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2015-06-19

「響け!ユーフォニアム」の生々しさ、その正体

アニメ放映終了後にまとめて読もうと思っていたが、我慢しきれず『響け!ユーフォニアム』の原作小説に手を出してしまった。

アニメと比較しながら読み進めていくと、これが面白い。原作1巻を1クールかけてアニメ化しているのだから(正確には短編集の挿話も拾っている)当然かもしれないが、アニメを再び観直すと「これはオリジナルだったのか!」という描写が頻出し、膨らませているポイントの多さになかば感心してしまったほど。たとえば、第5話「ただいまフェスティバル」で印象的だった久美子と麗奈の帰り道(麗奈が髪をかき上げるあの場面)も追加されたエピソードだ。そもそも、原作の久美子は麗奈のことを最初から名前で呼んでいて、距離感に若干の違いがある。アニメは麗奈との関係性を強調するためだろう、少し“遠い”ところからスタートしている。その甲斐あって第8話で「麗奈」と名前を呼ぶ特別な儀式が生まれたわけだ。名字と名前、どちらで呼ぶのか。「さん」付けは? そうした細かいけれど、重要な青春の機微、生っぽい距離感にアニメは力点を置き、掘り下げようとしているのだとわかった。

【TVアニメ化】響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ (宝島社文庫 『日本ラブストーリー大賞』シリーズ)【TVアニメ化】響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ (宝島社文庫 『日本ラブストーリー大賞』シリーズ)
武田 綾乃

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考えてみれば、同じ京都アニメーションが手掛けた『たまこラブストーリー』もそうだった。

思春期の揺れ動く心情をつぶさに映し、まるで彼女たちのドキュメンタリーを撮っているかのようなアニメーション。『響け!ユーフォニアム』と地続きに感じるそれは、シリーズ演出山田尚子目線が多分に含まれているからだろう。『たまこラ』よりも一段湿度を上げた人間関係の描写は重々しく、時に生々しい美醜を描くことから逃げない。その「生々しさ」の正体がずっと言葉にできず、気に掛かっていた。そこにこそ、リアル/リアリティといった言葉に置き換えられない何かが潜んでいるのではないか、と思っていたからだ。おそらく、それは目の前にそのキャラクターが存在するかのように扱う手つきにある。アニメだけど、アニメじゃない。生き生きと、悩み葛藤する青春の只中にいる高校生たちを撮った一本の記録映像。山田尚子演出のフィルムには、そんな気分がある。被写界深度を意識した実写的な画面作りもその一環と言えるし、たとえば何度も登場する「川」や「電車」を見てみよう。何気ない情景に思える川や電車のシーンは変化を示すとき、あるいは分断/接続の気分を出すときに使われる、ドラマの進行する場所なのだ。久美子が毎日乗る電車、帰りがけに立ち寄る川べり、特別でもなんでもない場所のドキュメントが、つまりは青春だという目線演出されている。

もちろん、『響け!ユーフォニアム』の生っぽさの要因は他にも挙げられる。

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「3D美術」という聞き慣れない役職もそうだ。ある種のミニチュア的とも言える背景美術に、“空気を入れて”撮影している。緻密で奥行きのある、しかし実験的な雰囲気の美術は本作特有のもの。そして多くの人が感じているであろう、黄前久美子役・黒沢ともよの演技。話す相手によって温度を微妙に変える生っぽい芝居は、並々ならぬ理解度を端的に示したものといっていい(アニメージュのインタビュー記事は必見)。アニメの久美子像はあの低く流されやすそうでいて、芯のある演技で印象付けられたはずだ。作画の貢献もある。全話数に参加している功労者、楽器作監・高橋博行。管楽器の艶かしい光の加減。まるで80年代のメカ作画のようにさえ見える管楽器の光沢は、「吹奏楽部モノ」を色づける大きな特徴になっている。

一方で、原作から逆に「引き算」をして視聴者に投げかける感情もある。

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第2話で葵が久美子に投げかけた「アリバイ作り、かな」という台詞。原作の葵は久美子の「アリバイ?」という聞き返す言葉を受けて、「辞めるときにさ、意見は前から伝えてましたって言えるやん」と説明しているが、アニメにその説明はない。この引き算が絶妙だった。台詞ではなく絵で胸中を語り、意味深に振って引く。絵で描けるなら、台詞を削ってもいいとする判断は実に“アニメ的”。説明しない方がかえって生っぽく感じてしまうのだから、アニメと小説、文法の違いは面白い。

アニメ的と言えば、コメディタッチな表情を意外に使ってくる点も見逃せない。

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本作のシリアスとギャグの振れ幅は存外に大きい(特に雪村愛演出回)。しかし慎重に扱っていることは明らかで、何故なら過度なコメディは「生っぽさ」を薄れさせてしまう。やり過ぎないように、可愛らしく愛嬌を感じさせる程度に振っている。もしくは京都アニメーション的な文脈の上で――あの着ぐるみがラインだ。石原立也監督の味は、この辺りかもしれない。大胆なコメディリリーフだったと思う。もっとも、個人的に一番「アニメだ!」と思ったのは、第5話のAパート終わりのカット。麗奈と別れた後、久美子がカメラの方を振り向く際のポージングに注目。時折、ちょっとミーハーな事をやる三好一郎イズムが大好きだ(監督・シリーズ演出らの修正もあり得るが)。

最後に原作の魅力を語っておこう。ドロドロした部内の人間関係を生々しく、経験的に書く半面、瑞々しくも切ない友情と恋愛の機微をしっかりと描き、青春スポーツ物に通ずる熱量も持っている。少女漫画的なニュアンスを含め、『ちはやふる』に近いかもしれない。「本番」の緊張感は大事な「試合」と同種のものだ。2巻以降、特に第3巻は圧巻。1巻も充分面白いと思っていたけれど、いやいやどうして。『響け!ユーフォニアム』の真価はその先にあった。もし続きをアニメ化する機会があるのなら、夏紀先輩に泣かされること受け合いのあの場面を、アニメでみたい。


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ポニーキャニオン 2015-07-15

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asxasx 2015/07/15 23:16 >もっとも、個人的に一番「アニメだ!」と思ったのは、第5話のAパート終わりのカット。麗奈と別れた後、久美子がカメラの方を振り向く際のポージングに注目。時折、ちょっとミーハーな事をやる三好一郎イズムが大好きだ(監督・シリーズ演出らの修正もあり得るが)。

すみません。久美子のポーズは何かと同じなんでしょうか?無知で申し訳ないのですが、もしよければお教え下さいませ。

tatsu2tatsu2 2015/07/16 15:37 説明が足りませんでしたね。
これは麗奈と別れてひとりきりになっているのに、「まるでカメラを意識しているかのようなポージングをすること」がアニメ的で良いなあ、という意図で書きました。アニメ的なサービスですね。敢えて関連性の高い類似のポーズを探すなら、『CLANNAD』の風子に通じるものがあるかもしれません。
とはいえ、あくまで自分の印象なので気軽な捉え方をして貰えると幸いです。

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