【文徒】2015年(平成27)5月13日(第3巻87号・通巻532号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】光文社「読者がえらぶカラー広告コンクール」雑感
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2015.5.13 Shuppanjin

1)【記事】光文社「読者がえらぶカラー広告コンクール」雑感

雑誌マーケットが販売的にも、広告的にも縮小を続ける中、光文社は例外的な存在である。何しろ五年連続で前年比100%をクリアしている。
そんな光文社の「読者がえらぶカラー広告コンクール」に出席した。私の錯覚かもしれないが、そうした勢いもあってか、例年に比べ出席者が多いように思った。
広告大賞を獲得したのは「STORY」に掲載されたシャネルの腕時計の広告であった。この大賞に私は全く異論を抱かなかった。クリエイティブの水準が明らかに一頭地、抜きでていた。
タグホイヤーが「Gainer」で読者賞を獲得しているが、こちらの時計は、時計の広告のお約束通り、10時10分を指しているが、シャネルのそれは違った。6時であったり、7時51分と52分の間を指しているというように、これまでの時計の広告の常識をいとも簡単に打ち破っていた。
しかも、カラー広告ではなく、モノクロの広告である。モノクロであることが気品を生み出している。加えて、モデルたちは単純に美貌をアピールしているわけではない。モノクロならではの陰影の内側に身をおいて、それでいて美しいのである。それだからこそ美しいというべきか。
このシャネルのクリエイティブを前にしては、日本の化粧品メーカーの相変わらず変わりばえのしないクリエイティブが野暮ったく見えてしまう。シャネルの伝統は革新を怖れない覚悟を背景にしているのだろう。
これは広告のみならず、雑誌の編集についても言い得ることである。実験も、挑戦も忌避し、過去のデータに引きずられるようにして編集された雑誌が読者に驚きを与えることは決してあるまい。模倣と伝統は違うのである。模倣を伝統と錯覚している限り、待っているのは転落である。

                                                                                                                        • -

2)【本日の一行情報】

アメリカではイーベイからアマゾンに切り替える業者が増えているそうだ。
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/150511/mcb1505110500011-n1.htm

◎角川新書から出た都留泰作の「<面白さ>の研究」の帯にはマンガ「ムシヌユン2」(小学館)の広告も入っている。むろん、「ムシヌユン」は小学館の「ビッグコミックスペリオール」に連載されている都留のマンガ作品である。都留はマンガ家にして、文化人類学者なのである。
「世界観エンタメの視点から、マンガに他のメディアにない独自性を求めようとするなら、その強力なまでの抽象性ということになるだろう。それは、線画という極度に限定された表現手法に由来している」
絵が下手であることとマンガとして優れていることは別なのである。絵は具体化すべき目的ではなく、抽象的で記号的な手段なのである。
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=321410000117
http://big-3.jp/bigsuperior/rensai/musi/

◎私は経済学には全くの素人だが、日経の前田裕之を聞き手とし、岩井克人が自らの思想の変遷を語る「経済学の宇宙」(日本経済新聞出版社)が刺激的で面白い。特にマルクスの「価値形態論」について語る第五章がスリリングだ。
マルクスは、みずからのテクストの中に、みずからの意図に反して、みずからの体系が破綻していることを彫り込んでしまっている」
http://124-110-65-41.skyarch.ne.jp/book_detail/35642/

◎上村忠男の「回想の1960年代」(ぷねうま舎)は、東京外語大学名誉教授にしてイタリア思想史の専門家たる上村の自伝だが、東大の1960年代におけるフロントの活動が活写されていて面白い。
ぷねうま舎岩波書店を定年退職した中川和夫が立ち上げた出版社である。むろん、業界誌を稼業とする私は次のような一文を見逃さない。
東京教育大学新聞会の編集長で全学新の代表をしていた北川俊こと竹内正年とは、後藤仁を介して個人的にも親しく付き合うようになった」
ここに登場する竹内正年は、弘文堂、サイマル出版会を経て、高丘季昭が社長をつとめていた西武タイムで「マネージャパン」を創刊し、社名がSSコミュニケーションズと変更になってからは「レタスクラブ」の創刊に奔走することになる編集者である。
キネマ旬報社の社長もつとめた。SSコミュニケーションズは今やKADOKAWAに吸収されてしまったが、KADOKAWAの連中は竹内の名前すら知るまい。竹内は諸井薫とも親しかった。1998年逝去。竹中労の「美空ひばり」は最初、弘文堂から刊行されるが、担当編集者は竹内であった。
ついでに言っておくと、後藤仁(活動家名は百水好夫である)は博報堂に入社し、その後神奈川県で長洲一二知事が誕生すると博報堂を退社し、神奈川県庁に入庁する。長洲も構改派である。
http://www.pneumasha.com/2015/03/30/%E5%9B%9E%E6%83%B3%E3%81%AE1960%E5%B9%B4%E4%BB%A3/
こんな写真も発見。日刊ゲンダイ元専務の鈴木教亢も東京教育大学の新聞会の出身だ。竹内の先輩である。
http://members.jcom.home.ne.jp/0361437901/bessho.jpg
セゾングループと構改派」とか「構改派出身の経営者」とかをテーマにしたノンフィクションを誰か書かないだろうか。

亜紀書房から「ニューヨークで考え中」を上梓した近藤聡乃と作家の津村記久子によるトークショーが、5月23日に京都・恵文社一乗寺店COTTAGEで開催される。近藤は2008年から文化庁在外派遣研修員としてニューヨークに留学していた。近藤はメジャーでは描いていないが、マンガでは「はこにわ虫」「いつものはなし」、アニメでは「電車かもしれない」で知られている鬼才である。
http://www.akishobo.com/book/detail.html?id=719
http://natalie.mu/comic/news/146765

池上彰は新聞の味方である。
「今、アメリカでは地方新聞が経営難を理由に次々に廃刊していて、まったく新聞がない地域が広がっています。日本の地方紙ほど規模が大きくなく、部数が3万〜4万部程度の、地域紙に近い地方紙です。
その結果、何が起きているかというと、自治体や地方議会を舞台とした汚職の蔓延です。
地域に根差した新聞社が潰れ、その地域に新聞がなくなったことで、議会を傍聴する記者がいなくなりました。すると、ある地方の議員たちは、自分たちの給料を何倍にも勝手に上げてしまったのです」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20150409/279760/?P=1

有川浩がまた版元を変更するようだ。「有川日記」によれば…。
「『三匹のおっさん』を引き上げて避難させたつもりが、全く避難できておらず、同じ悪意がこちらにも網を張っていました。悪意で歪めた話が発信されるのは、紀尾井町と矢来町だという感触を関係者一同持っております。タレコミ屋、ゴシップ屋が常に張り付いていると思われます。調べもある程度まではついております」
http://blogs.yahoo.co.jp/f15eagledj0812/13961438.html

笠置シヅ子が歌って大ヒットした「東京ブギウギ」の作詞家である鈴木アラン勝は鈴木大拙の「不肖の息子」だったのか!山田奨治の「東京ブギウギと鈴木大拙」が人文書院から刊行された。
http://www.jimbunshoin.co.jp/book/b193712.html
http://research.nichibun.ac.jp/ja/researcher/staff/s022/index.html

◎LINEは、LINE Venturesが運用する日本国内のゲームコンテンツ開発会社及びゲームコンテンツ事業者を支援する投資ファンド「LINE Game Global Gateway」を通じて、ワンダープラネットが開発する新ゲームプロジェクトに出資する。
http://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2015/993

博報堂は、高知県佐川町、神戸市他が参加するソーシャルデザインプロジェクト issue+designとの協働により、学習支援プロダクト「WRITEMORE」を開発。「勉強したくなる机」を開発したということだ。
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/21352

Instagramが日本で広告展開を開始すると発表した。雑誌広告にとっては脅威となる。
https://instagram.com/p/2aWli5BQZ0/

◎KADOKAWAは、KADOKAWA の海外拠点、海外学校から生まれるクリエイターや作品、また才能あふれる世界中のクリエイターたちの作品の発表の場として、外国人クリエイターの作品を専門に掲載するプラット フォーム「ComicWalker GLOBAL」を開設した。日本語、中国繁体字、中国簡体字に対応しており、多言語で作品を楽しめる。
http://ir.kadokawa.co.jp/topics/20150511_a8nxi.pdf

◎内沼晋太郎が札幌からクルマで3時間かかる北海道浦河町の六畳書房を紹介している。
http://tabitane.com/special/honyanotabi03/
六畳書房の武藤拓也は先の統一地方選挙浦河町議員に当選した。
http://mutotakuya.tumblr.com/profile

河合隼雄物語賞に中島京子の「かたづの!」(集英社)、同学芸賞に大澤真幸の「自由という牢獄」(岩波書店)がそれぞれ決定した。
http://news.biglobe.ne.jp/domestic/0511/jj_150511_8678081915.html
http://www.kawaihayao.jp/ja/prize/

朝日新聞社は、SHOWROOMニコニコ動画ニコニコ生放送UstreamYouTubeが提供する番組の情報をもとに、独自のアルゴリズムを用いて「今、一番盛り上がっている動画・生放送」を横断的に紹介するキュレーションサービス「eeny」(イーニー)を開始した。
http://www.asahi.com/shimbun/release/2015/20150511.pdf

朝日新聞は、朝日放送と共同で、第97回全国高校野球選手権大会のライブ中継動画やスコア速報など、豊富な情報を提供する両社の統合サイト「バーチャル高校野球」を7月中旬から開始する。
http://www.asahi.com/articles/ASH594JF7H59UEHF006.html

◎3月期の連結決算における経常利益で前期比20%増の828億円となり、最高益を更新した味の素は「味の素」の国内生産から撤退するそうだ。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ03HNX_S5A510C1MM0000/

                                                                                                                        • -

3)【深夜の誌人語録】

その人を信頼できるかどうかは友情とは全く別問題である。