラビアには、600万個もの地雷が埋められた。


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2016-01-17

[][] 啄木ゆかりの「『渋民』の名を残していれば、もっと…」

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[ボーイング737機内 照明]


《作品に登場する啄木》

  『全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路』

    松本修  新潮文庫 平成20年


素晴らしき方言

  • 次の日、日沢君のご両親に車で盛岡まで送ってもらった。岩手県は四国全体の八割にも達する広さで、しかも山あいを縫う道が続き、盛岡までは思ったよりはるかに遠かった。途中、石川啄木ゆかりの旧「渋民村」でおいしい蕎麦の昼食をとった。日沢君は、ここが村々の合併によって玉山村となり、「渋民」の名が消えてしまったのを残念がる。
  • 「『渋民』を残していれば、ここを訪れる人ももっと増えただろうに」

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2016-01-09

[][] 読み出したら止まらない 愛のシンフォニー『オリーブの樹』

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[『オリーブの樹』]


廃れゆく塩田と女性の悲哀、重ねて

  • 台湾のベストセラー小説『明月(クリスタルムーン)』(桜出版)の著者、蔡素芬(ツァイスーフェン)が来日した。『明月』は、激動する戦後の台湾社会を生き抜く男女の愛情や家族の絆を骨太に描いた。
  • 塩づくりが盛んな台湾南部の村で生まれ育った明月(ミンユエ)と、幼なじみで漁師の大方(ターファン)は互いに心を寄せていた。しかし明月は家を守ろうとする母親によって別の男と見合い結婚させられる。思いを断ち切れない2人は関係を持ち、明月は女の子を産む。それは大方への愛を表現し、封印することでもあった。そうとも知らず彼は村を出て行く。
  • 台湾の新聞「聯合報」に連載、1994年に『塩田児女』の題名で出版。人口約2350万人(現在)の台湾で10万部を超えるベストセラーとなった。昨年、日本でも翻訳出版された。
  • 続編『オリーブの樹(オリーブツリー)』(原題『橄欖樹』)も先月、日本で出版された。明月と大方の娘・祥浩の成長が、高度経済成長が続く80年代の都会のキャンパスライフや、伝統的な塩田が急速に消えていく故郷の風景と共に描かれる。
  • 蔡は、創作で常に意識するのは「日々大きくなる中国の存在感」。「それを踏まえた上で、両岸(台湾と中国)の二つの社会が戦後どのように分かれてきたのかを、人々の感情と共に描きたい」と語った。(竹端直樹)

(2015-12-22 朝日新聞>夕刊)

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『オリーブの樹(オリーブツリー)』

  • 蔡 素芬 著  黄 愛玲 訳  林 水福 監修
  • 発売元 桜出版 電話. 019-613-2349 FAX. 019-613-2369
  • 発売月 2015年11月
  • 定価  2000円+税

2015-09-28

[][] 藤沢周平 - 4 <「ふるさとの かの路傍のすて石よ…」啄木の歌を思い出させる村道一本> (おわり)

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[イヌタデ]


《作品に登場する啄木》

  『ふるさとへ廻る六部は』

    藤沢周平  新潮文庫 平成20年


◉変貌する村


 自動車道


  • 村の胃ぶくろは大きくて丈夫で、たいていの変化は時間をかけさえすればゆっくりと消化して自分のものにしてしてしまう。十年ほど前から取沙汰されてきた高速自動車道計画の場合も、そんな経過をたどったようにみえた。
  • しかしこの高速自動車道に付属して出てきたバイパス道路の計画は、あまり物に動じない村の人びとをおどろかしたようである。バイパス道路は高速自動車道と交差する形で東西に走る自動車道だが、地上との段差が一米(メートル)しかないので、ここを通って村から鶴岡市に出る道が一本閉鎖されることになったのである。
  • その道のそばには本村と少しはなれて数軒の家があり、村の田畑があり、母が畑仕事をしている間に小さな私が遊んでいた庚申塔などもあるはずである。そして道ばたの夏草や小流れ、そのあたりを飛ぶバッタ。

  ふるさとの

  かの路傍(みちばた)のすて石よ

  今年も草に埋(うづ)もれしらん

  • 啄木のこの歌を思い出させる村はずれの道は、やがて廃道になる運命をむかえるわけだが、道は鶴岡への通勤道路でもあるので、村では無視できずに寄合いをひらいているという。しかし相談の中身は反対ではなく地下道化などの妥協案さがしになる模様である。
  • こういう時代には、村道一本が消滅するぐらいはなにほどのことでもないのかも知れないのである。

(「狩」平成4年5月号〜8月号)


(おわり)

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2015-09-27

[][] 藤沢周平 - 3 <啄木の短歌がなぜ人びとに好まれるのか、その理由に突きあたった>

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[敷石]


《作品に登場する啄木》

  『ふるさとへ廻る六部は』

    藤沢周平  新潮文庫 平成20年

 

◉啄木展


  • 記憶がうすれてしまったが、東京・武蔵野市吉祥寺のT百貨店で、石川啄木展がひらかれるということを、私は多分取っている東京新聞で知ったのだと思う。啄木展の主催者が東京新聞だったからである。
  • 啄木展の展示品は、啄木の戸籍簿からはじまり、学籍簿、答案、就職のときの履歴書やお金の借用証書、そして啄木の周辺にいた女性たちの写真、手紙、原稿、詩集、歌集の初版本などだった。
  • それらを見ているうちに、私は次第にある湿った感慨が胸を占めて来るのをふせげなかったような気がする。ひと口に言えば、啄木の人生は失敗の人生だったということだった。
  • 私は啄木展を見た満足感と、それとはべつの湿った感慨とを抱えたまま、駅の地下にある喫茶店に入った。
  • 私はコーヒーを飲みながら、会場で求めた二、三冊の啄木関係の本をめくって見た。中で新潮日本文学アルバムの『石川啄木』にある渡辺淳一さんの「あえて、わが啄木好み」という一文がとてもいい文章に思われた。そうしているうちに、私は突然に、啄木がなぜこんなに人気があり、ことに啄木自身はさほど重きをおかなかった彼の短歌がなぜ人びとに好まれるのか、その理由の一端にはたと突きあたったような気がした。
  • 人はみな失敗者だ、と私は思っていた。私は人生の成功者だと思う人も、むろん世の中には沢山いるにちがいない。しかし、何の曇りもなくそう言い切れる人は意外に少ないのではなかろうかという気がした。かえりみれば私もまた人生の失敗者だった。失敗の痛みを心に抱くことなく生き得る人は少ない。人はその痛みに気づかないふりをして生きるのである。
  • そういう人間が、たとえば『一握の砂』の中の「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ花を買ひ来て妻としたしむ」といった歌を理解出来るのではないかと思った。

(「庄内文学」昭和62年8月号)



(つづく)

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・石川啄木 年譜 ………… 26年と53日の生
・ローマ字日記………… 漢字と仮名では書けないことをローマ字で
・啄木文学散歩………… 息づかいの聞こえる ゆかりある場所を訪ねて
・啄木行事レポート …… イベントに参加しての私的レポート
・啄木の 女性たち ……… 啄木の人生を彩った「忘れな草」たち
・啄木と花 ……………… 歌に登場する花や木の資料

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