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2012-01-12

「ちはやふる」14話からみる、川尻善昭の「ちはやふる」

ちはやふる』第十四首 「はなよりほかにしるひともなし」

すでに作品の中核コンテマン、川尻善昭が全開だ。

PLUS MADHOUSE(プラス マッドハウス) 2 川尻善昭 (プラスマッドハウス 2)

PLUS MADHOUSE(プラス マッドハウス) 2 川尻善昭 (プラスマッドハウス 2)

「PLUS MADHOUSE2 川尻善昭」に詳しいが、氏は独特の美学を持つ人である。特にアクションに関して、興味深い言葉を述べている。

俺のイメージだと、あれだけ凄い奴らのチャンバラっていうのは、1秒に5回打ち込むんだよ。

1秒に5回ですか!

そう言ったら、三原君が「動きが繋がりません!」と言っていた。繋がらなくてもいいの。刀と刀を合わせた時に火花が飛べば、凄い奴らが戦ってると思えるから。1秒間に5回。そんなふうに音でタイミングをつけていく。それが自分にとって生理的に気持ちいい。そういったことが多分、骨格になっている。

(『獣兵衛』についての談)

動きの連続性を無視したカットをジャンプカットと呼ぶことがあるが、似ているようで少し違う。格好良いと思えるものを重視した、川尻イズムとしか呼べないものをベースにしたカット繋ぎ。『ちはやふる』の題材となっている競技かるたは、“音”に反応する“居合い”である。まさにぴったりな作品だろう。

だが、組み合わせの妙がある。14話で登場するクイーン・若宮詩暢のかるたは、川尻イズムへ真っ向から勝負を仕掛けるものだった。

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「音がしない」

「真空を飛ぶ、針のような 音のしないかるた」

“感じ”の良さでは一級の千早をして、音がしないと言わしめる高速の取り。決まり字が読まれるや否やというタイミングで、千早の聴覚を凌ぐ速さのクイーン。音がしない、取りにいく動きがみえないという繋がる繋がらない以前の問題を提起する。これまで川尻コンテ回は14話をのぞいて3度あったが、アクションの際、片鱗はみせるも“凄い奴らの戦い”からすると幾分セーブしていた。無論、テンポやスピード感を優先して、取りにいく動作を割愛し、取った後のポーズで動きを想像させる繋ぎ方はしていたのだけれど、川尻アクションの本領を披露するというより、巧さや協調を感じさせるコンテのように思えた。

そこへ来襲したのが、若宮詩暢回である。日本一の女性かるた競技者を存分に扱える話。A級選手のプライドを木っ端微塵に打ち砕く超一流選手。しかも彼女は音がしないかるたをするという。動きがみえないらしい。「若宮詩暢と川尻善昭……思いつくかぎり最悪の組み合わせ。おそらく未曾有の回になる」という奴である。組み合わせを聞くだけで興奮する。クイーンの動きをどのように描くのだろうか。千早の反応はどうする。音は、動きは、繋げるのか繋げないのか。

運命の一戦、序歌が詠み終わり、次の一音。

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音は、聞こえる。詩暢の動作音だけが。動きは、繋がっている。取りに行くまで1コマ、残りも全部1コマで、だが。芝居を付けた演出・細川ヒデキの絶妙な差配によるものか、アニメの最高速である1コマで繋げてきた。コマ送りなしで視認出来るのは、アニメ的動体視力A級の選手のみだと思われる。つまり、殆どの視聴者には繋がっているのだろうけれど見えない、という動きである。

コンテに何と指示されていたのかわからない。たぶん、とにかく速くだ。最早、これ以上の速度となると1秒に5回斬るしかない。

そして、時は動き出す。

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取った札が壁に当たり、落ちる頃、読手の声が聞こえはじめ、他の選手が取っている感覚。「若宮詩暢の世界」である。彼女の世界では、“決まり字”は聞こえない。聞こえたと知覚したとき、既に札が飛んでいる。第1話で千早が新と初めてかるたをした際、千早も決まり字の音に割り込み、動き出している様子が描かれていたが、割り込むことさえさせぬ、決まり字の音がしないという感覚の描写。川尻イズムの逆転発想である。決め手となる音でタイミングを付ける前に動作は終わっていて、後から付いてくる。火花を散らせる暇もない。

凄い。演出家もキャラクターも掛け値なしに凄い。これは千早と詩暢の対決だが、若宮詩暢と川尻善昭の世紀の一戦でもあると痛感した。

至上の一戦はまだ続く。

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画面奥から伸びてくる手、千早かと思いきや左利きの詩暢、次のカットで左に伸ばしたはずが即座に右へ。連続してラインを越えたようにみせて、その実、千早が居るべきポジションに詩暢が先んじて居座っているという「何が起こっているのかよく分からない」状態を一瞬の攻防に込めてしまう演出の独壇場。

手の打ちようがないとはこのことである。音は聞こえず、ポジションまで奪われてしまってはお手上げだ。

しかし、このままで終わらないのもまた、千早であり、川尻善昭という人である。

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集中力を取り戻した千早は、建物の外の音にまで聴覚を伸ばし、今度はきっちりカットを挟んで右から左へ、リベンジの1コマ返し。もう芝居を付ける方も1コマでしか動かす気がないように思える超高速の取り合い。屋外へ移したカットを途中で無理やり割り、横PANの速度に緩急を付けているのも面白い転換。詩暢の冷酷な緩さを急かすように。

そして最後はもちろん、「ちはやぶる」。

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読手が詠むより先に、音が生まれる前に「ちは」を認識する。音がしない、ということはない。音と同時に取っている。

手ブレのビデオカメラに視点を移してケレンを追加しているが、特筆すべきは千早が「若宮詩暢の世界」を凌駕していること。音が発せられる刹那に、千早の認識があり、詩暢の世界がある。他の選手とはまったく違う領域で戦っている。音でタイミングを付ける演出家が、音でタイミングを取るかるた競技者の真髄に迫った。これぞ音の前に「1秒に5回斬る」体現であり、川尻善昭の『ちはやふる』だ。お見事! 


余談だが、テレビシリーズのコンテに対して「PLUS MADHOUSE2 川尻善昭」で触れている箇所がある。

テレビシリーズの絵コンテは、自分のパワーを測る上では非常にいい作業なんだよ。きちんと演出されているコンテで、画を綺麗に描いて、何日で描けるか。だから『シグルイ』も正味5日くらいであげたと思う。

早いですね。

それぐらいで上がると、自分で安心するんだ。「ああ、まだ俺のパワーは、大丈夫だ」って。そうやって、たまに自分の力を測るんだよ。

直近の7話中4話でコンテを描いていることを考えると、大ファンの自分も安心出来ます。「ああ、この方に衰えという言葉はないんだな」って。

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