2009年02月16日
書評、S.グールド著 『人間の測りまちがい ―差別の科学史』(2008、河出文庫)
昨年文庫版で出た改訂増補版を、今更ながら読む。
- 作者: スティーヴン・J.グールド,Stephen Jay Gould,鈴木善次,森脇靖子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/06/04
- メディア: 文庫
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「人間は違っていると同じになりたがる。同じだと違ったものになりたがる」(かなりおぼろげな引用)
石井洋二郎は、ピエール・ブルデューの『ディスタンクシオン』の主題を、差異化と同一化を同時に欲望する往復運動であると簡潔に要約した。*1
3世紀にわたる「知性」をめぐる“科学的”な営みも、基本的には同じ欲望に突き動かされている。
多様でてんでバラバラに散逸している人間の知的能力。この「豊かな」カオスに、科学者たちは我慢ができなかったのかもしれない。生物学者・人類学者・心理学者たちは、頭蓋骨の容量や身体の計測、IQテストなどを利用して、人間の知性を「単一の尺度」に位置づけることを選んだ。
かくして共通の土俵が設定された。しかし、それだけでは終わらなかった。科学者は、人間の知性に序列を与え、それを「知性の優劣」に読み替えた。
そしてその序列は、不幸なことに ――しかしそれはあくまで「現代の私たちから見ると不幸」という意味に過ぎないが―― 、人種間・階級間のランク付けに容易に転用された。例えば、それは
あるいは
というように。「人間の生物学的優劣」という科学的発見である。
ここで重要なのは、この科学的発見の「発見」たる所以は、手続き上の「科学」によってお墨付きを得られた(実は、その手続き自体が相当怪しい代物なのだが)というだけであり、その「アイディア」自体は何ら新しくなかったことである。「人間を序列づけること」に対し、その当時の最大限の優しさを持った慈悲深い人間でさえ、疑いをもたなかった。序列化はごくありふれた“欲望”だったのだ。
人間の知性に関する科学的営みはあくまで“欲望”を源泉としている以上、中立的でもなければ客観的でもなく、恣意的な偶然性に由来している。「結局、科学とはそういうものなのだ」――科学性に対する、著者 S. グールドの冷めた記述が淡々と繰り返される。第一線で活躍した古生物学者である著者のベタな記述は、「科学は政治である」という(SSKの教科書にあるような)どんなお題目よりも、すんなりと入ってくる。
ところで、「人種差別と科学」の本として紹介されることが多い本書だが、因子分析 ―特にその危うさ、さらに言えば胡散臭さ― の最良の入門書としても貴重である(主に下巻)。
因子分析を開発・発展させた心理学者統計学者の何人かが、人種差別主義者であった――といった程度の「舞台裏」だけではない。
- 因子。因子はあくまで数学的抽象に過ぎないこと、したがって、そこに「実体」を見いだす必然性はないこと。
- 実体化。どのレベルで「実体化」を容認するかというのは、因子分析 ―科学!― は何も言わないこと。
- 解釈の恣意性。実体化は解釈者それぞれが都合のいいレベルで行われること(オントロジカル・ゲリマンダリング!)
- 因子軸の回転。回転について因子分析は何も言わないこと。回転の仕方によっては(回転なし/バリマックス/プロマックスのどれを選択するべきか、ということではなく)、人類を序列づけられもするし、否定することも出来る。
以上が、数学的定理を用いずに、実例・ベクトル図を用いながら説明されていてわかりやすい。因子分析がいかに優れた手法であり、それと同時に、絶えず解釈者を「実体化」へ誘う危うい手法であることが理解できる。
例えば我々の祖先であるアウストラロピテクスの一種または数種が生き残った場合を考えてみよう...(中略)...
我々ホモ・サピエンスは、知的能力がはっきり劣った人間種を相手にしたとき、道徳的ジレンマに直面したに違いない。彼らを我々はどのように遇したであろうか ――奴隷? 撲滅? 共存? 召使いとしての労働力? 居留地? 動物園?
(下巻 p.233)
同一であることは幸か不幸か。
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