『蜜蜂乱舞』吉村 昭

いい小説。いい本。
という感想が第一にくるよくできた小説で、昭和の養蜂家の1年というとても興味深いドキュメンタリーと、その家長を主人公にしたホームドラマで、構成カッチリ1冊でスッキリ終わるし、読後の満足感もたっぷり。解説見たら、家族大事にみたいな主張の団体誌の連載で「ホームドラマ」というジャンル小説を書いたっていう意識あったみたいで、著者的には没後まで出版されなかったと。
でもホームドラマの普遍と、養蜂家ならではの家族問題とキャラと、さじ加減が絶妙。批判ではなく、よくできたいい小説。

蜜蜂をトレーラーに載せて、花の開花時期にあわせて日本列島を九州から北海道まで半年かけて縦断していく地理のダイナミックな移動と季節のうつろいも、一冊の展開にしっかり織り込まれていて、ほんと読むことが快楽。

蜜蜂の生活を描写した文章が、善とか聖なる領域というか、一心に労働して家族を養い世代をつなぐ清くて純粋な人間の善性を肯定するような存在で、すごく気持ちのいいテーマなんですね。読後は心が洗われる。
吉村昭のドキュメンタリーじゃない小説は、とくに短編なんかは定形キャラ+珍しい職業ネタっていうテンプレで肩透かしくらったことあるんですが、それがいい意味でハマってる。
この前に読んでたのが重い本だったんで、すごいスッキリしました。いい小説だなあ。お見舞いとかで差し入れたい。