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2016-09-29

天野まつげとロマーシカ「あまんちゅ!」

よくぞここまで、と拍手を贈りたくなった。天野こずえの同名漫画を原作したアニメあまんちゅ!』の最終回を観た率直な感想だ。構成も良かった。海洋実習の神秘的な体験を経て、「てこ」と「ぴかり」が名実共にバディになったところで切り上げる締りのいいストーリー構成。しっとりとした物語を組み上げさせたら天下一品、さすがは総監督佐藤順一

立役者はもう一人いる。キャラクターデザイン総作画監督を兼任した伊東葉子だ。第1話から天野キャラを完全に掴んでおり、その立体感とディテールには思わず息を呑むほどだったが、終盤の10話、12話は圧巻の仕上がり。直前の話数で別の総作監が立ったことによって(念のため言っておくと9,11話も作画は良好だった)、普段、眺めている物の凄さを改めて目撃したというべきかもしれない。

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見た目に判りやすい特長は《まつげ》だ。濃い目のまつげと毛筋に入れるきめ細かいハイライト(天野まつげ)が伊東修正の証。寄りのカットの殆どにその処理が施されており、天野キャラの印象を深めている。原作通りではあるのだ。しかし、原作と同じかそれ以上に徹底しているところに意思が感じられる。それは天野こずえの描くキャラクターが持っている魅力の最大値を、手の入れられる限りすべてで発揮させてやろうとする意欲。作品への愛情あってこそだと思うけれど、これほどのものはなかなかお目に掛かれない。「よくぞここまで」だ。

「音」にも触れておこう。本作は音楽にGONTITIを起用。アニメでは映画『ぼのぼの クモモの木のこと』(2002)以来、久しぶりの当番だったが、自然を身近に感じさせるヒーリング感のある劇伴で、親和性の高さは折り紙つき。「てこ」こと大木双葉役・茅野愛衣の透明感あるモノローグ(ちょっぴりポエム調)とGONTITIの音楽によって、作品のイメージは固まった。そして音響監督を兼任する佐藤順一の感情導線をコントロールする手腕もすばらしい。たとえば、12話で流れた挿入歌「ロマーシカ」をかけるタイミング(いわゆるスポッティングの領分)を振り返ってみよう。ここではマスククリアの苦手な双葉がマスクをカパッと開いた瞬間に曲が流れ始める。

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冒頭の歌詞にある「開けた」に合わせたスポッティングだが、注目したいのはデフォルメのカットでスタートさせていること。そこにサプライズがあった。「ロマーシカ」の歌詞はまるで双葉の心の中を歌っているようであり、加えて情感に訴えるメロディーを持っている。だから、デフォルメされたキャラクターにこれは合うのか、という一瞬の疑問が生まれるわけだ。切実な心情を歌うなら、リアルな頭身で通した方がいいでのは、と。が、それも手の内、実習が終わり、双葉がダイビング部に入部したときの回想を経て、「ぴかり」と泳ぐ頃にはデフォルメとリアル頭身の比率が逆転している。最初から情感のマックスを持ってくるのではなく、徐々に上げていく。歌詞と絵と感情の昂ぶりを坂本真綾の清涼な歌声にシンクロさせて、《深く》する。感情導線の見えている演出だ。もちろん、作画の説得力があって初めて成立するコントロール。「画とぴったり合っていた」ということは作画の奮闘をそのまま意味する。ありがたくも贅沢なものを観た。『あまんちゅ!』は本当に「よくぞここまで」なアニメだった。

機会があれば、佐藤雅子回についても書きたい。とくに第2話後半の天野こずえ的大コマのコンティニュイティが……と、長くなりそうなので、また今度。こちらの「佐藤さん」もスゴイぞ。

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B01H0T2OH0TVアニメ「あまんちゅ!」オリジナルサウンドトラック
GONTITI
FlyingDog 2016-08-23

by G-Tools

2016-09-23

折り目正しいラブコメの流儀「この美術部には問題がある!」

殊勲の活躍、と言っていいはずだ。『この美術部には問題がある!』の及川啓監督は全12話中、絵コンテを10本(第10話のみ共同)、演出を2本、自ら担当した。工程が細分化され、絵コンテ「清書」の役職すら見かける昨今の深夜アニメでこの仕事量は異例だろう。ショートアニメではなく、30分枠のTVシリーズで達成したことにも驚かされる。

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その恩恵を最大限授かったのが、主人公とメインヒロインを兼ねる宇佐美みずきだ。本作は一にも二にもみずきの乙女な可愛さを描き出すことに心血が注がれている。みずきはとにかく「赤面」する、少女漫画的なキャラクター(腕っぷしは強いが)。照れたり、ときめいたり、リアクションに忙しい。そして片思いの相手であり、同じ美術部の内巻すばるの鈍感さにいつも空回りしてしまう。そんな愛らしい様子に「ラブコメ」を感受する。ラブコメは距離が縮まったように見えても、関係値がいずれスタートに戻るという“流儀”がある(終盤にラブストーリー化するケースも見受けられる)。『この美術部には問題がある!』は折り目正しく、その流儀に則ったTVアニメだ。進展しない様がいい。みずきが勝手に盛り上がったり、落ち込んだりする様がいい。作画の水準も高く、誤りのない高品質のラブコメ。及川監督の働きぶりには、頭が下がる思いだ。

本作のストロングポイントはそうしたラブコメの作法を修めた上で、作画・演出それぞれに尖ったバラエティ豊かなエピソードが用意されていること。

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たとえば、第3話のコレットの上履きを足だけで拾い上げるシーンから溢れ出るフェティシズム。「脚フェチ」は今やメジャーな属性とはいえ、これほど細かく芝居を入れ、作画されているものは稀だ。性的な関心に薄く、イノセントなコレットの脚にフェチを見出す業の深さもきわどさに拍車を掛けている。

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第7話「マスター伊万莉」も忘れがたい。コレットと伊万莉まりあが接近するこのエピソードのテーマは「中二病」。ハッタリの効いた演出で伊万莉の中二病をみせる。具体的に言おう。屋上で一人佇む(ポーズをとる)伊万莉のロングショットに対する「情報の無駄使い」が素晴らしい。映像表現は、基本的にカメラを引いていけばいくほどフレームの中の情報量が増える。にもかかわらず、ロングショットで捉えた伊万莉のカットには実体的な情報がほとんどない。要するに演出ギャグ(ハッタリ)なのだ。

部長と小山先生の孫娘・萌香の意外な組み合わせがハマッた第9話「もえさんぽ」も父性的な優しさが募る、味わいある一本。部長の世話焼きな一面とついつい構ってあげたくなる萌香の愛くるしさを授業中の校内探索というひとときのイベントにギュッと凝縮。まるで仲睦まじい親子を映すかのようなフレーミングが心憎い。

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そして最終回は雨の日の相合傘と勘違いから始まる、名字ではなく名前で呼んでいいかという問答の末、「元に戻った」話だった。まさしくラブコメの流儀通り。「そんな簡単には、呼ばせてあげないんだから」というみずきの答えは、恋愛と喜劇の反復を予感させる。まだまだこの美術部の問題は解決されそうにない。これから先も続くであろうその未解決の反復こそ、ラブコメの真骨頂だ。


B01I4XW908この美術部には問題がある! 1(Blu-ray初回生産限定版)
大塚舞
キングレコード 2016-09-28

by G-Tools

2016-09-20

「魔王城でおやすみ」でおやすみ

今年買って良かったものにランキングを付けるとしたら、1位はぶっちぎりで敷布団だ。

愛用の布団の脇が破れていた。これはマズイ、布団のダメージは人生のダメージ(やや大げさ)だと思い、すぐさま新調した*1ところ……世界が変わってしまった。ついでに買った枕(無印良品は枕カバーも豊富でよい)との相乗効果で、最近は快眠の毎日だ。ふかふかの枕と安眠を約束してくれる布団は最良の友人である。まちがいない。

良い友人はさらなる友人を連れてきてくれる。

枕頭の書。読んで字のごとし、枕元に置いておくほど好きな本という言葉。そして、その言葉に相応しい作品が現れた。週刊少年サンデーで連載中のコケティッシュでキュートな安眠系漫画、熊之股鍵次『魔王城でおやすみ』だ。

どこか見覚えのあるファンタジーの世界。魔王城に囚われの身となったスヤリス姫は「寝る以外、することがない」。かくして姫は最上の眠りを求め、魔王城を徘徊することになる……というミニマムな漫画。笑いを誘うのは姫の行動力だ。魔物から毛や針を採取し、魔王城のカーテンをむしる。アイテム庫に忍び込み、ハーブを持ち出す。すべては特製の枕(「可愛い」へのこだわりがポイント)を作るため――要するに人質でありながらやりたい放題している。それがおもしろい。野蛮きわまりない行為なのに、笑えてしまう。オチもいい。姫は蛮行を尽くした後、深い眠りを得る。世界の誰も咎めることのできない安らかな寝顔が必ず最後のページにある。安眠のためならどんな苦労もいとわない、アクティブな行動(攻撃)とあどけない少女の寝姿(寝相はちょっとわるい)、そのギャップが最大の魅力だ。

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そんな非の打ち所のない漫画なのだけど、ひとつ問題があった。サンデーの判型は枕元に置くには大きすぎた。だからこそ、コミックスになった『魔王城でおやすみ』は最高だ。話の繋がりが理解しやすく、物理的スペースもとらず、何より新調した寝具との相性が抜群。この世にこれ以上魔王的寝具自慢(どうだ、この布団の柔らかさは! 時間をすっとばしてやる。怖かろう!)したくなるコミックスはないだろう。枕頭の書とは本作のためにある言葉じゃないかと思えてくるくらいだ。

しかし、人間の欲とは恐ろしい。際限がない。友人を疑い出すのだ。「コイツは本当に最良の友なのだろうか……?」と。無印良品で満足していいのか。より高みを目指せ。自分の頭の形にあった世界にひとつの枕を作れ。スヤリス姫をリスペクトしろ――こんな悪魔のささやきが聞こえてくるようになったことが唯一の欠点と言えるかもしれないが、安眠のためなら甘んじて受け入れよう。今夜も『魔王城でおやすみ』でおやすみ。


4091273424魔王城でおやすみ 1 (少年サンデーコミックス)
熊之股 鍵次
小学館 2016-09-16

by G-Tools

*1ブリヂストン化成品株式会社製のちょっと奮発したもの