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2012-08-28

[]岩田正美「生活保護を縮小すれば、本当にそれで済むのか?」in『現代思想 特集 生活保護のリアル』 岩田正美「生活保護を縮小すれば、本当にそれで済むのか?」in『現代思想 特集 生活保護のリアル』を含むブックマーク

  『現代思想』が総力をあげて取り組んだ印象の強い生活保護問題についての特集を飾る力作論説である。政治的な扇動で始まった今回の生活保護制度パッシングへの詳細な反論が展開されている。

 その主張はかなり鮮明である。

 現在の生活保護パッシングの背景には、若くて働くことが可能な「稼動可能層」が生活保護を急速に受給するようになった。働くことが可能な人たちが安易に生活保護に依存するのは「恥」というモラルが衰退した証拠であり、それに連動して扶養可能な親族がいるのに「不正」に受給する人たち、外国人、暴力団などへの支給が大挙してみられるという「通念」である。

 この「通念」の多くがデータで間違いであることは今日の別のエントリーで書いたのでそれを参照すべきだが、岩田氏の論説は、そもそもいまの生活保護制度が、日本の貧困の事実上「オールマイティ」の引き受け手になってしまっていることに、今後の日本の社会保障の危機が存在している、という強い問題意識に裏付けられている。

 例えば、岩田氏は詳細にデータを確かめることで

1 「稼働層」からは景況の悪化、つまり失業によって受給開始者が増えていることは事実

2 しかしそれ以上に基本的な生活保護の受給者増加は、70歳以上の高齢者の受給増によって特徴づけられる

「近年の保護人員の増大は、いわれているほど若年の「稼働層」の増加によるもではなく、高齢化による影響がまず基調にあり、ここに中高年「稼働層」の疾病、失業や収入減による保護開始、あるいは離死別の影響が重なっていると判断できる」60頁。

 この点は岩田論文が詳細にデータを読み込んでいるので同誌を参照すべきである。

1が景気改善で低下しても、2の問題は依然として今後の日本の貧困の核心でありつづけ、それを生活保護制度だけですべて対応するのは困難である、というものである。もちろん今回のような生活保護パッシングは、一部の問題を過剰に拡大して全体の問題をみない悪質な動きであると岩田氏も断定しているだろう。

 この高齢化に伴う貧困の加速化への対応として、岩田氏は以下のように「少なくとも生活保護制度の生活扶助部分のレベルと同等の最低保証年金が存在してもおかしくない。そうなれば、全生活保護人員の約四割を占める65歳以上高齢者の生活保障は、生活保護+年金ではなく、年金によって基礎づけられることになり、生活保護制度それ自体の性格がもっと短期的な貧困に対応するものとなろう。ただし、賃貸借住宅層への住宅扶助と何らかの医療扶助の継続は必要になる」、とし最後の住宅扶助は単給化することで、高齢層、稼働年齢層、離別後の母子世帯に対してもきわめて有効である、と主張している。

 つまりな社会扶助の多様化が求められるのであり、生活保護パッシングとはまったく異なる位相での問題への取り組みが求められるのである。

現代思想2012年9月号 特集=生活保護のリアル

現代思想2012年9月号 特集=生活保護のリアル

 

[]片山さつき城繁幸赤木智弘「本当に生活保護を受けるべきは誰か」in『Voice』八月号 片山さつき・城繁幸・赤木智弘「本当に生活保護を受けるべきは誰か」in『Voice』八月号を含むブックマーク

 ちょっと前の号ですが、気になっていた対談で備忘録も兼ねてここに引用と簡単なコメントを書いておきたいと思います。この三者の組み合わせというのは面白いですね。

 対談の記録はここで今の段階ではここに掲載されてます。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120720-00000001-voice-pol

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120720-00000002-voice-pol

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120720-00000004-voice-pol

片山氏の立場を整理すると

1.ポピュリズム的傾向。河本準一氏の事例を狙い撃ちにして、「不公平」という「庶民」感情を前提に批判を強める。

 「経済的困窮者に対して、民法877条では「親族の扶養義務」を定めています。多くのテレビ番組に河本さんの「生活の贅沢さ」を示す証拠が残っており、母親を養えないわけがない。指摘を受けて河本さんは一部を返還すると発表しましたが、やはりこうした行為は、社会常識に反するように思います」

2.生活保護費の近年の急増をうけれの在日外国人への支給すべきかどうか、扶養能力のある家族が存在するときの支給の論点化。

3.安易なレトリックの利用。あたかも生活保護をうけている人のかなりの人が不正受給者だとうけとられかねない発言。

「いまでも日本人の65人に1人が受給しています。もちろんすべてが不正受給者とはいいませんが、65人といえば、「2クラスに1人か2人」がもらっているということです」、「今回のケースが「正当な受給」だとテレビで発言する弁護士やコメンテーターにつられて、生活保護に便乗する人が増えてしまい、「クラスに4人、5人」などということにならないために手を打つべき、というのがわれわれの主張です。」

これは読めばわかるように、日本人の総数に占める生活保護受給者のウェイトが65人に一人であり、(それがすべて不正受給者ではないとことわりつつも)その次にはあたかもそれが全員不正受給が加速することによって、「クラスに4,5人」にならないようにしたいと、かなり不正受給全体を過剰にウェイトを置くことになってしまっている。後の梶原雄太氏の事例をあげたときも不正受給のために「2012年の3.5兆円よりもさらに増える、という事態になってしまいます」との発言も同様である。

簡単にコメントすると(参照リンク先:http://diamond.jp/articles/-/19320/ とここhttp://p.news.nimg.jp/pdf/a/nw0_20120611_kataoka.pdf

●最近の生活保護受給者の増加は、不正受給の増加が原因というよりも、ほとんど08年以降の景気の失速による。

●不正受給者も増加しているが、それえが生活保護全体の増加に与える影響はかなり小さい。

●不正受給自体の取り締まりを厳格化すべきなのは現在の法制上あたりまえであるが(この不正受給の風潮に乗じて水際作戦が過度にすすめられるのは可能性があるかもしれない)、まずは不況からの安定的な脱出をするべきであろう。それに対しては民主党片山さつき氏の自民党公明党ともに増税志向であり、むしろ生活保護の受給者を増やしかねない。政策的に生活保護を増やしかねない消費税増税財政再建政策に舵を切りながら、同時に生活保護の不正受給が生活保護の増加を生むというロジックを採用するということは、そもそもの生活保護の増加の真因が何かの政治の責任をあいまいにするだろう。

5.生活保護など社会福祉を国から家族に移行する価値判断が濃厚

「私が指摘したいのは、かつての日本にはあった「生活保護を受けるなんて、隣近所の手前恥ずかしい」「親子は本来、養うべきなのではないか」といった価値観が、徐々に失われつつあるという現実です。これまでの制度はこうしたモラルや親子の絆を信頼したうえで成り立つもので、それがなくなっているのなら、一定のルールを設ける必要がある、ということです。」

6.職業訓練、生活訓練の重視。

7.最低保障年金への批判

8.最低賃金制度と生活保護制度との兼ね合いの問題

「しかしそのとき、現行制度のもう1つの問題が壁になります。それは最低賃金との兼ね合いです。低いスキルの人は就職しても最低賃金しかもらえず、この最低賃金が生活保護の支給額を下回る都道府県が9もある(昨年10月以降は3)。「働けば働くほど生活がよくなる」という話にならず、働くインセンティブをなくしてしまう。」

この両制度の摩擦は重要な論点である。ただし片山氏の発言には首肯できない点がある。

例えば片山氏は以下のようにいっている。

東京都で生活保護費を受け取りに来る人を1日みていると、いっせいに窓口にダッシュで取りに行く、十分働けそうな若い身なりのいい人がたくさんいます。本来は不要な人への支給をやめれば、おそらく1千億円以上の金額が捻出できるでしょう。そこで、城さんがおっしゃるように、その1千億円をケースワーカーの増員に使えばいい。このような提案に反発する勢力もいて、なかなか実行のハードルは高いですが、貧困ビジネスの膿も出す必要があります。」

窓口ダッシュの若者で、十分に働けそうな若い身なりのいい人たちが、なぜ生活保護を受給しているのか、1.働くよりも生活保護で生きているのがらくなので「ニセ弱者」になる努力をした、2.不況のせい の二つの仮説をくらべると、09年からの受給者の激増からいうと、後者が可能性がきわめて大。前者がそうだとしたら、すでに現行制度があった40年前から同様の光景がみられたはず。しかも最低賃金が制度的に切りあがったことからも、生活保護>最低賃金の乖離が縮小する中での、窓口ダッシュの人の増加は直観的にはありえなさそうである。

城氏、赤木氏のそれぞれの発言は参考になった。どうしても片山氏に比べると以下コメントが少なくなってしまい申し訳ないが(笑)。

城氏の論点

生活保護制度の論点は3つ。1:働くインセンティブ 2:水際作戦の問題 3:年金制度との不整合性&親族の扶養義務強化に焦点をしぼるのはおかしい。

この1について特に最低賃金との兼ね合いが問題になる。この点での城氏の提言は以下。

「管轄が分かれている就労斡旋と生活保護行政を一本化して、ハローワーク厚労省から地方自治体に移す。そして生活保護を支給するのと同時に就労斡旋を行ない、理由なく断れば減額するといった、スウェーデンなどで行なわれているやり方を採用すべきでしょう。」


赤木氏の論点

1.職業訓練しても必ず就職できるかどうかわからない。また雇用のパイが広がらないと以下の問題が発生する。

「たとえば私自身、裕福ではなくバイトなどでなんとか食いつないでいる状態です。そうした立場からすると、生活保護受給者の自立支援ということで彼らが労働側に回ってきたとき、怖いのはそれまで働いていた人たちの待遇が悪くなること。労働力が増えても、雇用のパイが広がるわけではありませんから。」

この観点は重要。雇用のパイを大きくする政策が重要である。通常の景気対策に加えてこのエントリーに挙げたような予想名目賃金を増加させる政策(一種の所得政策)が重要ではないか。

2.生活保護費用のうちの医療費全額控除の見直しの提案。大阪での「過剰診療」の問題。城氏も賛同。

「支出が多いという状況を是正するなら、生活保護費用の約半分を占める医療費の全額控除をやめるべきではないでしょうか。自己負担を完全にゼロにするよりは、何割かは負担してもらうといったやり方のほうがいい。かたや医療費全額控除で、かたや保険料を払いながら3割負担では、両者の落差が激しすぎます。」

3.三十代、四十代のフリーター、非正規雇用の問題。政府の再分配の設計、個人としてのサバイバルの重要性 ←城氏も論点共有。

「たしかに不正受給よりも、今後、確実に増えていく彼らをどうするかのほうが問題です。これから40代や団塊ジュニアといったボリュームゾーンの世代で、非正規の仕事がなくなっていく。さらに生活保護受給者が労働させられることになれば労働力供給が増え、限られた非正規の仕事を奪い合うことになるのではないでしょうか」

この論点は1にも関連するし、さらにこの世代への公的雇用の採用も考えることはできないか? 

赤木さん、城氏の意見については別途検討したい部分が多い。特に2の論点。

若者を見殺しにする国 (朝日文庫)

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