「宇宙でいちばん速い時計」

「ピッチフォーク・ディズニー」も良かったけれど、フィリップ・リドリ−脚本、白井晃演出、松井るみ美術、この黄金のトライアングルはなかなか信頼できそう。好き嫌いは別れるだろうけど私は好み。今回は通常の客席+舞台とは組み方を変えていて、いつもは客席上手側の位置に横長の舞台。背もたれのないベンチシートのせいで観劇前にちょっと気分が萎えそうになったけど(腰痛の爆弾抱えてる身にはコレはツライ……)でも作品はよかったので意外に疲れなかった。前半の丁寧な演出のおかげでクーガーにも感情移入できるし(でももう少し愛嬌あるともっと良かったかなぁ)。ていうか、白髪とか目尻の小ジワとか、相当身につまされるレベルでの「老い」に対する恐怖なので、ちょっと他人事ではない共感度だったりして。ああ、紫外線顔に当てたら肌に悪いよ、クーガー! なんて思ってしまう。それにしても鈴木一真氏&小栗旬氏の絡みのシーン(ネタバレにつき白字、選択して文字色反転して読んで下さい→フォックストロットにエロ本を見せて適度に興奮した所でクーガーがズボンのジッパーを降ろして手をつっこみ、フォックストロットが思わず声をあげてしまう場面のこと)は、どう考えてもキャプテン(浅野和之氏)が大事な話をしているので、なんとかそっちに耳を集中させて目は下手のクーガー&フォックストロットを観なければいけないという、ある意味観客の集中力をためされるシーン。「ああ、絶対コレあとで伏線になる大事な話だ!」と解ってはいても、ついそんな絡みが下手で進行していたらそっちを観てしまうじゃないか。案の定、この舞台を観た女子のみなさんに感想を聞くと、誰も浅野キャプテンの話なんか聞かずに下手に夢中になっていたらしい。おいおい、それじゃラストのイイせりふが台無しじゃないか……。
それにしても吉川ひなのさんの降板はちょっと痛い……。決してご本人の責任ではないにせよ、富浜薫さんでは設定上でかなり致命的な部分がどうしてもあるので(ネタバレにつき白字→だってクーガーにむかって終盤に「あんた16歳とか言ってるけど本当は30歳でしょ!」なんて真相を突きつけるシーンがあるのに、「いや、あなたが16歳ってのも相当に(以下略)」と思ってしまうんだもの……)、そこは大人になって想像力で補う必要性があったり……。ああ、ひなのちゃんで観たかった……。あるいは、リーディング公演の時みたいに新谷真弓さんにお願いできなかったのかなぁ。残念。あとはクライマックスの乱闘シーンがちょっとヌルかったのが残念だなぁ。まぁ代役の件もあるからあまり責められないけど、もうちょっときっちり段取りをつけて迫力ある乱闘にしてほしかった。でもまぁ、おおむね満足な舞台。もう一回みてもよかったな。

詳細→ http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/03-2-4-27.html
[作] フィリップ・リドリー
[演出] 白井晃
[出演] 鈴木一真浅野和之/富浜薫/小栗旬草村礼子

作品解説
物語の独特な世界観、秀麗な演出、印象的な舞台デザインなどが大きな話題となり、昨年の各演劇賞を賑わせた『ピッチフォーク・ディズニー』。その劇作家、フィリップ・リドリ−作品の第2弾として、前作と同じく白井晃が演出を、松井るみが美術を手掛ける、この秋注目の作品です。

参考(リーディング公演の時の詳細)→http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/02-2-12-1_0.html

ストーリー
かつての毛皮工場の上に位置する部屋を舞台に繰り広げられる一幕劇。30歳の美しい青年クーガーは、今日もまた19歳のバースディパーティを開こうとしている。相棒の男キャプテンは、好きなクーガーのためにせっせと準備を手伝う。呼んだゲストはクーガーが目に付けた美しい青年一人だけ。ある罠を用意し、クーガーは青年をモノにする計画だった。ところが現れた青年は恋人を連れて来る。そこから筋書きは一転し、人間の狂気と残虐さが浮き彫りにされるラストシーンへと一挙になだれ込んでいく……。