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2017-02-25 知的生産産業とAI著作権(AIジュークボックス) このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

続AI著作権です。細かく追記しています。

  

クールジャパン計画によってコンテンツ産業がもりあがっており、第四次産業革命ともいわれています。AI著作権についても考えていこうという機運があります。

 

以前の記事で、次のようなことを述べました。

(要約)

著作目的にかぎらず人間に命令されて動作するAIプログラムツールであり、その成果における責任は、今まで同様、製造者使用者に場合に応じて帰属を決めるべきである。これは、「自動運転技術を導入するにあたって、自動運転技術が原因となって事故がおこったらだれが責任をとるか」というたった今別の分野でも考慮されている課題と同等で、どのような未来がくるか予測できないので今から一律に決めるべきではないが、一度パターン化し判例として抽出されれば応用が効くはずである。

現在自動車メーカーでは高齢化や機械化と安全の軋轢を見据えて慎重に調整がおこなわれているが、著作目的のAI利用でも、同様に何らかの軋轢が予想できるので、出来る限り法整備をするべきだ。著作権においては、AIが関わらなくても定義中の思想感情要件、アレンジャー権利、職務著作者の権利などが未整備であったり判例の混在で混乱しがちであるので、法整備するなり指針を示すべきだ。

 

この論ではさらに深めて、著作(=頭脳労働)AIの利用がグーグルamazon小売店POSなどによって得られるビッグデータと組み合わされ、新たな普遍的ジャンルにひろまったらどうなるかについて、将来ほぼ確実に起こり得るケースと現在の法律の組み合わせで思考実験として考えてみます。なおこの文章は個人的な考え方ですので法的正確性について責任は負えません。

 

仮定1 AIは非常に効率がよくなり、市販コンピューターを数台つなぎ合わせたものにビッグデータ学習させた学習済みモデルからなる人工知能αインストールして実行ボタンを押し、そのまま個人)が電気代を払って待つだけで、どれも名曲といえる高レベルの、新規楽曲が数万曲製造された。(楽曲群A

問1 このとき、個人aと人工知能αはどちらが楽曲群Aの著作権を所有するべきか。

答1 個人aが楽曲群Aの著作者となるべきである。(著作者a)

   aは「このボタンをおせばすばらしい曲が得られるはずだ。自分には高レベルの曲が必要だ」と思って創作実行ボタンをおしたのであるから、思想・感情・創作表現を要件とする著作物性の楽曲群aへの付与を阻害するような法的要素は見当たらない。

   人工知能αそのものは別人bの知的財産特許)である場合、別人bは人工知能αの個人aへのライセンス契約内容によっては、著作者としてのaの権利をあらかじめ制限し、aが創作した場合も成果物著作権をbなどに優先的に付与しているケースも考えられる(たとえば、αにより創作された著作物の一次的権利はbに属すると規定しておくとか、Aはaとα提供者の共有著作とするとか、著作者表記に「with α」などを併記しなければならない、など。)。この場合は契約が優先すべきであるが、この場合は問題簡単にするためaとbが同一人物であるとする。

   もし思考・感情が要件でない場合はαが一次的な著作権者になれそうに思えるが、著作権法上の著作権の所有者は民法解釈上は自然人または法人とされているのでαが一次的著作権者となるのは無理であろう。しかし、人工知能αを資産として保有する別人bのつくった営利団体が法人格を取り、かつ個人aと契約を交わせば、「人工知能α」のライセンス団体が現行法上の楽曲群Aの著作権の(共有)所有者となる場合もありそうだ。

 

問2 著作権の発生時点はいつか

答2 著作人格権財産権とも、著作者aが「完成した」と思った時点(それは実行ボタンを押し人工知能αが作成された曲を奏で、全部聞き終えた瞬間であるかもしれないし、aがさらにアレンジを加え終えた瞬間かもしれない)。

  

仮定

楽曲群Aは著作者aによって、a自身の創作物として全曲、インターネット上で発表された。

問3 著作者aが楽曲群Aの発表にあたり「人工知能αを使用して制作した」という事実は敢えて隠しておき発表しないとする。著作権法上の違法性があるか。

答3 問1の回答に書いたとおりであって、著作権法上の違法性は直ちにはみあたらない。人工知能αには著作人格権は(特段の事情のないかぎり)所有できないと考えられる。αの操作の難易度や、個人aの音楽知識の有無なども、楽曲Aの著作物性そのものには関わりがない。したがって違法性は(この条件だけからは)みあたらない。別途、特許法上、またはbとの契約上の違法性の有無は検討すべきである。

なお、過去、別人が作曲していたことを隠して著作人格権を侵害したゴーストライター事件があったが、それと人工知能の場合とでは判断が異なる。現在の著作権法も、一般社会の倫理や道徳とは異なる部分がある(オリンピックエンブレム事件)。

 

仮定

楽曲群Aは公開され、しかも個人aが人工知能αを用いて制作したと発表された。ここでコモンライセンス曲Cの作曲家cがいた。Aのほんのわずかな一部であるが自分の曲Cと似た部分があり、しかも実際に「αの作成時に学習のため利用された楽曲100万曲」のなかに、曲Cが存在していたと知った作曲家cは、aから利益還元どころか挨拶さえも全く受けていないことを思うと複雑な気持ちになった。

 

問4 ビッグデータ収集・加工行為著作権法上の違法行為にあたるのではないか。

答4 収集加工行為そのものは違法行為にあたらない。このことは現在の著作権法に規定がある。

第四十七条の七  著作物は、電子計算機による情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の統計的な解析を行うことをいう。以下この条において同じ。)を行うことを目的とする場合には、必要と認められる限度において、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行うことができる。ただし、情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベース著作物については、この限りでない。

よって収集加工行為そのものは(市販データベースを無断でハッキングするのでないかぎり)著作権法上の違法行為にあたらない。

 次にビッグデータとして採用された曲Cが著作権侵害されたかどうかについては、今までの判例をみても表現物(成果物)同士の比較がメインである。表現成果物から抽出される、画風・作風雰囲気表現工程といった抽象部分のコピー行為には「原作抽象部分に著作物性あり・依拠性あり・侵害有り」とまで認められたことがない。 加工された楽曲群Aが収集元と同一または類似した楽曲を含む「複製権侵害」でない限り、楽曲群Aの公表行為複製権侵害にもあたらない。

 しかし、たとえば一部、または一音でもはっきり「曲Cのみ」から採用されたものと具体的に判定できれば(たとえば音波形状などによる客観的デジタルデータ比較上も依拠性が認められるなら)侵害はみとめられ得る。(たとえばCに含まれるガラス破壊音はありふれた音ではなく、特徴があり、それがAのある曲にくりかえし使用されていた場合)。還元される利益は曲全体の中のC依拠部分の寄与率(演奏時間)によって算出される。

 結局、aはAの公表にあたって、あらかじめCその他の公表済みの楽曲(少なくとも公衆に知られているもの)に対して、著作権財産権人格権)侵害となりそうな楽曲は取り除いておく法的責任がある。(人工知能αがそのような先行楽曲をチェックする機能や候補表示から避ける機能を搭載するようになってもおかしくはない)

問5 人工知能αはどのように保護されるべきか。

答5 人工知能作成者の意図に沿うべきである。もしコモンライセンス公開する意図がないなら、譲渡にあたって通常のプログラム保護手段、プロセス暗号化により逆アセンブリを防ぎ、またデータベースへのアクセスを監視するなどといった現在通常行わていれる適切なプログラム用セキュリティ手段を用いてノウハウとして秘匿することが必要である。もしデータプログラムなどの重要な部分の秘密が意図に反して漏れた場合は不正競争防止法条の営業秘密としての保護を求めるするか、特許アルゴリズムを利用した楽曲プロセス装置等の発明)として保護すべきである。

 

仮定

αの楽曲群Aは「安い・早い・上手い」音源データベースとして周知された。人間作曲者にフルオーダーするかわりにセミオーダー・イージーオーダーの感覚で頻繁に利用されるようになった。Aの中の曲を買うには、業者登録と前金の支払いが必要であり、今のところ無料で全曲を試聴することはできない。

アマチュア作曲家dは自分で苦労して作曲した新しい自作曲Dを発表したいが、Aは数が多いので、Aの中の1曲と偶然カブっている可能性がある。Aは数が多いので、お金時間を捻出して自分ですべて調べることができず、かといって未調査のまま発表してしまえば訴えられる可能性がある。

問6 dのような創作者をどのように保護するべきか。

答6 著作権には独占性はあっても排他性はないとされている。偶然、同時多発的に創作された作品は、類似ないし同一であっても別個に著作権を持つことができる。したがってアマチュア作曲家dがDの創作にあたり絶対にAのなかのどの曲も依拠していないことを証明すればDの著作権も認められる。(たとえば、没になった試作品や、αとは別の作曲ツール人工知能であってもよい)で状況を再現することは依拠性がない証明と認められやすいであろう。)しかし、DによくにたAの1曲がCMなどで日常的に耳にする状況であれば依拠性が認められるであろう。

 しかしもし依拠性がなく(ないと証明するのは悪魔の証明であり非常に難しいが、たとえばdのみならずあらゆる曲を日常耳にすることがない海外へ旅行にいっている間に創作したなどの事情があれば可能である)、dは問題なく著作権を保持することができても、すでに使用されている曲に似た曲を発表することは、「パクリではないか」との悪評を招くことになるので、Aの公表によるd等の従来型創作者の萎縮は避けられない。

 検索性についてはAを所有するaの協力の元でしか調査不可能であり、Dをaに公開せずに確認する手段がない。Aの中にDの類似曲がないかを調査する非公開かつ中立的調査機関が必要であるとかんがえられる。これはAがAI著作であることとは直接関係がなく、現行のJASRACに対しても現実に指摘されている問題である。


まとめ

現代人は生きているだけで知的活動を行い、データを発生する。何の気なしに無償公開されるブログつぶやきといった人の思想・感情を含む著作物も、個人特定情報と切り離して集積されることによってビッグデータとなり、適切にインデックスされることで天然資源となり、さらに複雑な加工を施され提供されることで人間の頭脳労働に欠くことのできないツールや、ひいてはインフラとなる。

もちろん自動車自動運転技術インフラ化の途上であろうし、他にも、農産物等の等級や異物混入(虫など)の判定に用いられる人工知能技術自己学習コンピュータプログラム)などもインフラ化しつつある。

そればかりでなく、一般的著作の補助(または主役)となるインフラとして人工知能が広まっている例も枚挙に暇がない。頭脳労働インフラ化した人工知能としてはたとえばグーグル検索の際にウィンドウの下に表示される検索語候補予測グーグルサジェスト)がある。グーグルサジェストでは検索語の冒頭数文字を入力すれば、最近ニュースとなっている固有名詞芸能人の名前を一発で正しく表示するため、その表示行為そのものがグーグル外部からの世情調査追跡対象となっていたり、欧州の「忘れられる権利」として削除対象にされたりしている。グーグルIME(入力補助、漢字変換を適切に行える)やグーグルスカラー論文アブストラクトインデックスされている)とともにすでに無料で使えて当然ものと認識され、インフラ化しているといえる。

インフラ一般論として、一たび、人間社会インフラとして認定されるような大きな産業革命があると、その発生と消費の特性にあわせて市場政府により厳密に管理され(たとえば塩・タバコにおける専売条例や、パソコンスマホにおけるOSがそうであったように)、独占禁止委員会市場独占調査洗礼をうけたあとは、「資源」のひとつぶひとつぶである個人お金での利益還元させるよりも、「採掘効率」を重視し、結果物の量や質の向上などによって社会に大きな利益還元するようになる傾向がある。

上記の例でも、楽曲群Aができたことによって、社会には当然大きな構造変化が生じ、目に見えない利益(「ユーザーエクスペリエンス」)が増大し、テレビ番組ドラマ等の創作における音楽インフラが整うと考えられる。たとえば楽曲群Aの公開により世界音楽シーンが50年進化したといわれるかもしれない。

一方でcやdといったアマチュア作曲家はのりこえられないベートーベンのような大作曲家がいきなり100人出現したのと同様で、仕事をしようとしても報われず、創作への意欲を失いかねないのも事実である。グーグルサジェストグーグルIME)も一般的辞典百科事典辞書現代用語の基礎知識、などの書籍作成者に影響を与えるであろう。他にもグランブルーの誕生チェスプレイヤーに、ボナンザアルファー碁が棋士に影響することはあるであろう。

しかしその流れはAI(とよばれるコンピュータ技術)が加速させただけで、いつか人類末裔がむかえるはずと予測されていた事象が、自分たちの生きているあいだに来たということでしかない。

となれば、AIであるからと特別に厳しく審査するのではなく、インフラになるものだから逆に手厚く保護するのでもなく、通常運転著作権でいちいち人間著作の侵害疑い事件と同様の判定をしてゆくことで、「AIだろうが人の頭脳だろうが著作としてのセンスクオリティだけが問題なのだ」と世間全体で納得してゆくしか無いと思う。

それは農産物の選別など、人類が古来より営々と行ってきた仕事の精度がまた一つ上がったに過ぎないのだから。

 

なお答5でも書いたが、個人的には、AIプログラムそのものの保護については通常の著作権(ただし職務発明思想感情項目の改正が必要)+特許権不正競争防止法妥当であろうと考えており、特許保護については弁理士の能力が最も発揮されるところである。

ジュークボックスのAI化や、自炊についてもこれに近い気がします。