市場は常に間違える 〜 賭博市場観測日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-04-13

「予測市場」とは何か?

私なりの説明です。

予測市場とはどんな市場?

予測市場とは、「未知(=結果の分からない将来の出来事)」対象に作られた予測を取引する市場です。それぞれの予測について"back"(=実現する)と"lay"(=実現しない)の2つがあり、この2つが折り合うように価格(オッズ)が調整されます。そして、予測の種類は全ての結果を網羅したいる必要があります。つまり予測全種類の back position (もしくは全種類の lay position )を持てば必ず予測のどれかが的中していることになります。任意の「未知」を原証券としたデリバティブ市場の一種であると言えます。

ブログでは予測市場という言葉を使わず「賭博市場」という言葉を Betting Exchange の日本語訳として使っています。Betting Exchange は証券取引所のことでまさに予測市場そのものなのですが、予測市場の中にはリアルマネー(=実際のお金)を使用せずプレイマネー(=架空のお金やポイント)を使用している市場もあり、そのプレイマネー予測市場との区別をつける上で賭博市場という異なる言葉を使用しています。このプレイマネー予測市場についてはまたいずれ書こうと思っていますが、様々な意見があるものの*1私個人的にはリアルマネー予測市場=賭博市場の方があらゆる面において優れていると考えています

これら市場の関係は、

賭博市場、プレイマネー予測市場予測市場デリバティブ市場

と表されます。

市場を利用する三者

さて、デリバティブ市場に参加するのは以下の三者であるとされています。

1.リスクを回避したい人(risk hedger)

    • 将来どうなるか分からないという不安を、どのような結果になっても変わらない、という状況に変えたい人々です。通常、プレミアムを支払って他の誰かにリスクを肩代わりしてもらいます。

2.リスクを請け負う人(risk taker)

    • 将来どうなるか分からないというリスクを請け負います。通常、その代償としてリスクプレミアムを受け取ります。

3.価格を調整する人(price adjuster)

    • プレミアムを査定/調整する人々です。プレミアムがパリティから離れたときなど、ノーリスクで益を出す取引(裁定取引)を行います。結果、プレミアムはあるべき水準に戻ります。

三者を表す言葉、わざと変えました。通常、デリバティブ市場を構成する三者は risk hedger, speculator, arbitrageur であると紹介されます。これは単語に根付いたイメージに対するささやかな抵抗です。本来、市場を構成するこの三者に優劣はありません。しかしながら、リスクヘッジという価値は必要だとヘッジャーに対してはうんうんと頷く割に、スペキュレイターやアーブに対して冷たい目が向けられているように感じているのは私だけの穿った見方ではないと思います。投機、賭ける、あまり良い意味に使われることはありません。なぜでしょう?

ここは私個人の穿った見方かもしれませんが、これはマーケットがあまりにも発達しすぎて、取引がさも、例えば自動販売機に100円玉を入れるとジュースが出てくるように、1対システム(もしくは神)というような形に見えやすくなってしまったからではないでしょうか。取引は常に相手あってのもの、この値で売りたい=この値で買いたい、という状況で始めて両者に取引が生まれるのです。この市場における流動性の重要度を理解していれば、リスクヘッジの価値は認めてもリスクテイクの価値は認めない、という矛盾した発想は生まれないはずです。

また、リスクテイクとは「プレミアム分が儲かるから投資しなさいよ」ということではありません。「儲かるか儲からないか分からないものに賭ける」ということです。ギャンブルであり投機です。失敗したらプレミアム分など軽く吹っ飛びます。だからこそヘッジャーはプレミアムを支払うのです。安全なリスクテイクなど存在し得ないのです。*2そして、失敗して無くなっても良い範囲でリスクテイクするか、もしくは死を覚悟してリスクテイクするか、それとも全くリスクテイクしないか、取るリスクの大きさは個人の各々の選好によって決めることです。どれが正しいとか間違いだとか、どれが善だとか悪だということはありません。ハイリスクを取ることが愚かではないように全くリスクテイクしないことも悪ではないのです。


予測市場リスクヘッジはできないのか?

wikipedia日本語版の「予測市場」の項目は以下のように説明しています。(強調は私によるもの。)

本来先物は、価格変動の影響を避けるための手段(リスクヘッジ)として利用されるが、予測市場においては、価格変動を利用して利益を得るスペキュレーション投機)が唯一の取引動機であり、以下のような場合に、利益を得ることが出来る。

予測市場 - Wikipedia

本当でしょうか?予測市場デリバティブ市場の一種であると言いました。ならば、デリバティブ市場と同様にリスクプレミアムを介してリスクヘッジリスクテイクも出来るはずです。例を挙げてみましょう。

ブログで取り上げているサッカー賭博市場は「サッカーの試合の結果」という「未知」を原証券として取り扱うデリバティブ市場です。ここで浦和レッズを運営する会社の立場を考えて見ましょう。この株式会社浦和レッズ*3リーグ優勝により増収が見込めますが、リーグ降格の際には減収となります。サッカーの試合の結果という「未知」に対して収入が左右されるわけです。ここでもし株式会社浦和レッズが収入を安定させたいと考えたとき、浦和レッズの「負け」に賭けることによって試合の結果いかんに関わらず、収入を安定させることができます。つまりリスクをヘッジしたわけです。

ヘッジという取引動機が多いか少ないかは「未知」という原証券の種類に依ります。「サイコロの目が奇数偶数か」という未知を本気でヘッジすべき人は極めて少ないでしょうが、「今年は冷夏であるか」という未知をヘッジしたい人は多くいます。デリバティブ市場は完全な賭博市場ですが、そういった理由で存在が認められています。*4そして予測市場も扱う商品、原証券によっては同様の市場になりえます。


世論調査やアンケートが目的ではないし、ましてや的中する予言でもない

予測市場は未知(=結果の分からない将来の出来事)というリスクを取引する市場です。そしてその市場の目的は上に示したデリバティブ市場と同様の3つです。市場の値段をもってしてアンケートや世論調査の代わりとするのも結構ですが、それはTOPIX先物価格が景気動向に関する世論調査という程度の意味にしかなりえません。適切な方法で実際にアンケートや世論調査を行った方がよほど効率良く、そして精度の高い結果を得ることが出来ます。*5

また、「予測市場はみんなの力を合わせて未来を予測する」などというバカげた発想があります。当たり前ですが、そんなことは不可能です。ただし、予測市場の予測精度は他の何よりも高いものであることはありえます。その精度は市場の効率性に依ります。まだ強いインサイダー取引規制などが存在しない予測市場では、デリバティブ市場よりその効率性はよりストロングであると考えられます。先日ハリウッドでのアカデミー賞作品賞予測市場が、当初有力視されていたアバターではなく実際に受賞したハートロッカーである、と見事に予測的中させましたが、これはとりもなおさずインサイダー取引によるものであり、アカデミー賞の情報は数日前から漏れるという証左に他なりません。

タレブの言うように多くの人々にとって確率はほぼ0であった9.11の悲劇も実行したテロリストから見れば確率1の出来事、インサイダー情報は予言ではなく答えなのです。市場を動かす力である金*6を利用してどうにかこれらインサイダー情報を有効活用できないか、という発想が予測市場であり暗殺市場(wikipedia)やテロ予測市場という考えにつながっています。このような発想は、既にインサイダー取引を規制する方向にコンセンサスができあがってしまったデリバティブ市場では持ち得ないものであり、インサイダー情報の取り扱い(規制する/規制しない)は、今後の予測市場にとって最も重要なファクターとなっています。

*1:リアルマネーは関係ないという意見⇒PDF

*2:同種のリスクを集め、大数の法則でカバーしたプレミアム収入を狙うのがカジノや保険。

*3:もちろん、正式な名前ではない。

*4デリバティブ市場と賭博罪についてはここが詳しい⇒PDF

*5:アンケートや世論調査にとって重要なのはサンプリングの方法。

*6インセンティブの本質は見栄だと思うのだが、それはまた別の機会に。