「"萌える国語辞書"特集」が面白かった!

TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」の特集コーナー
建国記念の日スペシャル! "萌える国語辞書"特集 feat.サンキュータツオ
が面白かった。
・・・建国記念の日だったのか。すっかり忘れてた。(爆
土曜日に祝祭日が当たると、なんか損した気分になりますね。
建国記念の日といえば、堀井憲一郎さんの『ねじれの国、日本』がこれをネタ(?)
にしてましたね。あれもなかなか面白かったなぁ。

二月十一日は「神武天皇橿原宮で即位をした日」である。
調べればすぐわかる。
(中略)
あっさり言うと、ウソである。神武天皇即位がではなく、日付が、だ。

ねじれの国、日本 (新潮新書)


それはさておき。
TBSラジオ荒川強啓 デイ・キャッチ!」とイメージカラーが紫色でおなじみ、
米粒写経サンキュータツオさんが、実務と同様に講師役となって国語辞典に
ついてわかりやすく面白く講義してくれました。


第1部 辞書萌えとはなにか?

よくよく考えれば、トータル1億部以上売れている大ベストセラーといっていい
国語辞典。一般的に、客観的で無味乾燥的な内容に思える国語辞典にも、それぞれ
色合いや個性、いわゆるキャラクターがある。その中で、正しい日本語の規範と
なるべきだという考えと、今生きている言葉を採用していこうという考え方、
哲学的に大きく2つがあるんだ、とサンキュー先生。
もとは1891年にできた日本初の国語辞典『言海』(大槻文彦 編纂)があって、
各出版社がこれをどのように解釈し、どこを特化させていくかによって方向性が
違ってきて、先の2つでいうと前者の代表が岩波(書店)系で、後者の代表が
三省堂系ということになるらしい。

おいらが国語辞典に最初に出会ったのは、父親が背表紙をセロテープでつぎはぎ
しながら使っていた、索引部分の側面の紙も茶色くなった岩波国語辞典でした。
親父に怒られないように丁寧に丁寧に、でも壊れやすそうであればなおのこと
引いてみたくて使ってました。でやっぱり、堅物なイメージでした。
ところが小学3年の時、「しゃれ」という項目を引いてみて
「例、へたなしゃれはやめなしゃれ」
が出ていたのに仰け反りました。
つ、つまんねぇ〜♪
お固い優等生にわずかながらほころびを見つけた気がしたんです。
思わず親父に報告、親父は大事にしている岩波国語辞典を子供から小バカに
されてる気がしたのか、それでも国語辞典を読むなとも言えなかったからか、
複雑ぅーな顔をしてました。悪かったね、親父。(-人- )

岩波国語辞典の「しゃれ」はサンキュー先生も取り上げてましたのでもしかしたら
有名な話なのかもしれませんが、でも「こんなしゃれはやめなしゃれ」って仰って
ました。おいらの記憶違いかなぁ?


岩波系と三省堂系の違いに関連して、いくつか勉強になったことがありました。

例えば、学校で習った形容動詞について、サンキュー先生の業界(芸人の、
ではなく日本語学の)ではいまさらそんな品詞のことをいう人はいないということ。
いわゆる学校文法は別名「橋本文法」と呼ばれ、橋本進吉という人が作った。
そこでは例えば「静かだ」は形容動詞としているが、それって「静か+だ」、
名詞+助動詞じゃん、というのが現在の流れになってきているんだそうです。
でも、国が橋本文法を採用しているのでおおっぴらには批判しないんだけど、
でもでも、形容動詞って古いよね、という感じなんだそうな。
で、岩波国語辞典はちゃんと形容動詞を打ち出している、なぜなら橋本進吉
肝いりで編纂されたのが岩波国語辞典だから。


シェア全体の53%を占めているという三省堂の国語辞典には、明解国語辞典、
三省堂国語辞典新明解国語辞典があります。実はターゲットが異なり、それぞれ
高校生までの学校で使う国語辞典、大人になってから使う国語辞典、そして
表現するときに使う国語辞典、という意味合いがあるんだということ。
(たぶん三省堂国語辞典が高校生までを対象に、に該当すると思われます)
いや、知らなかったー。
岩波系の橋本文法と対極にあるのが三省堂系の時枝文法、これは早稲田の日本語
学の創始者である時枝誠記が「文法というものは書く時に必要なのであって、
文法を目的として教えちゃいかん」という考え方(言語過程観)によるものであり、
だから用例を積極的に採用しよう、というのが三省堂系の基本姿勢なのだそう。
ちなみに「表現のための」というのは、用例を示す際により詳しく載せているのと
特に新明解国語辞典の場合はその語釈にこんなニュアンスまで加えて欲しい、と
示してることを指しているそうです。
手元にある新明解第4版で「ちと」を引いてみると、

ちと
「ちょっと」の、やや改まった表現。
(1) 軽い気持で、相手にある動作を仕掛けたり そうしてみたらどうかと相手に
  勧めたりすることを表わす。「どうだ君も画らしい画をかこうと思うならー
  〔=試しに〕写生をしたら・じつはー伺いたい儀がありまして・ー〔=いつでも〕
  お出かけ下さい」
(2) ※以下略

確かに「どうだ君も」があると、ああ、そういうキャラのおっさんがいかにも
使いそうだなぁ「ちと」って。と思いますもんね。
これはもう、用例がより丁寧というより、いい味出してる、の域です。


新語は死なないと国語辞典には載らない、ということ。
後々の人が本を読んだ際に「ナウい」って書いてある、この言葉は何!?という
ときに国語辞典を引くと出ている。そういう使い方も国語辞典の役割の1つ
なんだそうです。だから今使われる言葉は現代語辞典に載ればいい。
・・・そっか、現代語辞典もちゃんと役割があったんだ。


2大派閥以外で紹介されたのが、集英社の国語辞典。横組みを採用した辞書と
いうことで「(辞書界の)帰国子女キャラだと思ってる」と言われてました。
外来語も多くなってきているため、原語の表記をする際に横組みの方が読み
やすい、ということらしです。
で、Amazonを見てみたら、同じ内容で縦組みのもあるんですね。
しかも商品ランキングを見ると、縦組みが国語辞典部門で52位なのに対し、
横組み版が274位。ヨコ組みはまだまだ一般的に認知されてないのかも。

あと、サンキュー先生が「日本語学界のグレーシー一族」と読んでいた
金田一春彦金田一秀穂親子で編纂した、学研現代新国語辞典。
いろいろ説明がありましたけど、最終的にグッときたのが金田一春彦先生と
秀穂先生の似顔絵イラスト入り!って・・・。


第2部 辞書萌えな人々列伝

新明解国語辞典の主幹・山田忠雄について。
サンキュー先生によると、山田忠雄先生は国語辞典の著作権について意図的に
考えていたという。
文部省(当時)が過去、国語辞典には著作権はない、といったことがあり、
これに学者が激怒したという出来事が会ったんだそうです。
文部省曰く、「客観的な記述の国語辞典は著作権フリーとする」と。
じゃあ、うちの辞書から引いてみろよ!と、あえてクセのある語釈をしていった
という経緯があったらしいのです。
新明解初版の序文でこのような記述があるそうです。

 「他の国語辞典はいわゆるパッチワークの最たるもの。芋辞書の域を出ない」

さらに初版のパッチワークの語釈には「創意のない辞書編集に例えられる」と
あるんですって。w(°Д° )w

一方、三省堂国語辞典はまたまるで色合いが違っていて、こちらは明解国語辞典を
実質独りで編纂した、金田一京助の教え子であった見坊豪紀が編集主幹を務めた。
見坊先生が新聞や雑誌や放送媒体などで実際に使われているものから用例を取り
出した「用例カード」は、三省堂国語辞典が4版になる頃には145万枚に達して
いたという。つまりは時枝先生の用例主義を踏襲して、三省堂国語辞典の基本
スタンス“用例主義”を作ったのが見坊先生だということですね。

岩波系は演繹法三省堂系は帰納法、といえるかもしれません。


これの後のコーナーでしまおまほさんも言われてましたけど、新明解国語辞典
異色さを知ったのは『新解さんの謎』(赤瀬川原平)でした。

新解さんの謎 (文春文庫)

新解さんの謎 (文春文庫)

この本が単行本化されたのと同じ1996年の、2月に山田先生は亡くなられており、
つまり新明解国語辞典でいうと第4版までが山田先生の“味”が前面に強く押し
出されている、と考えていいのでしょう。
なので、ついつい第5版以降を買わずにいました。
でも今回の講義を聞いて、新解さんに限らずいろんな国語辞典を読んでみたいなと、
素直にそう思いました。特に、オススメされてた基礎日本語辞典は一度読んでみたい。
文字通り、その言葉の基礎となる本質的な意味を丁寧に説明してくれる辞書だ
ということでした。

基礎日本語辞典

基礎日本語辞典


最後の最後で、しまおまほさんに「頭良すぎるのも大変そうだなって(笑)」
と一蹴されてたのがなんとも可哀想な、サンキュータツオ先生でした。


※以下、蛇足&意地悪文
「ミューズの週刊ぼんやりニュース」でしまおまほさんが『新解さんの謎』の
話をしたときに「僕もそれ、読んでたんですけど」と宇多丸さん。
なーんだ知ってんじゃん。
なのにサンキュー先生が新明解国語辞典での「恋愛」の語釈を紹介したときに
初めて知ったかのようなリアクションしてあげるあたり、さすがプロ!