国連の日本批判近づく 『慰安婦合意』再検討指摘への対策は

5月12日、韓国に対する拷問禁止委員会の勧告が出て、いわゆる「慰安婦合意」について、取り上げられました。この「拷問禁止委員会」は、国連総会で採択された拷問禁止条約に基づいて設置された委員会で、いわゆる人権条約機関の一つです。勘違いしてはいけないのが、国連に属する機関ではなく、委員会の見解は国連から独立した専門家のもので、国連を代表するものではありません。委員も締結参加国の「推薦」で決まってしまい、国連からの任命ではありません。そもそも「国連から独立し、政治的でない専門家の意見を集約する」のが目的ですから、国連ではないことに意味があるわけです。とはいえ、現実は欧米の政治的判断に多分に影響されてるわけで、まことにやっかいな機関であります。
 

■ありがたいことに「慰安婦合意ターゲット」が事前に判明

韓国側の文書提出が先にあったおかげで、国連の人権機関が「慰安婦合意」を取り上げる可能性が高いことがわかりました。日本への勧告までにどうするかが、問題であります。ただし、韓国にあった拷問禁止委員会では、日本の出番は来年に掛けてもないようです。

http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/TreatyBodyExternal/sessionslist.aspx

逆に言えば、今から対策を練られるわけで、残された時間を有効に使わなければなりません。

 
直近で日本が議題に挙がるのは、4年に一度必要になる「人権理事会」の定期報告です。今回話題となった拷問阻止委員会とは、遥かにレベルが高い機関です。ちなみに2008年には、従軍慰安婦問題の完全なる解決を日本に要求する報告書を出しました。その時の対応資料が、今でも外務省のホームページで公開されています。

UPR(普遍的・定期的レビュー)の概要
審査は,下記3つの文書に基づいて行われ,当該文書は審査の6週間前までに用意されなければならない。
(1)被審査国は,20ページ以内の報告書を「ガイドライン」(→国連作成の被審査国のためのガイドライン別ウィンドウで開く)に基づき作成し,人権高等弁務官事務所に提出する。
(2)人権高等弁務官事務所は,被審査国に関する国際条約機関及び特別手続による報告並びに関連する国連公用文書を編集した文書(10ページ以内)を準備する。
(3)人権高等弁務官事務所は,NGO等UPR関係者が同事務所に提出した信憑性と信頼性のある情報を要約した文書(10ページ以内)を準備する。→国連作成のNGOのためのUPRインフォメーション別ウィンドウで開く
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken_r/upr_gai.html

まず間違いなく、『慰安婦合意』が取り上げられるのは、この人権理事会でしょう。理事会開催日は10/16から11/10。審査国はくじ引きで既に選出されてまして、カタール、ベルギー、トーゴの参加国(トロイカと呼ぶらしい)です。この3か国がどこぞに買収されないよう祈りましょう。
さて、上記の外務省のホームページにもあるとおり、国の審査提出文書だけでは判定されません。(3)の非政府系NGOの報告書が審査に影響を与えます。
韓国への指摘にもNGOによる報告が多大な影響を与えたことがわかっています。なにしろ公開された5本の報告書のうち、『慰安婦合意』を明確に否定する内容は1つだけ。他は子供の人権とか、性犯罪にあった女性の人権とかの内容です。

http://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CAT/Shared%20Documents/Forms/AllItems.aspx?RootFolder=%2fTreaties%2fCAT%2fShared%20Documents%2fKOR&FolderCTID=0x01200016426B77045AE046928257F3170EF173
上記のうち、26966_E.pdfのみ、否定的内容

そして、その否定的内容を全面採用したのが今回の指摘でした。読めばわかりますが、もう書いてあることそのまんまです。これだけ見ても極めて恣意的な指摘だったと言えるでしょう。
しかし、『慰安婦合意』を批判したい人達が、どこを問題にしているかよくわかるのも事実です。日本の人権理事会への指摘にも、そう変わらない指摘が入るわけで、今回の指摘事項をしっかり分析して対策を立てることが重要だと思います。
 
■問題点を冷静に論破すべし

国連拷問防止委員会は、「2015年12月28日の両国外相間の合意を歓迎する」としながらも、「拷問防止条約14条履行に関連し、十分な順守が行われなかった」と指摘した。UNOHCHRは、この内容が入った報告書をウェブサイトに掲載している。

国連拷問防止委員会は報告書で「慰安婦被害者に対する補償と名誉回復、真実究明、再発防止などの合意が不十分」と述べている。また、「まだ38人の被害者が生存している」とし、彼女らのために合意内容を見直すよう促した。

http://www.recordchina.co.jp/b177811-s0-c10.html

まず「合意を歓迎する」としているので、問題が解決に向かったという認識であることは間違いありません。そして拷問防止条約14条を元に、履行に不足があるとしています。この拷問防止条約の内容は、以下の通りです。

第十四条
1.締約国は、拷問に当たる行為の被害者が救済を受けること及び公正かつ適正な賠償を受ける強制執行可能な権利を有すること(できる限り十分なリハビリテーションに必要な手段が与えられることを含む。)を自国の法制において確保する。被害者が拷問に当たる行為の結果死亡した場合には、その被扶養者が賠償を受ける権利を有する。
2.1の規定は、賠償に係る権利であって被害者その他の者が国内法令に基づいて有することのあるものに影響を及ぼすものではない。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gomon/zenbun.html

条約そのものが1987年の発効ですから、それ以前の出来事に対しては「遡及適用」になります。従軍慰安婦問題に対しても当然遡及適用になって無効のはずですし、日本政府も「遡及適用」を指摘しています。今回は「合意」そのものをテーブルに乗せることで、すり抜けたという形にしたいのでしょう。まぁとにかく、この14条によって、「慰安婦被害者に対する補償と名誉回復、真実究明、再発防止などの合意が不十分」と指摘しました。
 
一つ一つ見ていきましょう。まず補償については、以前(「なぜ、こんなことに!」 悲鳴を上げる韓国が認めない不都合な真実)でとりあげたように、既に実績があります。

「10億円は少女像撤去の対価」は偽り…慰安婦被害者の傷を癒やすため(2)」中央日報 2017年01月10日

和解・癒やし財団によると、12・28合意当時、生存者46人を基準に受領の意思を明らかにした被害者は34人だった。現在まで31人に対して1億ウォンずつ支給を完了した。亡くなった被害者は199人であり、うち35人が現金受領意思を表した。

http://japanese.joins.com/article/481/224481.html

既に31人の人に支給を行い、34人が受領意志を示しているのです。1年で7割以上が合意の恩恵を受けたという事実を大いに示す必要があるでしょう。

 

名誉回復については、(<従軍慰安婦問題> やっぱり蒸し返し? 安倍首相の「おわびの手紙」要望への対処法)で示したように、

(1)慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。

 安倍晋三首相は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。

という合意内容があります。これが文書化されていないのは、韓国側の要請であり、文書化は「今からでも日本は応じる用意がある」とはっきり示すべきだと思います。

 

真実究明に関しては、「クマラスワミ報告書に記載された吉田証言が、虚偽だと判明したほか、新たに朝鮮人捕虜の米軍調書発見され、朝鮮人慰安婦に関しては「志願したか、親に売られた人だ」との記述が発見されているが、現在も調査が続行中である」と回答して、最近判明した事実を指摘する必要があります。
ここで重要なのは、調査は続行中であることを表明することです。『慰安婦合意』が調査の終了を示さないという見解さえ示せれば、欧米の批判は根拠を失います。

 

再発防止についてが、難題です。これは「過去の事件を教育し、記憶として引き継いでいるか」を問題にしてるんですね。
安部首相が、かつてアメリカでの演説で「従軍慰安婦は人身売買の犠牲者」という言葉を出したことを反映させて、「人身売買が再び起きないよう教育を行っていく」という形にする方が、欧米には受け入れ易いかもしれません。
 
■欧米には無視より論理武装

韓国には理論的な反論が意味をなさないことがありますが、欧米にはきちっと筋立てて、証拠を示しながら反論することが大事です。最初から批判ありきできている欧米に対応するのは困難を極めますが、海外の人間に、現在の従軍慰安婦問題を知ってもらえる機会でもあります。
事前に向こうの言い分が判明した以上、うまく準備して乗り越えて欲しいですね。