内藤陽介『日の本切手美女かるた』

 面白い! 内藤さんの遊び心と日本の「美女」文化についての簡潔な説明が見開きでワンテーマ書かれていてすらすら読める。ユーモアあふれる文章とオチで随所で吹きだすことうけあい。でも全体は、日本の文化の深さを切手というメディアから知ることができる。しかし美女切手をなめまわしたい(変態)。

日の本切手 美女かるた

日の本切手 美女かるた

I・ドイヨル&I・ゴフ『必要の理論』

 人間の必要概念についての哲学的な考察。ハートレーディーンの著作『ニーズとは何か』でも紹介されていたが、この分野の代表的な著作。

「身体的生存と人格的自律はどの文化どの個人的行為にとっても前提条件であるから、この身体的生存と人格的自律の二つが、最も基本的な人間の必要ー行為者が他の価値ある目標を達成するため当人の生活形態に効果的に参加することができる以前に、ある程度満たされているべきものーを構成する」とし、身体的生存と人格的自律の社会的条件(生産、再生産、文化的伝達、権威)を明記し、この必要の最低水準から最適水準までの充足を哲学的に基礎づけることを行っている。そのことで相対主義的立場を乗りこえることが試みられている。それが成功しているかは別で、議論的にかなり煩雑になってしまい後半はわかりがたい議論が並ぶ。ともあれ基本書が訳されたことは嬉しいことではある。

なお橋本努さんのブログでも取り上げられているがやはり後半の諸章には触れられていない。邪推だが、やはり本書の後半部分がどうも明晰ではないことがあるのかもしれない。
http://d.hatena.ne.jp/tomusinet/20141120

なお関連するエントリーとしてはここhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20150614#p2

必要の理論

必要の理論

ニーズとは何か

ニーズとは何か

橘木俊詔&根井雅弘『来るべき経済学のために』

 優しい語り口の対話だが、その内容は精神の貧困といっていい価値観によって形成されている。まず両者の同意している事項は、脱成長論であり、また「参照基準」問題を契機とした大学の教育のランクに応じた区別である。脱成長の文脈で、成長しない世界で「精神的な進歩」を目指す社会に両者ともに賛意を示す。その一方で、レベルの低い大学や学生には一般教養の取得ではなく、実務的な教育をめざさせるという「タガ」をはめて考えている。明らかに一般教養をレベルの高いもの、実務教育をレベルの低いものと断定している。価値の階層を自分達で勝手に設定して、それを成長の余地のない世界で実行しよういうことは、その価値の階層を押し付けられた人たちがそこから逸脱できない(しがたい)ことをも意味するだろう。優しい語り口に隠れた精神の暴力。それしかこの対話には感じない。

 

来るべき経済学のために: 橘木俊詔 × 根井雅弘 対談

来るべき経済学のために: 橘木俊詔 × 根井雅弘 対談