10月に見た公演 2018

10月に見た公演について短くメモする。


北村明子 『土の脈』 (10月14日 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ)
『土の脈』という題名だが、スタイリッシュでいかにも北村らしい作品。東南〜南アジアの土地からインスピレーションを得たにもかかわらず、雪のツリーが立ち、終盤には雪が降る。インド人のマヤンランバム・マンガンサナがドラマトゥルグで、音楽も提供(出演)。お経のような、ケチャのような歌を歌う。高音の美しい歌だが、増幅されているためオーガニックな匂いがしない。北村の無機的な美意識の反映なのか。アジアの武術を取り入れた振付、発話を伴った動きも、コンテンポラリー・ダンスの枠組みの中で作られている。
ダンサーでは、カンボジアのチー・ラタナの振付解釈(解体?)が素晴しかった。北村が武術をどのように組み込んでいるのか、チーの呼吸、回転の質、意味を伴った動きを見るとよく分かる。呼吸の振幅が大きく、動きのみで空気を動かせるダンサー。男性仮面舞踊の猿役専門とのことで、伝統芸能特有の色気もあった(ニュートラルに踊ることができないとも言えるが)。北村自身の踊りは相変わらず鋭く、武術と密に溶けあっている。他に加賀田フェレナの人間味のある踊りが印象的だった。


●正田千鶴 『空間の詩学』 @ 現代舞踊協会 「時代を創る」 (10年14日 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール)
84年初演作の抜粋。フィリップ・グラスのミニマルな音楽に、劇的な要素を汲み取る鋭い音楽性に驚かされた。幾何学的フォーメイション、フォルムの強度といった抽象性と並行して、中心を踊る男女には濃厚なドラマが生じる。ドゥミ・ポアント歩行、グラン・バットマン風の蹴りなど、バレエ技法への傾倒も。カニンガムのモダニズムを思い出させた。34年たっても全く古びないのは、動きそのものを創り出しているから。これほど自己が明確な振付家がいるだろうか。バレエ団のレパートリーに入るべき作品。


ジョージア国立民族合唱舞踊団 『ルスタビ』 (10月18日 中野サンプラザ
女性舞踊、男性舞踊、パ・ド・ドゥに、驚異的な男性合唱が加わる。舞踊技法はかかとを上げるつま先立ちが基本。男性はポアントのように、ブーツの先端で踊る超絶技巧を見せる(膝は曲げ気味)。男らしさに通じる技なのだろうか。膝での回転マネージュ、前屈ジャンプを膝で着地するなど勇壮な技もある。女性は長いスカートで天使のように滑って移動する。ドゥミ・ポアント風パ・ド・ブレか。
合唱は基本的にアカペラ。時に笛や琵琶のような弦楽器が加わる。二千年続くポリフォニーは、讃美歌のような荘厳なものから、土着的でリズミカルなものまで。ただし増幅されている。地声ならさらに胸を打っただろう。笛は斜めの構え。その理由は、2本同時にハの字にくわえた時に分かった。笛で足技をやるような超絶技巧、しかも平然と。ブルノンヴィル作品(19世紀作品)に伝統芸能の匂いがあるのは、難しい技をいとも容易く見せているからかもしれない。


イスラエル・ガルバン 『黄金時代』 (10月28日 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)
前情報から、フラメンコ・ダンサーがコンテンポラリーダンスを踊る、と思っていたが、演奏家を含め、ほとんどがフラメンコだった。サパテアードの鋭さが素晴しい。ただし腕はニジンスキー風のフォルム等を描くので、フラメンコ本来の情念、空間の拡がりとは無縁だった。やや三枚目風の愛らしさは地だろうか。