J・エドガー

J・エドガー Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

J・エドガー Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

この映画はアメリカ連邦捜査局(FBI)の初代長官を48年間務めたジョン・エドガー・フーヴァーの伝記映画です。監督はクリント・イーストウッドエドガー役は日本でも大人気となった「タイタニック」で主演を務めたレオナルド・ディカプリオです。

イーストウッドの作品はこれまでに、第二次世界大戦における硫黄島の戦いを日本側の視点から描いた「硫黄島からの手紙」や、元軍人で頑固な老人役をイーストウッド自身が最後の俳優業として演じた「グラン・トリノ」を見てきました。

前者はアメリカから見た「父親たちの星条旗」と同時期に公開され、日本とアメリカから見た戦争の悲しさと、いつ死んでもおかしくない状況でも諦めない当時の人間の力強さを感じました。
グラン・トリノ」では老人と近所に越してきた少年の友情と、終らない憎しみの連鎖。それを食い止めるべく老人のとった行動は悲しく賛同できるものではありませんが、ではどうすればよいのかという答えは見つからないと思います。

そして本作では引退も囁かれているエドガーが書記官を呼び、これまでの自身とFBIの歴史を残そうと記憶を辿ります。過去を語るその言葉とさまざまな行動がリンクするように、映像は高齢のころと若いころのエドガーが変わって戸惑う場面もあります。

※時代を行き来するため登場人物の年齢も場面によって異なりますが、特殊メイクにより役者は同一人物が演じています。

エドガーは幼いころから母親にこの国の権力者になると教え込まれ、その言葉を疑うこともなく成長していきました。そして母親を非常に愛しており、独身のまま亡くなるまでずっと一緒に暮らしています。

司法省の弱小部署に配属されたエドガーは共産党やギャング、国外からの脅威からアメリカを守るため。そして権力を得るためにFBIを強力な部署へと変えていきました。
過去の犯罪者の指紋から犯人を特定する方法や、現場に残された木片からに対して木材のプロフェッショナルを呼び、それがいつどこの木片なのかを突き止めようとするなど、当時なかった化学的な捜査を展開してきます。
さらに政府要人に対しても盗聴を利用して、ある時には脅しの材料に使い自分の立場を揺ぎないものになりました。

派手な銃撃アクションや驚かせるCGなどもなく物語は淡々と進みます。

司法省に配属されて出会ったヘレン・ギャンディ(ナオミ・ワッツ)はエドガーからのプロポーズを断ります。有能な彼女は結婚よりも仕事を第一に考え秘書として長い年月を共に働き、エドガーが亡くなったとの知らせを受けてからは彼の極秘ファイルを残らず処分しました。

ランチかディナーを共に過ごすという条件でエドガーの右腕となったクライド・トルソン(アーミー・ハマー)は仕事を進めていく中でお互いに理解しあう仲となりました。休日を共に過ごす事も多かったようですが、エドガーが結婚願望を打ち明けたことで喧嘩になり、今後女性の話をするならば仕事を辞めると言い切るなど同性愛を思わせる描写もあります。エドガーの死後は彼の遺産を全て受け継ぎ情報が漏れないように守ったとされています。

私はこの映画を友情や愛情の物語だと思いました。
FBI長官の立場からすると、この映画には登場していない凶悪な事件や驚くべき出来事が他にもたくさんあるはずです。それよりも母親とのダンスやトルソンとの競馬のシーンを取り扱い、他に類をみない巨大で強力なFBIという組織の歴史よりも、三人の強い結びつきに魅力を感じました。