あなたを選んでくれるもの

監督した一作目で映画祭での賞も獲ったジュライだが、次作の脚本では悩みに悩んだそうで、その迂遠な打開策として実行した、地域コミュニティ誌に売買募集を投稿する人々へのインタビューをまとめたのが本書。ドキュメンタリーであるとともに、ジュライ自身の内面の移り変わりを表現したフィクションという一面もある。足首に発信機を取り付けられた保護観察中の男性へのインタビューの章で、ジュライは表面には現れない動揺を記している。彼女は親から偏見をもって他人に接してはいけないという倫理性の高い教育をはっきり受けたそうで、それからくる欺瞞の先触れさえも彼女は無視できずに、二重に思いをめぐらす。ほかのインタビューの折にも、ここにいる人間としての彼女/彼を、自分の表現のためのシンボルに変換してはいけないと自身を戒める。しかし、それでもインタビューイの一人を登場人物として映画の脚本の中に組み込むことを思いついた彼女はいくつかの紆余曲折の果てにそれを実行し、映画は作品として仕上がる。誰かを自分の中に“消化”することでしか、結局私たちは他者と触れ合うことができない。優しいジレンマが、光線がまろやかで色彩のやわらかい数々の写真とともに文面からにじみでてくる。