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マンガ雑読記

2011-01-28

今井哲也『ぼくらのよあけ』が面白い! 今月のアフタヌーン

月刊 アフタヌーン 2011年 03月号 [雑誌]

月刊 アフタヌーン 2011年 03月号 [雑誌]

今月のアフタヌーンは充実号ですねー。黒田硫黄の読み切りがあったり、『臨死!江古田ちゃん』が連載再開してたり。今回一番面白かったのが、これですね。


今井哲也氏の新連載『ぼくらのよあけ』

今井さんはかつてもアフタに連載してた作家さん。『ハックス!』という、高校アニ研を舞台にしたマンガです。

ハックス!(3) (アフタヌーンKC)

ハックス!(3) (アフタヌーンKC)

このマンガ、じつは僕は結構ファンでした。アニ研が舞台というと、『げんしけん』とか『究極超人あーる』みたいなぬるい文化系ノリのコミュニティを描いたマンガがまた出てきたのかなー程度に思っていたんですけど、登場キャラがかなりアニメに真剣だったので、逆にビックリしたという、微妙な思い出のあるマンガですw そんときは、結構リアルな青春モノだなーという話のイメージが強かった。


さて、今回の作品です。


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<「ちょっとだけ未来」のぼくらの暮らし>

舞台は、ちょっとだけコンピュータや人工知能が発達した、近未来の日本。

で。宇宙に憧れる小学生「ゆうまくん」(画像真ん中)が主人公。


うえに居るハロみたいなメカは、「オートボット」というAI搭載のアンドロイド。名前はナナコちゃん。


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「世話焼きな女の子ロボ」という設定で、身の回りのあんなことやこんなことをしてくれます。こう書くと無駄なエロゲっぽさがありますけどw、すごく気の利くいい子です。


で、授業の風景もこんな感じ。


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うーん・・・地味に未来してるのがいいですねえ。全体的な印象としては、電脳コイルっぽくて生活感がリアルです。



ただ、今回はそういうSF的な設定とか内容がポイントじゃないみたいです。

というか、今回のメインは、ゆうまくんの生活の舞台となる団地の描写なんですね。改めて気づきましたが、この人はホントに「空間」を描くが上手い。


『ハックス!』でも細かいシーンや風景が上手いなーとは思ってたんですけど、今回は、そっち方面の才能が全開フルバーニアって感じ(古い)です。


具体的に、どういうことかと言いますと。

全体的に、描写がジオラマみたいなんですよね。

例えばこのコマ。

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おお!スゴいパース!

ただ、ゆうまくんが友達に「ゆーうーま」って言われてるだけなのに、まるで、銃眼から砲兵が見下ろしているようなwダイナミックな構図です。


で、すぐ次のコマ。

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ゆうまくんが、階段から降りてくると、空間のスケールが、キュッと小さぃなるんですね。子供のサイズに。すると「あ、こんな団地だったのね!」ってのがわかる。この人って、線は少し粗いんですけど、描くモノとか場所とかに、ちゃんとカタチがあるんです。


あとこんなシーン。

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「主人公が、団地の階段の手すりに登って、友達のいる下の踊り場を見下ろす。」それだけ。

ほんとなんでもない、ちょっとした光景です。

なんですけど、よく見てください。階段の手すり〜踊り場までの空間がものすごくクリアに見えてるんですね。

わかりますかね?

見下ろされてる友達とか、配管とか洗濯カゴとか、外の木とか建物とか。どれもすごく緻密に描かれてて、かつきっちりしたパースで配置されてます。なので、小学生のゆうまくんに、団地がどういうスケール感で見えてるか?がすごく伝わってくるんです。

次のコマ。


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「おお すげー」

そうなんです。子供の眼では、こんなちょっとした光景だって冒険になるんですね。ここはそういう意味で、何気に大事なシーンだったりします。今井さんはこんなふうに、描き込まれた空間のディティールからドラマを生み出すのがすごく上手いんですよ。


<トーンなし! 写真じゃなくて建築図案>

しかもこの人、実はトーンほとんど使ってないんですよ。

例えばさっきの続き。屋上にのぼるゆうまくん。このマンガ、団地をうろつくシーンが非常に多い。


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「うお、屋上広っ!」

ここでページめくって見開き。俯瞰のショットです。


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「そうか、ゆうまくんの住んでる団地って、こんな大きかったんだ…」

いや、こんなセリフないんですけどねwそんな感じのシーンです。


ここまで、かなりの大舞台のシーンなんですけど、トーンはゼロです!(強いて言えば、主人公のTシャツのプリントだけトーン貼ってますねw)

「トーンがゼロだと、なんかすごいの?」って思うかもしれないんですけど・・・

やっぱり画面の明晰さが違いますよね。


特に上の二つのうちの、下の方のコマを良く見てください。大ゴマですが、団地の建物、配管設備、洗濯モノ・・・。細い線で、陰影の書き込みも最小限。だからディティールビッチリの画面なのに、すごくサッパリしてるんですね*1

ここまでくると、ジオラマを通り越して建築の図案みたいですよね。スケールがすごく明快で綺麗。平板であっさりとしてるって感じる人もいるかもですが、だからこそ、舞台の空間的な広がりがすごく伝わってくるんですね。


ちなみに、大事なことですが、これって「写真っぽい」んじゃないんです。

写真って、線画に比べて相当いろんな情報が入っていますよね。光とか影とか色とか。それって、逆にものの形を捉える上で、ジャマになることもありますよね。

今井さんの絵って、むしろそういう情報をほとんどそぎ落とした骨組なんですよ。例えるなら、だからpixivでよくある「線画」⇒「塗り絵」のやりとりを、逆にしてるみたい。

だからこそ、空間のスケール感を三次元よりきれいに抽出できてるわけですね。*2


そういう意味では、この一話の主人公って、ゆうまくんでも、ナナコちゃんでもなくって、団地が主人公なんですよ!


以下ネタバレしそうなので中断。


まあいずれにせよ、カラーページにもあるとおり、今後の展開は宇宙SFになりそうな模様です。

今井さんが描く宇宙のスケールはどういうものか?

宇宙船はどんなのか?

宇宙ステーションではどんな生活が送られているのか?

今から楽しみでしょうがないですね。ストーリーも、(『ハックス!』が良かっただけに)期待です。


ただ残念ながら、「短期集中連載」らしいですね。冒頭のタイトルページで回数表示が「1/10」とあって、10回で終わるみたいです。これって、宇宙に行くまでのカウントダウンなんでしょうかね。ともかく今後に超期待です、


<その他>

黒田硫黄の読みきりも面白い。女の子が出会った男が、たまたま記憶喪失(?)のサイボーグで、しかもたまたま故障させちゃうっていう話。

たしか黒田さんって、手塚治虫の『メトロポリス』リメイクしてましたね。あれも、壊れた人造人間の話でした。

この人、わりとフリーダムに色々描く人だという思ってましたけど、「ガラクタ」とか、「壊れた機械」とかが、何気の表現の大事なテーマだったりするのかな…。

と、わけのわからないことを呟いてみるw

*1:手元にないから確認できませんが『ONE PIECE』って確か、キャラや小道具をかなり描き込んでますが、トーンはほとんど使ってないですよね。『NARUTO』も確かそう。あと『寄生獣』『ヒストリエ』の岩明均もそうですね。三人とも、どれだけ描く内容がごちゃごちゃしても、画面全体はすっきりして見やすいのが特徴だと思います。

*2:たとえばhttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=7065280http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=7198931を見比べてほしいんですけど、塗り前と塗り後では、「設計図」と「色彩構成」ぐらいの違いがでてくるのがわかります。

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