『メディア・モンスター:誰が「黒川紀章」を殺したのか?』曲沼美恵

恥ずかしながら、30代の私は黒川紀章という名前を知りませんでした。都知事選出馬も覚えてなかった。
メディアに露出がすごく多かった建築家の人だそうで、中銀カプセルタワービルは老朽化のネットニュースで知ってる…くらいの前知識。読み始めたら建築の戦後史が一人の人間を中心にまとめられてて、面白い本でした。こんな、題材の面白さと筆力そろったいい本だと思ってなくて。文庫とかになるんじゃないかな。

人間の思想が現実になることがすごい。時代なのか、建築家という職業故なのか、とにかく実体になって、実世界を変えてしまう。それを実現するための、施工レベルの話も時代の産物雑学で面白い。建築家が考えた理想のビルのために、材料や公示方法、実際に使うための配水管や導線設計したり、法律申請するのはまた別!大変だあ〜
若い頃に、人類の一大夢の展示場大阪万博のパビリオン建築で有名になった後、壮年に受注したつくば万博は他建築家の都市計画ありきのものでもはや夢は飾り物に過ぎず、さらに平成の愛知博覧会では失注、万博というイベントそのものが社会のある時期にしか耐えない形式という社会の流れ・・・

欧州由来の建築観である権力者からの発注で永遠を目指したモニュメントから、人民が使用者で発注者になっていく建築自体の大きな歴史、永遠へのカウンターで更新し続けるというメタボリズム運動の黒川自身の建築観の変遷、日本の明治に輸入した建築技術からの発展、いろんな側面が書かれてて情報たっぷり、且つ、メディア露出多くてどこか山師のような人生重なって、歴史っていう俯瞰で見られてとても興味深い本でした。