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舞台の謎

2017-03-19

パリ・オペラ座バレエ団『ラ・シルフィード』「グラン・ガラ」2017

標記公演を見た(3月2, 11日 東京文化会館)。3年ぶりの来日公演。その間、芸術監督が2人代わった。ブリジット・ルフェーブルからバンジャマン・ミルピエ、そして今季からのオレリー・デュポンである。プログラムはラコット版『ラ・シルフィード』(72年)と、バランシンの『テーマとヴァリエーション』(47年/93年)、ロビンズの『アザーダンス』(76年/99年)、ミルピエの『ダフニスとクロエ』(2014年)から成る「グラン・ガラ」の二つ。演目選択は前監督のミルピエによる。『ラ・シルフィード』は、オペラ座初演のタリオーニ版をラコットが研究創作したもので、ロマンティック・バレエのスタイルを遵守する。レパートリー作品を含む「グラン・ガラ」は、ミルピエのアメリカ経験(NYCB在籍)を反映したトリプル・ビルである。オペラ座公演にしては客足が伸びなかったようだが、デュポン監督の適材適所の配役、ダンサーへの細やかな目配りを感じさせる、引き締まった公演だった。

指揮は、『ラ・シルフィード』をフェイサル・カルイ、『テーマとヴァリエーション』、『ダフニスとクロエ』をマクシム・パスカルが担当。アンファン・テリブルパスカルの棒は、嵐のごとく唸って、東京フィルから音色豊かな華やかで輝かしい音を引き出した。『テーマ』の金管の咆哮(新国立のバレエピットでは聴いたことがない、定演ではあり)には驚愕。新国立劇場バレエ団の『テーマ』(2月)は東響で、厚みのある音を聴かせたが、やはり指揮の違いを思わずにはいられない。


ラ・シルフィード』には現在2つの版がある。ラコット版は、ラコットが様々な資料を基に作り上げたロマンティック・バレエ。もう一方のブルノンヴィル版は、19世紀フランス派のスタイルを残すとされ、初演(1836年)から続く長い歴史を経て、現在の形に落ち着いている。自らも改訂版を作ったヨハン・コボーによると、かなりの改変があるとのことだが、晴れやかな男性舞踊、切り詰められたマイム、独特の音取りは変わっていない(ようだ)。これに対し、ラコット版の歴史は短く、振付家の初期作品でもあるため、やや全体の流れがぎこちなく、ソロのアンシェヌマンも不自然な印象を与える。アンサンブルの踊りと物語の関係も20世紀風。2幕のシルフィード達のフォルムは時代を感じさせるが、音楽と踊りが完全に一致していない。資料の多さ(?)がラコットの音楽性を縛ったものと思われる。かつてオペラ座芸術監督だったヌレエフは、次のように語っている。

長年にわたり、私はブルノンヴィル・スタイルをオペラ座に取り戻したいと思っていた。それによりフランス・スタイルをフランスの土壌に返すことができるからだ。もっとも、これは思った以上に込み入った仕事だと後で分かったが。長い間、私は聞く耳をもたない人に話しかけてきたのである。

V. Flindt & K. A. Jurgensen, Bournonville Ballet Technique (London: Dance Books, 1992)

オペラ座がブルノンヴィル版を踊ることを夢想する。

初日のジェイムズは、マチアス・エイマン。シンメトリーのパを可能にする技術の確かさ、開かれた精神性と責任感が、晴れやかなジェイムズ像を作り上げた。シルフィードにはミリアム・ウルドブラーム。繊細で儚く、まさに空気の精。熱いエイマンとの相性も抜群だった。エフィのレオノール・ボラックも、落ち着いた演技を見せて、デュポン時代の幕開けを感じさせた。


「グラン・ガラ」は前述のとおり、パスカル東京フィルの音楽が席捲したが、舞台の方も優れた仕上がりだった。『テーマとヴァリエーション』は、ヴァランティーヌ・コラサントとフランソワ・アリュの主役。アリュの若々しさに対し、コラサントのゴージャスな成熟味が対照的(やや回転技に癖があるが)。音楽の盛り上がりと共に、華やかな舞台が現出した。アンサンブルの統一されたスタイルは、羨ましい限り。『アザー・ダンス』は、ロビンズの素早いアクセントが特徴的なデュエット作品。エイマンとリュドミラ・パリエロが、初演者に近いニュアンスを出すことに成功している。エイマンの力強いパの遂行、パリエロの流れるようなラインの美しさ。全力を尽くした渾身の演技だった。『ダフニスとクロエ』は、音楽(と物語)に寄り添ったネオクラシック作品。モダンダンスの味わいも加わる。クロエのデュポンは、美しい貴婦人(役柄とは違うが)、ダフニスのジェルマン・ルーヴェは若さそのもの。美しき芸術監督が、若い男性エトワールを導いているようにも見える。ルーヴェは容姿、技術に優れ、演技にも癖がない。次代を担う男性舞踊手。丁度中日の回で、配役変更があったにもかかわらず、見応えのあるトリプル・ビルだった。『ラ・シルフィード』同様、芸術監督デュポンのバレエ団掌握と、明確なヴィジョンを感じさせた。

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