原発推進

 
宇宙戦艦ヤマト2199では、ヤマトの航海予定に冥王星基地攻略は入ってない。
なぜか?
既に大量の遊星爆弾が落ちており、今更止めても大差無いからである。
 
さて、今日本では原発撤廃が話題になっている。
社説にこんな意見が載っていた。
# (政府は)使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル政策の再処理事業は
# 当面継続する方針も打ち出した。原発ゼロとは明らかに矛盾する内容だ。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/404277.html
 
核燃料は、かなりの熱と放射線を発生するため、そのまま保管するのは危険である。
このため、再処理工程で(比較的)低レベルの放射性物質を抽出して保管する。残った高レベル放射性物質原発で燃やし、低レベル放射性物質に転換するのである。
上記社説だと、原発を撤廃するには、高レベルの放射性物質をそのまま保管することになり危険である。
放射性物質の最も安全な処理は、原発で燃やすことである。
 
既に世界には大量の放射性物質が在る。今更止めても大差無いのである。
原発を撤廃したいならば、現存する核燃料を処理すべきである。
そのためには原発を稼動させるしかない。
これは都合の悪い事実である。
 
原発が即座に停止され、残った核燃料は魔法のように無害に処理される。
必要なエネルギィは、これまた魔法のように再生可能エネルギィから供給される。
これが都合の良い理想である。
だが、現実世界は、そんな都合良くできてない。

放射性物質は、数十万〜数億年間放射線を出し続ける。
数万年のオーダで管理することすら、人類には出来ない。
千年も経たない内に戦争・飢饉などで管理は崩壊するだろう。
その前に処理しなくてはならない。
 
処理する技術については、また別途。
 

不都合な真実

不都合な真実

分析者―ヤマト2199 another story―

 
『真田君、艦長室まで来てくれ』
パレスから戻った私に、緊急呼び出しが入った。
艦長室に着くと、そこには艦長と徳川機関長が待っていた。
「これを見て、意見を聞かせてくれ」
小型のホロメモリを渡された。
 
3分弱の動画だった。だが、その内容は驚愕に値した。
「実行の可能性が高いと考えます。直ぐに交渉を行うことを進言します」
動画の中ではスターシャが−地球を救ってくれるはずの女神が−3つの方法を調べていた。
1つ目は、ヤマトを沈める方法
2つ目は、可能ならば乗員の命を救う方法
3つ目は、自らの命を絶つ方法
 
うかつだった。
艦長と2人、輸送機に乗りパレスに向かう間、様々な事実が頭の中で繋がっていった。
 
思えば、ガミラス艦は弱すぎた。
波動防壁に弾かれる攻撃。
波動砲はもとより、ショックカノンすら防ぐことが出来ない防壁。
これは、ヤマトのエンジンに比べてガミラスのエンジンが非力であることを示している。
否、ガミラスのエンジンが非力なのではない。ヤマトのエンジンが強力すぎるのだ。
 
ヤマトのエンジンは、扱いを間違えれば宇宙を破壊しかねない。ガミラス艦が何隻あるかは判らないが、ヤマトが沈めた艦だけでも100は下らない。ヤマトと同レベルのエンジンがそれほど多く稼動していたなら、確率的に宇宙が崩壊していないはずが無い。
 
ヤマトの次元波動エンジンは特別なのだ。
そして、そのような絶大な力を他種族に渡す文明が、長続きできるはずが無い。
しかしイスカンダル文明は数万年の歴史を持っている。
 
ならば、
「初めから、帰さないつもりだったのだろうな」
私は、薮が収集した情報を確認しながら、女神の意図を推測した。
 
ヤマトを使い、銀河系内のガミラス艦を沈める
イスカンダルに着く前に、ヤマトはガミラスに沈められる
大マゼラン銀河の崩壊と共に、ガミラスは滅亡する
これにより、全ての波動エンジンを排除する
 
その意図通りにならなかった要因は、
波動砲か…」
宇宙を破壊しかねない兵器など、戦争を行わなくなって久しいイスカンダル人には想像できなかったのだろう。
 
パレスに到着すると、古代守が驚いた顔をした。
「真田、沖田さんも… 真田、お前さっき戻ったばかりじゃ…」
「古代、スターシャさんは何処だ」
言葉を遮って、問いただす。
「あ、ああ。進が持ってきてくれた俺の銃を調べたいと、部屋に…」
 
沖田艦長と視線を合わせると、私は部屋へ走った。
果たしてそこには、自らの喉元に銃を突きつけた女神が居た。
間に合ってくれ!
私は銃口に向かって跳んだ。
 
銃が放射した衝撃波は私の義手を破壊したが、幸いにして女神の自殺は止めることができた。
「なぜ…なぜだ、スターシャ…」
うろたえる守の横で、イスカンダル女王はただ視線を伏せただけだった。
「応えなくても結構です。我々は知っているのですよ、貴女が我々を殺そうとしたことも」
「さ…真田ァッ 貴様、何バカな事を言っているっ!」
古代守に掴みかかられたが、身体の多くが機械化されている私を止めることはできない。
 
だが、私は気づいていた。
私は間に合わなかったのだ。
ヤマトは、もう二度と飛ぶことはない。
 
「命を絶とうとしたということは、既にあの船は飛べんのですな」
沖田艦長が、私の後を引き取る。
「本当に…ご存知なのですね…」
「全てを終えた後でなければ、命を捨てようとはなさらんでしょう」
 
「せめて、コスモクリーナーだけでも地球に送ってくださらんか」
そう、今となってはそれが最善の方法だ。
「残念ですが、波動エンジン搭載艦は全て廃棄しました。もうイスカンダルには飛べる船はありません」
 
「待ってください」
突然、声が割り込んだ。
「私が地球を離れる時、ガミラス製波動エンジンによる人類存続計画が進行していました」
聞きなれた声色、見慣れた姿。だが、話し方が違う、身体の動かし方が違う。
 
「森君…なのか?」
「第二イズモ計画。私…を含め、ヤマト乗組員はその計画に関与していません。しかし、ある種のミスがあり、私は情報を入手できていました」
沖田艦長が目を閉じ、ゆっくりと首を振った。
「わしは、その計画の存在すら知らなかった。だが、もし知ることができる者が居るとすれば、君だろうな」
 
「すでにガミラス製波動コアの解析は終わっていました。地球人類は何があっても諦めません。必ず波動エンジンを起動するでしょう」
コアさえ解析できたのなら、ヤマトの波動エンジン設計図を参考に造ることはできるだろう。
そして、座して絶滅を待つよりは、どのような不備があろうと起動させるはずだ。
「地球製コアに不備が有るかは判りません。でも、もし不備が有れば銀河系も失われます。私たちにガミラスと同じ過ちを繰り返させないでください」
 
「もう…止められません。波動コアには、既に自壊と、炉心を消失させるよう指示を出してしまいました…」
『申し訳ありません、女王スターシャ。その指示はまだ実行しておりません』
深い知性を感じさせる声が響いた。
ドアを開け滑るように入ってきたのは…
 
「アナライザ?」
静かに女神の前で跪き、頭を垂れる。
赤い円筒形の、いつもはユーモラスなユニットが、その時は鎧を纏った騎士のように見えた。
『お会いできて光栄です。私が波動コアです』
 
半年前に波動コアを起動した際、そこに隠されていた仮想人格が目覚めた。
その仮想人格が外部I/Fとして選んだユニットが、AU-09“アナライザ”だった。
『私はこの地まで、彼らの仲間として旅してきました。だから自信を持って言えます、彼らはガミラスとは違います。どうか、機会を与えてやって下さい』
「今、ここに居る人たちは違うかも知れません。でも人は変るものです」
『ええ、だから私は永遠に彼らを監視し、万一の時は、私が人類を滅ぼします』
 
女神は微動だにしない。
だが私の機械化された目は、彼女の血流が速くなっていることを捉えていた。
『それだけの力があの船にはあります。ナノマシンによる自動修復を使えば、数万年の時を経ても滅びることはありません。お願いします。私は…』
この時のアナライザは、人以上に人間らしかった。
『彼らに、賭けてみたい』
 
「分かり…ました。」
スターシャが呟いた。
「銀河系の運命、イスカンダルの罪を、貴方に預けます」
彼女は、アナライザ…否、波動コアに歩み寄り
「炉心消失は取りやめます。貴方は私の代わりに…イスカンダルの罪を見守ってください」
そして“彼女”の前に立つと、微笑んだ。
「森雪さん。貴女のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

彼女の瞳が揺れ、沖田艦長の視線を捕らえる。
艦長が頷くと、彼女の身体に鋼の芯が入った気がした。
「私の名は――――です」
 
その名前は極秘のため、ここに書くことはできない。
残念ながら私の記憶の中にそのような名前は無く、調べることも禁じられている。
ただその名を聞いた時、古代守が、死体が起き上がりでもしたかのように目を剥いていた。
今度、ヤツに思い出話をさせてみようと思う。
 

続きを読む

技術屋―ヤマト2199 another story―

 
「藪主任、上陸許可が降りたら何処に行きたいですか?」
IHIからの出向組−通称石川組−の後輩から以前の役職名で聞かれた時、考えなしに答えたのは失敗だった。
「ダイアモンド大陸だな」
 
「え…」
「やっぱ、そうだったのか…」
「…おっぱい星人
思い出した。
昨日、こいつらが原田看護師を捕まえて同じ質問をしていた時、彼女が答えたのがダイアモンド大陸だった。
 
彼女は宝石に惹かれてそう言ったのだろうが、俺は炭素の塊なんかに興味は無い。
もちろん彼女にも興味なんか…いや、それは少しある…
だが、俺がダイアモンド大陸に行きたいのは、別の、立派な理由がある。
 
先日、保安部の伊藤二尉と呑んだ時、聞いた話だ。
ダイアモンド大陸に研究施設がある。
そこに行けば、次元波動エンジンの詳細な理論・技術が得られるはずだ、と。
ただ、これは秘密事項。余人に言うことは出来ない。
 
早く言い訳しないと、おっぱい星人の烙印を押されてしまう。
でも、どう言えば…
モゴモゴと考えている間に、やつらの視線はみるみる冷たくなっていった。
 
まぁいいか。
イスカンダルに到着して2日目、通常勤務に戻り、数日したら上陸許可が降りるという噂も広がり、なにより宇宙服なしで外に出られる喜びに、ここ甲板は明るい笑い声が耐えなかった。
だが、そんな和やかな雰囲気をぶち壊す問題が、階段を駆け上がってきて、俺の襟を掴み上げた。
 
「お前ら! こんな所でなに油売ってるんだ!」
戦術科の艦長代理クンだとわかったのは、頬に一発貰った後だった。
「お前らが油を売ってる間に、徳川さんが一人で機関の点検をしていて…倒れたんだぞ!!」
殴られたショック、艦長代理や戦術科への反抗心は、その一言で消え失せた。
おやっさんが…倒れた?
 
軍属になって嫌なことも多かったが、徳川機関長に出会えて、あの人の下で働けたのは幸運だった。
たたき上げの軍人だが、民間出の俺たちも仲間と思ってくれ、何よりも一人の技術屋だった。それも一級品の技術屋だ。
 
現代のエンジンは、量子力学と機械工学そして電子工学の融合体だ。
そこに経験や勘など入り込む余地は無い、そう思っていた。
本来、無いはずなのだ。人の感覚など現代のシミュレーションや各種センサに敵うはずが無い。なのに何故か、おやっさんの勘はシミュレーションより当たるのだ。
 
「とにかく!」
艦長代理の叫び声で我にかえる。
「大至急、機関の点検を済ませろ! 終わり次第、俺の所に出頭しろ」
機関のチェックなんか休憩前に済ませてる。そう言い返せばよかったと思いついたのは、機関室に戻ってからだった。
 
おやっさんの様子が心配だったが、出頭が先だ…と思ったら、出頭先には伊藤しか居なかった。
「艦長代理は呼び出されて、恋人と一緒にイスカンダルに向かったよ」
軍人なんて、こんなもんだよ。
 
伊藤からドライに処罰を告げられた。
イスカンダル駐留中、石川組は非番取り消し、無論上陸も不許可。当該期間は機関室清掃のこと。
「甲板で休憩してたのは機関長了解の上だ! そもそも、なぜ甲板に居なかったメンバまで処罰の対象になってんだよ!」
「そうかも知れないが、艦長代理の指示だからね。僕には変える権限が無いんだよ」
 
機関室に戻って、石川組のメンバに処罰内容を伝えたところ、案の定爆発が起きた。
だいたいは俺が伊藤に言ったことと同じ内容だったが、一人、別のことを言い出したやつがいた。
「ひょっとして、南部重工の差し金なんじゃないか?」
 
この艦は多くの部分が南部重工業製だが、エンジンだけはIHI製だ。
今後の人類を左右するコア技術、波動エンジンはIHIが握っている。だが、南部重工が黙って見ているはずが無い。
そして艦長代理クンの直下には、南部重工の御曹司が居る。
 
「なぁ、おやっさんの容態はどうだ?」
話を変える必要もあって、一番の心配事項を口にした。
とたんにヒートしていた奴らの肩が下がる。
「判らないんだ」
「原田ちゃんに聞いたら面会謝絶だって、ドア閉められちまった」
「やっぱり、波動エンジンの放射線で宇宙病になったんじゃ…」
何をバカなことを
そう言えない事情が波動エンジンにはあった。
 
理論も不明、制御方法も不明、南部重工には言えないが、ただ設計図に従って造っただけだ。
おまけに耐久性も不明、人体への影響も不明、ときたもんだ。
 
なのに戦術科は、簡単に出力120%を要求してくる。
確かに各部品は、20%以上の余裕を持って作られている。だが、本当に余裕が有るのかどうか、判っている者など人類には1人も居ない。
想像と憶測を積み上げて100%を設定してるだけだ。
120%まで出力を上げて本当に大丈夫なのか、誰にも判らない。
機関室から離れた第一艦橋にいる奴らは、俺たちの不安など他人事だろう。
 
不安と不満と猜疑心、その3つに挟まれた俺たちに更に爆弾が落ちた。
「おい、これ見ろ!」
石川組の1人が発見した船務科の未公開ファイル。そこには「機関科は別途指示あるまで、戦術科の指揮下に入るものとする」と書かれていた。
 
おやっさんが倒れたら、山さんが後を継ぐ。
俺たちにしてみれば、疑う余地もなかったことだ。
「何で戦術科の指揮下になるんだよ!」
「南部の差金だ! それしか無いじゃねぇか」
「あの艦長代理、気でも狂ったんか?」
「俺はもう、あいつには従えねぇ!」
「おい、そんな言葉を聞かれたら…」
反逆罪だぞ、という言葉は続けることができなかった。
原田さんが扉の近くで、青ざめた顔をして立ちすくんでいたからだ。
 
もし、おやっさんが居たら、こんな状況にはならなかっただろう。
山さんが居たら、一喝して止めさせていただろう。
だけど俺は、俺の言葉には何の力もなかった。
目の前に、手足と口を封じられた原田さんがころがっている。
周りには、正気に返り青ざめた皆が居る。
 
どうする…どうすればいい…
今、原田さんを開放すれば、俺たちは牢屋行きだ。いっそそれが正しい気もする。
だが、それでは南部重工を喜ばせるだけだ。
いや、そんな結果にすらならない。
 
俺たち抜きで、このエンジンはもたない。
今まで、綱渡りのようにエンジンを動かして来た。もうダメだ、と思ったことも一度や二度じゃない。
おやっさん、山さん、軍の皆、それに俺たち、全員が居たから何とかして来れたんだ。
もし俺たち石川組が居なくなれば、間違いなく帰路で制御不能になる。
俺にできることは、1つしか思いつかなかった。
 
「俺は脱走する、彼女を誘拐して」
「ええっ!」
「ちょっ…主任! それは…」
「お前達は、おやっさんや山さんを助けて、この艦を必ず地球に帰せ。誘拐は…俺が彼女に片思いした挙句にやったことだ」
「んなこと言っても、そもそもヤマトから出れるはずが…」
「用意は…していた」
 
地球を出てから、伊藤は良く俺を呑みに誘ってくれた。
それは多分、俺が人との付き合いが下手だったからだ。
そして、俺が機械との付き合いが得意だったからだ。
何か裏があるんだろうな…と思いながら、それでもハズレ者同士の友情という幻想は心地よかった。
 
「このまま地球に帰っても、またガ軍に責めて来られたら滅亡だよ」
「せっかくイスカンダルに来たなら、技術を持って帰りたいじゃないか」
もし、俺にその気があるなら、食料・医薬品などを積んだ船が用意してある。情報を送ってくれるなら追跡に手心を加える。
前回呑んだ時、伊藤はそのようなことを匂わせていた。
 
これが“裏”なんだろうな、と心のどこかで思った。
でも、腹は立たなかった。
この先、100年生きたとしても届かない技術。それを知る機会を与えてくれたヤツに感謝したくらいだ。
波動コアの製造方法を地球に伝えることができたら、もしかするとその後のエンジンは「薮式波動エンジン」と呼ばれるかも知れない。
波動エンジンの耐久性、人体への影響が判れば…いや、全ての放射線を跳ね返す技術だってあるかも知れない。そうすれば、技術屋達は安全に、怯えずに作業できる。全ての技術屋が俺に感謝するだろう。
 
だから俺は、たとえ脱走してでもダイアモンド大陸に行くつもりだった。
 
少し疑っていたが、船はちゃんと用意されていた。食料・医薬品まで伊東が言った通り積まれている。
初めは暴れていたものの、既に蒼白になって震えてるだけの原田さんを後部座席に押し込め、俺はヤマトを脱出した。
 
ダイアモンド大陸の研究施設。
原田さんは、口からガムテープを剥ぎ取った後も静かだった。
こんな静かな彼女を見たのは初めてかも知れない。
手錠を嵌めた原田さんを床に下ろすと、彼女の目から涙がこぼれ落ちた。
そんな彼女を見たくなくて、俺はコンソールに向かい技術調査に集中した。
 
ハッキングのための様々なツールは用意していたが、出番があったのは翻訳機のみ。
イスカンダル人は信じられない程お人よしなのか、全ての情報がオープンになっていた。
俺は、情報の海を泳ぎ、波動エンジンに関する既に知っている情報、誰も知りえなかった情報を選別していった。
そして、誰も知りえなかった情報の中に1つ、技術とは関係無い情報があった。
 
「藪! お前、自分が何をしたのか分かってるのか!」
頭から湯気が出てるんじゃないかい? 艦長代理クン。
10分後、俺はモニタ越しに彼と向き合っていた。
ヤツが喚いているのはイスカンダル女王の隣だった。この状況では何も言うことはできない。
そして、あいつになんか何も教えてやらない。
 
「わざわざ死の星になった地球まで帰ってどうする? そもそもたどり着けるのか?」
「じゃぁお前は、人類が滅亡しても構わないと言うのか!!」
そんなことは言ってない。
イスカンダルに移住すれば人類は存続できるぞ」
「男一人で人類存続などできるわけ無いだろう!」
「花嫁なら、いるさ」
俺はカメラを原田さんに向けた。
「!…」
「何人も死んでるんだ、2人くらい減ってもどうってこと無いだろう?」
そう言い捨てて、俺は通信を切った。
 
「なぜ…なの?」
ひび割れた原田さんの声が聞こえた。
「俺は…」
なぜ、こんなことになったんだろうな…
「…おっぱい星人なんだよね」
 
左手で情報を収めたホロメモリを弄びながら、俺は言った。
そして、右手を彼女の豊かな胸に伸ばす。
その瞬間、視界が赤く染まった。
 
銃の発射音が遅れて響き、視界の済みにライフルを構えた灰色の制服が映る。
彼女の耳元で囁く自分の声、左手のホロメモリが掌に食い込む痛み、それが、俺の最期の感覚だった。
 
 
「すまなかったっ! わしは…わしは…」
「徳川さん、そんなっ…土下座なんて止めてください」
横で、山崎さんを始め、全ての人が私に土下座しようとしている。
顔をぼこぼこに晴らした石川組の人たちも含めて、全員が。
 
帰艦して艦長に報告を行った後、医務室に向かった私を徳川さん以下全員が待っていた。
「と、とにかく、徳川さんだけ入ってください。あ、ちょっと待って」
石川組の人たちの前に立つ。
「あなたたちに藪さんからの伝言があります。波動エンジンから放射線は出てない。安心して、必ず…必ずこの艦を地球に届けろ、です」
 
医務室に徳川機関長を通し、胸のジッパーを下ろす。
「は…原田っ…何を」
佐渡先生が挙げる上ずった声には構わず、藪さんが私の胸に押し込んだ小型のホロメモリを徳川さんに差し出した。
 
「藪さんが、必ず徳川さんに渡してくれって…自分の命より大切な情報だと…」
佐渡先生と徳川さんが顔を見合わせた後、医務室の端末にホロメモリをセットする。
長いリストが画面に表示された。
「…次元波動関連の技術情報…バカ者が、こんなもの…わしが喜ぶとでも…ん?」
 
突然、画面にウィンドウが現れ、動画の再生が始まった。
聞いたことが無い言葉が流れ、下には翻訳された内容が現れていく。
驚愕が広がった。
「…おお」
「これは…こんなことを…あの人がなぜ…」
 
今すぐ艦長に報告する、という徳川さんを見送った後、佐渡先生が私に声をかけた。
「大丈夫か?」
うなずく、声は出せない。声を出したら泣いてしまうから。
「救難信号が来て、お前が人質になっていることを知った時にゃ、わしはどうしようかと思ったよ…」
 
あの信号を出したのは私じゃない。
あの時、なぜ藪さんが救難信号を発信するのか判らなかった。でも、今判った。
「これが一番早いな…」
発信する時、薮さんはそう呟いていた。
何よりも…自分の命よりも、時間が大切だったんだ。
 
「もう少し…」
自分の事を大切にしても良かったのに…
やっぱり声を出したら泣いてしまって、後ろの方は声にならなかった。
 
[rakuten:book:10808091:detail]

死者―ヤマト2199 another story―

 
「森下一尉」
自席で背後から声をかけられた。
「何か」
振り向くと、若い士官候補生が立ちすくんでいた。
「土方宙将より伝言です。『即座に第二会議室に出頭せよ』以上です」
「分かったわ、ありがとう」
微笑みを浮かべるが、彼のこわばりは消えない。
ふと、10年近く前の一時期、遊びで付き合った年下の男を思い出した。彼はそいつにちょっと似ている。
私の顔に視線を向けまいと努力してる様子が可愛いが、彼と遊んでいる暇は無い。
 
「森下、入ります」
会議室に入ると、土方宙将が振り向いた。
私の顔を気にするそぶりは無い。
正体不明の敵から攻撃を受け、既に艦艇損耗率9割、兵員死亡率8割という状況で軍を率いる猛者だ。元部下の顔など気にする人では無い。
 
続いて、会議室のメンバーの姿が目に入った。これには驚いた。
行政および軍のトップが勢ぞろいしている。
榴弾一発で地球の指揮系統は崩壊する。そんなリスクより、これだけの人たちが検討する何かがまだ残っている、ということが不思議だった。
 
森下悠里一尉です。私の以前の部下で、現在は情報9課所属。イズモ計画のメンバーです」
「かけたまえ、森下一尉」
私が用意された席に座ると、全員が私を見つめた。
動揺は顔に出なかった。ポーカーフェイスなら私は他の人より有利な状況にある。
だが、土方宙将の言葉には動揺を隠せなかった、と思った。
「先ほど、イズモ計画の破棄が決定した」
 
「君は驚くということが無いのかな」
藤堂長官が言う。
「いえ、充分驚いております。ただ、私の顔は動きにくいのです」
 
1年程前、謎の敵との戦いで私は全身に火傷を負った。命はとりとめたものの、醜いケロイドが顔にも広がっている。
見舞いに来た両親は絶句し、私が自殺しないかと心配したが、34才になっても独り身で恋人も居ない私には、顔などどうでもよかった。
でも、もしあの人が生きていたなら、違ってたのかも知れない…
 
「軍人として、優秀なんでしょうな」
芹沢宙将が無遠慮に言う。少なくとも、その部分については自信がある。
「例えば戦闘中に私が死亡したとします」
土方宙将が言う。
「もし後任が彼女ならば、私は何も心配しません」
過分な言葉に絶句したが、芹沢宙将はそれどころでは無かったようで、靴を飲み込んだような顔をしている。
 
「では、よろしいですね」
長官の言葉に皆が頷く。
「イズモ計画が破棄され、ヤマト計画が開始された。…地球復活計画だよ」
土方宙将の言葉に、今度こそ私の顔に驚愕が浮かんだ。
 
ヤマト計画の概要説明を受けた後、モニターに1人の少女が映し出された。
「大マゼラン銀河、イスカンダルからの使者。ユリーシャだ」
生物学的特長は人類と変るところが無い。しかしその美貌は、完璧さに於いて人類からかけ離れている。カプセル内で目を閉じている姿は、さながら眠れる森の美女といったところか。
歳は14、5才に見えるが、そもそも彼女に年齢など存在するのだろうか?
 
「1年後、サーシャという姉が来るらしい」
モニターに、ユリーシャに似た女性のホロが映し出される。
「ユリーシャが持つ次元波動エンジンの設計図とサーシャが持つ波動コア、この2つがあれば地球復活に望みが繋がる」
「問題は、設計図を受け取る前に彼女が暴徒に撃たれたことだ」
 
「宇宙船から現れた彼女を敵だと思ったのだろう。怪我自体は大したことは無かったが、感染症が起きた」
その暴徒は…多分もうこの世には居ないだろう。
「冷凍睡眠により症状を抑えている、但し、彼女が設計図を渡すことを拒んだままで…だ。設計図を入手しなくてはヤマト計画が進められない」
「彼女の最後の言葉は、『姉が来るまで設計図は渡せない』だった」
 
全員が沈黙した状況を動かすべく、私は発言した。
「状況はわかりました。それで、私にどのような任務を?」
土方宙将の瞳が、私のそれを捉える。宙将の瞳の中には狂おしいまでの希望と、苦しみの光が見えた。
「君には、死んでもらいたい」
 
 
「お世話になりました」
1ヶ月後、退院する私を主治医の佐渡先生が送ってくれた。
生物兵器の罹患及び重度の火傷じゃったが、いや我ながら天才じゃの」
いやらしい目つきで私を見つめるフリをするが、その目は娘を見る父親のように温かい。
「一時は危なかったんですよ。なのに生物兵器のデータも送れないなんて、軍は一体どうなってるんでしょうね」
むくれている原田看護師を佐渡先生がなだめる姿に微笑みながら、2人に手を振り私は退院した。
 
「土方提督…」
門を出たところで、思わぬ人が待っていた。
「退院祝いがてら迎えに来た。花は持ってないがな…」
「いえ、来ていただいただけで…光栄です」
「早速だが、時間が無い」
「判っています」
 
3時間後、地球衛星軌道上、戦艦キリシマ、第3控え室。そこに私は居る。
30分程前、手に持ったカプセルを土方提督に渡した。私に与えられた任務はそれだけだった。
突然、隣の会議室で歓声と拍手が起きた。任務は成功したようだ。
スピーカから土方提督の声が響く。
「来てくれ、皆が君に礼を言いたいそうだ。…すまない、森下一尉」
「提督、その人は亡くなったのですよ」
 
この任務は極秘だ。記録さえ残すことはできない。
任務の記憶は、今までの34年間の人生と共に、此処に捨てていかなくてはならない。
3年前、ガ軍との戦闘で逝ってしまったあの人への想いも。
私は、以前の私を切り離すように立ち上がった。
 
以前とは違う、金色の髪がなびく
ドアをノックする手の白い肌、細い指の形にも以前の私を思い出させるものは無い。
軍用の遺伝子操作ウィルスは、私の顔も声も、年齢までも変えてしまった。
「森雪、入ります」
会議室の、鏡のように磨かれた扉には、新しい私の顔−サーシャに生き写しの顔−が映っていた。

死者の代弁者〈上〉

死者の代弁者〈上〉

残留者―ヤマト2199 another story―

 
俺は元々メカニックだった。
でも、メカニックじゃ女にもてない。
だからパイロットになった。
 
正体不明の敵との戦いで多くのパイロットを失ったとはいえ、パイロットになれたのは俺の実力と運の良さだろう。
戦闘機では無く輸送機のパイロットだが、ちゃんと彼女もできた。まぁ、メカニック時代の同僚なんだが…俺は満足している。
オイルを洗い流せば結構な美人で、気風もいい。このまま人類が絶滅するとしても、最後の日まで彼女といられたら、俺は幸せものだ。
 
俺たちの不幸が始まったのは、生き延びる可能性が出てきてからだ。
イズモ計画。
選ばれた男女を宇宙に逃し、人類を存続させる計画だ。
俺たちは、それに申し込んだ。
そして、彼女だけが受理された。
 
俺はメカニックとしての腕には自信があったが、パイロットとしては二流だ。
彼女は一緒に行けないなら辞退する、と言ってくれたが、俺は彼女に生き延びて欲しいと言った。
そして部屋に戻って一人になった後、死ぬほど後悔した。
パイロットを目指した事、イズモ計画に申し込んだ事、彼女に生き延びて欲しいと言った事。
彼女には生き延びて欲しい。でも、他の男の子供を産んで欲しいとは思えなかった。
だが、それが彼女が選ばれた理由の一つだ。
 
イズモ計画の為に、彼女は九州基地に行く。
俺も九州基地に転属願いを出した。せめて旅立つまでは、彼女の側に居たかったんだ。
二度と会えなくなる俺を、母は泣いて詰った。最後には「お前なんか息子でも何でもない」と絶縁された。
母と絶縁してまで九州に行ったが、結局彼女と会う事は無かった。
 
イズモ計画は極秘任務だ。
計画や地球脱出船の存在が漏れれば、暴動が起きる。
参加する者は隔離され、たとえ軍人であっても連絡は取れないようにされていた。
 
「なぁ知ってるか?」
輸送機の操縦桿を操りながら、主パイロットが言う。
「イズモ計画用の制服、聞いたんだが凄いぜ」
俺が興味の無い振りをしていると、更に意気込んで捲し立てる。
 
「女向けの制服なんかマイクロボアスーツでな、身体のラインがぴっちり浮き出るらしいぜ」
目の前が赤く染まった。
「妊娠中でも腹を圧迫せずサポートするため、なんて言ってるけどアレは子作りのため。男を興奮させるためだな…」
言うな。
それ以上一言も声をだすな。
いつの間にか、右手が腰の銃に触れていた。
 
「あ…もうアイツが見えちまってる」
主パイが別の事に気を取られなければ、俺はヤツを撃っていただろう。
前方に目を向けると、主パイの言う”アイツ”が目に飛び込んできた。
 
「な…なんだありゃ」
想定外の光景に、一瞬殺意を忘れた。
敵の感知を防ぐため行なっている超低空飛行。だがいくら低空とはいえ、真正面にこんなモノが見えるとは思わなかった。
赤錆びたビル…では無い。ビルには砲塔など無い。だが宇宙戦艦でも無い。キリシマでさえ、ここまで巨大じゃ無い。
「大昔の戦艦だとさ。何千人もの乗組員を道連れに沈没したらしいぜ」
 
風が舞う音が、死んだ乗組員の悲鳴に聞こえた。
「アイツには、怪談があってな」
主パイは新たなネタを披露しだした。
「何人か人魂を見てるんだよ。砲塔が動いたのを見たってヤツも居たぜ」
そんなバカな、と言えない雰囲気がその艦にはあった。
 
と…
「う…うわぁあああっ!」
主パイが悲鳴を挙げ、機体が急上昇し始めた。
俺はコントロールを奪い取り、機を低空に立て直した。
「ひ…ひと…ひと…だま…、お前っ、何落ち着いてんだよっ!」
「見間違いじゃないですか? 人魂なんて見えませんでしたよ」
 
そう、人魂なんて見えなかった。
あの色は、戦艦の装甲を溶接するためのプラズマトーチの光だ。
こいつが…この船が、彼女を連れていく地球脱出船だったんだ。
 
この輸送機は、補給用弾薬を目一杯積んでいる。
このままあの船にぶつかれば、船は飛べなくなるかも知れない。
そしたら、彼女とまた会えるかも知れない。
主パイに感じた殺意が、その船に向けて膨らんでいく。
 
その時、金色の光が走り、地面近くに忽然と宇宙船が現れた。
慣性を感じさせない動き。地球のものとは異質なデザイン。
敵だ。
 
俺は輸送機を緊急着陸させ、銃を抜いて機から飛び出した。
主パイが何か叫んだような気がしたが、俺にはどうでも良かった。
アイツを殺す。
アイツなら殺しても誰も文句は言わない。
殺意が解き放たれ、宇宙船から降り立った人影に集中した。
 
人に似たシルエットを確認するや否や、俺は銃を構え、撃った。
そいつはあっけなくはじけ飛んだ。
 
基地に戻った俺を待っていたのは賞賛の言葉と勲章では無く、投獄と尋問だった。
初めて謎の敵を倒した俺は英雄のはずで、なぜそんな扱いを受けるのかさっぱり分からなかった。
ところが、俺を尋問した兵士は、俺が倒した敵では無く、俺こそが宇宙人だと疑っているようだった。
 
昼夜を分かたず尋問を受け、何日経ったのか、今が昼なのか夜なのかも判らない状態になった時、その人が現れた。
俺は条件反射的に立ち上がり、敬礼した。
その人の肩には、初めて見る金の四本線があった。
 
その宙将は、全てを教えてくれた。
あの沈没戦艦が、確かに地球脱出船であること。
金色の宇宙船は、地球のものでは無いこと。
俺が撃った人影は、確かに宇宙人だったこと。
但し、その宇宙人は、地球を復活させるために来てくれた使者だということ。
 
事前に軍には連絡があったらしい。だが、連絡経路のどこかでその情報は止められ、俺に伝わることは無かった。
そして、俺が撃ってしまったために、地球復活は暗礁に乗り上げた。
 
「残念だが、君を生かしておくわけには行かない」
ああ、俺ももう生きていたくは無い。
「明朝、君は銃殺される。申し訳ないが、軍が使者を撃ったことを知られるわけにはいかない。
君は軍人では無く、単なる暴徒の一人として処刑される」
 
いつの間にか、宙将は立ち去っていたらしい。俺は尋問室に一人残されていた。
俺は英雄では無かった。
カニックでは無く、パイロットでも無い。
息子で無く、恋人でも無い。
そして明日、軍人でも無く、人でも無くなる。
俺の目に鈍色の銃口が映った。
 
 
「宙将、始末書を書いて頂かなくてはなりません」
大佐に渡された紙を横目で見て、サインを書きなぐる。
「なぜ彼に銃を渡されたのですか?」
「渡したんじゃない、忘れたんだ」
私が去ってから数分後、置いて来た軍用拳銃で彼は自殺した、と報告があった。
 
彼はメカニックとして、パイロットとして、軍人として、敵と戦い、仲間を助けてきた。
なのに軍は、彼を単なる暴徒の一人として片付けようとした。いや、片付けた。
政治的な判断の下に。
 
確かに地球復活は重要だ。たとえ、どれほどの犠牲を出しても成し遂げなくてはならない。
軍人に、民間人に犠牲が出るのはやむを得ない。私はそこまで理想主義者では無い。
だが、せめてその犠牲は尊重すべきだ。政治的な都合で無かった事にして良いものでは無い。
 
芹沢は、逃亡兵として処理され、暴徒として埋葬されたその男の魂に、一人祈りを捧げた。
 

先駆者―ヤマト2199 another story―

 
「お姉さま! ズルカル星系が…消滅したって…」
悲鳴に近い声が、静かな部屋に響く。
呼びかけられた美貌の女性は、その声に眉一つ動かさず
「これで漸く」
眼差しをゆっくりと伏せる。
「遠い昔に行った過ちが清算されるのですね」
 
「いえ、まだよ」
別の女の厳しい声が響いた。
ガミラスは銀河系への遠征を計画しているわ」
細い眉がひそめられる。
「重力地図が作成されてないから多くの艦艇は失われたけど、それでも数十艦が到着している。既に惑星浄化に着手済。先住民は…まだ生き延びているわ」
 
「助けようよ!」
若い声−ユリーシャが叫ぶ。
「そして、銀河系で同じ過ちを繰り返すの?」
厳しい声−サーシャが応える。
 
過ちを繰り返すことはできない。
遠い昔、ガミラスに救いの手を差し伸べたために、大マゼラン銀河は征服されたのだ。
「その過ちは私たちの罪」
美貌の女−スターシャが言う。
ガミラスの銀河系への進行は止めなくてはなりません。そして、同じ過ちを犯すこともできません」
「何か策でも?」
 
「先住民に第二世代波動エンジンを渡します、一機だけ」
「第二世代!」
「危険よ! もし第二世代を複製されたら…」
「それを防ぐために、貴女達が同行して監視するのです」
 
ガミラスに提供した第一世代波動エンジンに比べ、桁違いの出力を持つ第二世代。使い方によっては、宇宙を破壊することさえ可能な力。
但しその力を使えば、空間歪曲と慣性制御を使った防御壁により不死身とも言える耐久力を持つことになる。その船ならば、一隻であってもガミラスに対抗できるかも知れない。
 
最初に、ユリーシャが波動エンジンの設計図を地球に届ける。しかし、その設計図だけでは動作しない。
「1年後にサーシャが持っていく波動コア、それが無ければエンジンは起動しません。その事実がユリーシャ、貴女を守るでしょう。そして1年間で、地球人を見定めなさい」
「私はユリーシャと連絡を取って、他系を征服するような民であればコアを渡さないのね」
「いえ、コアは渡します。貴女たちは、波動エンジン搭載船がガミラス艦と補給基地を沈めた後、脱出するのです」
 
波動コアには仮想人格を組み込む。この人格が、ユリーシャとサーシャ2人の脱出を支援し、その後、波動エンジンの炉心を破壊する。
地球を復旧させるシステム−コスモクリーナ−は、イスカンダルで受け渡す。他に超光速船を持たない地球人は、コア搭載艦をイスカンダルに派遣するしかなく、複製する時間的余裕は無い。
 
「それなら、うまく行くかもね」
「うん、大丈夫だよ」
細部を詰めた後、ユリーシャを送り出した。
そして1年後、サーシャを送り出し、スターシャは孤独になった。
 
「叶うなら地球人…征服者でいて」
遠い星の彼方にスターシャは祈る。
「もしそうなら、二人は戻って来る。銀河系内のガミラス艦と補給基地程度なら、その船だけで沈められるはず…」
しかし、地球人を二人が認め、その船がイスカンダルに来たならば
「帰すわけにはいかないわ…」
 
宇宙を破壊しかねない力、それはイスカンダル自身も使う気になれなかった力。
それを他種族に渡すなど、出来るわけがない。
 
辿り着いた船を帰すことはできない、ここで沈んでもらう。いくら耐久力が高くとも、ガミラス本星の攻撃に耐えられる程では無い。
ただ、その時には二人の妹も失うことになるだろう。
 
いずれにしても、とスターシャは思う。
「私は、間違いなく地獄に堕ちるのでしょうね…」
イスカンダル最後の女王は、そっとつぶやいた。

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

行政者―ヤマト2199 another story―

 
「それでは状況確認会を始める」
薄暗い会議室、モニターの明かりに照らし出された禿頭の男が会議の開催を継げる。
「太陽系開発計画の進捗はどうだ」
 
「報告します。冥王星環境変更は進捗率90%、現時点で実行可能なタスクは完了しております」
40代と思しき部門長が報告する。声には、抑えきれない緊張が滲んでいる。
木星軌道への推移は進捗率50%、こちらも問題ありません。土星を始め大型ガス惑星の木星軌道への推移は進捗率40%、若干の遅れがありますが冥王星到着には充分間に合います」
「問題無い…と? 木星点火時の冥王星への影響は考慮できているのか?」
囁くような、しかし通る声が、告げられた部門長を竦み上がらせた。
 
冥王星の環境変更を実施。更に土星天王星海王星木星と融合させて第二の太陽とする。状態が安定した第二太陽の衛星軌道に冥王星を乗せ、温暖な気候を得る。それが太陽系開発計画の一つのポイントであった。
だが、第二太陽が核融合を開始する際には強烈な爆発が発生するため、その時点で冥王星が近づき過ぎていた場合は重大な問題が発生しうる。
 
冥王星側の進捗を遅らせろ。但し必要な期間だけだ」
禿頭は、蒼白となった部門長に指示を与えると、次の者に顔を向ける。
 
「地球環境変更の進捗を報告します」
次の部門長は、顔からは多少血の気が失せているものの腹の据わった声で報告を始めた。
放射線暴露、化学的暴露については、調査の結果問題無いことが判明しました。生物的暴露については浄化植物を投下しており、一部海溝を除き完了しております。残りの海溝についても後半年程度で完了する見込みです。ただ問題は…」
「地球人の地下都市…か」
 
ガミラスの技術をもってしても、星一つをくまなく浄化することは困難を極める。
そして、何処に在るかも判らぬ地下都市に潜む微生物まで根絶するとなれば、不可能と言って良い。
「議長、イスカンダル王族に最小限度の遺伝子操作を依頼できないでしょうか」
その場に居た全ての者が息を呑んだ。
「我々のように放射線・真空への耐性等は求めません。しかし、せめて免疫強化はお願いしたい。このままではリスクが…」
「君たちは忘れたのかね」
小さく、感情を感じさせない声が熱弁を封じる。
「我らは、イスカンダルに返しきれない恩がある。そして、その恩を仇で返したのだ」
 
遥か昔、ガミラスは死に瀕していた。
母星が急速に赤色巨星化し―無謀な恒星制御の結果と伝えられる―放射線量の増加、気候の激変、地殻変動に見舞われたガミラスは、生存のための絶望的な戦いを続けていた。
なりふり構わぬ自らへの遺伝子操作、世代型宇宙船の開発、だが、死の運命から逃れる術は無かった。遅かれ早かれ母星が超新星爆発を起こし、星系は焼き尽くされる。当時のガミラスには、その爆発から逃れるだけの速度を出せる宇宙船は造れなかった。
 
それでもガミラスは諦めなかった。
死神の吐息を首筋に感じながら、しかし絶滅の日を1日でも遅くする、そのためだけにガミラスは生きていた。
奇跡を願っていたのかも知れない。
 
奇跡は訪れた。
イスカンダルにより超光速航法とそれを実現する波動エンジン、更に新たな惑星まで提供されたガミラスは、絶滅の寸前で命を永らえたのである。
現在生きているガミラスの命は、全てイスカンダルの温情によるものである。それを忘れたガミラスの民は、一人として居ない。
 
提供された波動エンジンには、中枢部にブラックボックスがあった。
ガミラスは、そのブラックボックスリバースエンジニアリングし、波動エンジンを複製した。
波動エンジンと超光速航法を使い、ガミラスは大マゼラン銀河各地に移民を行った。
最初は友好的に、次第に力ずくで。
移民星系が1つ増える度に、ガミラスに安堵が広がった。もう二度と、絶滅の縁に立たされることは無い。決して、死神の吐息を首筋に感じることは無い。この大マゼラン銀河が滅びない限り。
だが、ガミラス製波動エンジンには重大な不備があった。
 
ゲシュタルト・ジャンプと名づけられた超光速航法、それはワームホールを使って空間を跳躍する航法である。
跳躍後、ワームホールは閉じられるが、ガミラス製波動エンジンでは制御が不十分であり、微細なマイクロブラックホールを残してしまっていた。
そのことに気づいた時には、既に大マゼラン銀河の各地に無数のマイクロブラックホールが残されていた。
母星のガミラス星に至っては、マイクロブラックホールが宇宙空間のみならず地殻を通過する軌道を取っており、都市部だけは防御しているものの、地形・大気には破滅の兆しが現れていた。
 
地殻を貫いているブラックホールガミラス星を飲み込まれるのが先か
ブラックホールが蒸発し、その際の爆発で焼き尽くされるのが先か
サンザーに落ちたブラックホールに太陽を飲み込まれるのが先か
いずれにしても、ガミラスのみならず二重星であるイスカンダルも滅びる。そして大マゼラン銀河も滅びるのだ。
 
そのことを知る者は、極一部である。
だが、そのことを知った者は、何よりもイスカンダル王家の存続を考えた。
他銀河系に新たなイスカンダル星を創り、それを王家に献上する。たとえ母星を失おうと、流浪の民となろうと、否、ガミラスが絶滅しようとも、それだけは成し遂げねばならなかった。
 
禿頭の紅い瞳に見つめられた部門長は、自らの命を絶ちたくなる程の後悔に包まれた。
「次、各地のマイクロブラックホールの状況を…」
漸く紅い瞳が逸れたその時、悲鳴のような声で緊急連絡が入った。
『報告します! ズルカル星系が…し…消滅しました…衛星軌道上からのガンマ線バーストが観測されています…』
静かに、だがそこに居た全員の心の中で無言の爆発が起きた。
 
「そうか、蒸発が先なのだな」
感情の揺れを感じさせない声が響く。
「総統閣下に報告する。本会議は2300より再開。各員、報告状況を最新化しておくこと」
記録によれば、研究機関があったズルカル星軌道上で最初のゲシュタルト・ジャンプが成功してから、実用艦が完成するまで約1年。
心の中のタイムリミットを1年先に設定しつつ、ヒスは官邸に向かった。