【文徒】2016年(平成28)2月29日(第4巻38号・通巻725号)

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1)【記事】芳林堂書店が自己破産
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】芳林堂書店が自己破産

太洋社の自主廃業で業界の関心を最も集めていたのが芳林堂書店であったことは間違いあるまい。漸く、その結論が出た。アニメイトグループの一社である書泉に「従業員や店舗賃貸人などの関係者の一定の同意が得られることを条件」として、コミックプラザ店、高田馬場店、東長崎店、所沢駅ビル店、航空公園駅店、みずほ台店、イーサイト上尾店、エミオ狭山市店、関内店の事業譲渡されることになった。外商部事業に関しては会社分割により、「株式会社芳林堂書店外商部」を設立して、継承される。
また、芳林堂書店は書泉との合意後に商号をS企画に変更して、自己破産を申請し、破産手続き開始決定を受けた。帝国データバンクによれば1999年8月期の売上高約70億5000万円 だったが、2015年8月期の年売上高は約35億8700万円 と半減していた。負債は債権者約187名に対し約20億7500万円 。東京商工リサーチは負債が「今後さらに増加する可能性 」もあると指摘している。
いずれにしても、書泉は良い商売をしたものである。
http://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20160226_02.html
http://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/4143.html
私にとって芳林堂書店といえば、2003年に閉店してしまった池袋本店である。私は「試行」をこの書店で買っていた。地上七階、地下一階の計560坪の四階にはマルエン全集が並べられていた。「ウラゲツブログ」は「90年代半ばまで人文書売場で黒色戦線社の刊行物をずらりと棚に並べていたのは都内では珍しかった」と書いている。加えて古書高野 も喫茶店もこのビルに入居していた。 これが表の顔であるとすれば、客には見えない裏の顔は、POSレジが導入される以前から単品管理を導入していたことである。当時、店長をつとめていた柴田信講談社の組織する書店未来研究会の募集した懸賞論文で受賞作となったた「計数による現状把握ーこれからの書店経営」は大いに話題を呼んだという。1975年のことである。
池袋本店は、あらゆる意味で先駆的な書店であった。しかし、その一方、1978年のことだが、高田馬場店で多額の金銭が紛失する事件が起き、このとき高田馬場店で店長をつとめていた柴田は芳林堂書店を去ることになる。この辺りのことは「口笛を吹きながら本を売る」(晶文社)に書かれている。著者は「新文化」出身の石橋毅史だが、この本の企画は、刊行時点では既に亡くなっていた中川六平であった。
実は池袋本店の閉店をもって、芳林堂書店は終わっていたのである。芳林堂書店は日販から太洋社に帳合変更をしているが、太洋社が延命装置の役割を果たしたということであろう。
http://www.shobunsha.co.jp/?p=3547
東京商工リサーチによる「太洋社の自主廃業に連鎖した書店の倒産・休廃業調査」は次のように書いている。
「休廃業を決めた書店は、その理由として『帳合変更に伴い書籍1冊あたりの利益率の低下』、『取次業者への保証金の差し入れによる資金負担』などをあげている。太洋社の後を引き継ぎ、地域の書店との取引を新たに開始しようとする取次業者が、地域書店に対して与信コストを踏まえた上での取引条件の提示や、保証金差し入れを要求することはやむを得ない面もある。
しかし、これにより地域書店の淘汰が進み書店空白エリアが広がることは、再販制度が掲げた文字・活字文化の振興の理念を瓦解させてしまう。市場原理に伴い企業の新陳代謝が図られるのは避けられないが、急激な変動は利益を享受すべき読者に大きな不利益を与えかねず、業界全体で激変緩和に向けた取引方法の構築を模索すべき時期に来ている」
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20160226_02.html
これについて「ウラゲツブログ」は次のように警鐘を鳴らしている。
「『激変緩和に向けた取引方法の構築』というテーマには当然、再販制の弾力的運用も含まれることでしょう。商取引の細部を見れば再販制のみを論じればいいのではないことは明らかなので、『再販制は悪』などという議論の単純化は賢明に避けねばなりません」
http://urag.exblog.jp/22529127/
林智彦の「芳林堂も破産、書店閉店が止まらない日本--書店復活の米国との違いとは?」がよく読まれているようだ。アメリカでは独立系の書店 が店舗数を伸ばして復活の兆しを見せているが、林は、その理由として次の4点を指摘している。
1.紙の本の価値が再認識されてきた
2.Amazonの検索でも拾いきれない、地域の人々の宗教、民族、文化の細かな差異とそれに基づくニーズに、独立系書店が応えるようになった(ハイパーローカル化)。地元出身の作家、地元にちなんだ作品を積極的に並べるなどの試みも功を奏した。地産地消運動(バイ・ローカル運動)もこの動きを後押しした
3.オーサービジットやサイン会だけでなく、講演会、ライブ、創作講座、子供向けの店内キャンプなど、本とは直接関係ないものも含めて、リアル書店でしかできないイベントを頻繁にしかけるようになった(コミュニティセンター化)
4.書店がオリジナルグッズを販売するなどして、地域にブランドロイヤリティを醸成するようになった(ブランド化)
http://japan.cnet.com/sp/t_hayashi/35078425/
明屋書店代表取締役をつとめるトーハン出身の小島俊一の辛辣にして強烈な意見に耳を傾けよう。
「私のトーハン勤務、そして今の四国松山の明屋書店社長の経験から言うと、地方書店の経営者の大半は、決算書を全く理解出来ていません。
そんな地方の本屋が倒産して行きます。
(中略)
収益とキャッシュフローが区別も出来ないお小遣い帳レベルの理解が殆ど。
減価償却費の正体も分からないから、自社の借入金の返済原資がどれくらいなのかも分からない。決算書を見ないから、自社の税引後当期純利益が幾らか位は、分かっても、正当な銀行交渉すらも出来ない。
販売価格が決まっていて、取次からの仕入条件も一定の書店業。すなわち、粗利が確定している。その粗利の範囲内に経費をコントロールするのは、経営者の仕事。これが、出来ないのは、損益計算書への基本的な理解の欠如。
商品は、いつでも仕入先の取次が仕入原価で引き取ってくれるから、貸借対照表の商品の部は、毀損しない。小売業小売業としてのこのアドバンテージを理解していない。粗利は、平均で23%はある。ある意味で、こんな恵まれた商慣習の業界も滅多に無い。
頑張ろうよ。書店業同輩諸氏。
先ず、決算書を勉強しましょう」
https://newspicks.com/news/1417470/
ゴメン、オレも決算書を理解できない。残念ながら、オレは小島のように明晰な頭脳を持ち合わせていない。高校時代に高橋和己をむさぼるように読み、大学では明大であるにもかかわらず橋川文三ではなく丸山真男を読み込んだと豪語する小島のような名経営者に一度ご指導を賜りたいものだ。
http://mainichi.jp/articles/20150830/ddl/k38/010/388000c
ちなみにトーハンの現社長は決算書を理解するのは得意なのだろうが、三和銀行の広報マンとしては私の経験からすれば失格であったこともここに付記しておこう。こうも言えるかもしれない、トーハンのようなセブン&アイグループに支えられた大取次は、決算書の読める社員ばかりで構成されているから、「仕入正味65掛」「委託」「7ヶ月後の精算」「35%返品保留」「5%の歩戻し」 といった中小零細版元に対して強いる差別取引に何の痛みも感じないのであろう。

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2)【本日の一行情報】

文教堂座間駅前店が3月末をもって閉店。
https://twitter.com/zama_info/status/702475394503434240
三洋堂書店徳重店が3月21日をもって閉店。
http://kaiten-heiten.com/sanyodo-tokushige/

◎MMDLaboの「電子書籍および紙書籍に関する調査」によれば電子書籍を「現在利用している」とした人は無料コンテンツで22.9%、有料コンテンツで16.5%。2015年の無料コンテンツ22.4%、有料コンテンツ17.2%から横ばいの結果 となった。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20160226_745452.html

楽天のネット通販は東南アジアから全面的に撤退する 。
http://www.asahi.com/articles/ASJ2T53DYJ2TULFA01C.html

◎「WiLL」の花田紀凱編集長が御年73歳にして飛鳥新社に移籍する !何てタフなんだ。「WiLL」の後任編集長は、花田と同様に文藝春秋出身の立林昭彦である。
http://www.sankei.com/life/news/160226/lif1602260002-n1.html
夕刊フジは次のように書いている。
「花田氏は3月にワックを退職。3月26日発売の5月号がワック在籍中に手がける最後の号となる。花田氏を含め現在の『WiLL』編集部員6人も同時に移籍し、同誌の路線を引き継いだ雑誌を作るという 」
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20160226/dms1602261205015-n1.htm
中国共産党が崩壊するまで編集者をつづけるというのは、花田にとってシャレではなく本気なのだろうな。

◎日販は、2月27日(土)より全国約1,000軒の取引書店で、「VOGUE JAPAN」(コンデナスト・ジャパン)、 「AneCan」(小学館)、「LEE」(集英社) 、「and GIRL」(エムオン・エンタテインメント) 、「LARME」(徳間書店) 、「GINGER」(幻冬舎)、「VOCE」(講談社)、 「SPUR」(集英社)、「MORE」(集英社)という女性ファッション誌9誌の読者プレゼント企画「女性誌クリアファイルプレゼントキャンペーン」を実施 している。
http://www.nippan.co.jp/news/clearfile_cp_20160226/
また、読売新聞東京本社とともに、新聞紙面と全国書店との連動企画「ミステリーブックフェア2016」を、日本推理作家協会の後援のもと、2月28日(日)より開催 している。対象書籍は「往復書簡」(湊かなえ 幻冬舎文庫)、「女王はかえらない」(降田天 宝島社文庫)、 「怒り (上)(下)」(吉田修一 中公文庫) 、「 雪の断章」(佐々木丸美著 創元推理文庫) 、「亡者のゲーム」(ダニエル・シルヴァ ハーパーBOOKS) 。
http://www.nippan.co.jp/news/mysterybookfair2016/

◎インスタグラムの全世界における広告主が20万を突破 した。広告主の75%は米国外の企業で、また、広告主の拠点は200か国以上 に及ぶ。
https://markezine.jp/article/detail/23983

BuzzFeed統括編集長 ベン・スミスの発言。
「…アメリカでも、新聞などのレガシーメディアの発行部数は落ち続けています。 それは事実ですが、これは従来メディアの消失を意味するのではなく、新しいメディアと従来メディアの境界線が消えつつあることだと捉えています 」
http://nikkan-spa.jp/1042741

リクルートマーケティングパートナーズは、オンライン学習サービス「受験サプリ」、「勉強サプリ」、「英語サプリ」、「英単語サプリ」のサービスブランドを、小中高校生の多様な「学び」を総合的にサポートしていくために 2月25日より「スタディサプリ」に統一した 。
http://www.recruit-mp.co.jp/news/release/2016/0225_2893.html

◎「デイリースポーツ」によれば東国原英夫が26日、フジテレビ系「バイキング」に出演し、「週刊文春」の女性記者がハニートラップをかけてくると発言したことに対して、女性記者から抗議があったと語り、番組での公開討論を提案した。
http://www.daily.co.jp/newsflash/gossip/2016/02/26/0008838990.shtml
視聴率低迷のフジテレビが人気絶頂の「週刊文春」を利用しているとしか思えないんだよなあ。

◎総合婚活サービスの IBJ小学館の女性向けマンガ誌「Cheese!」とコラボし、同誌より2016年2月24(水)に発売されたコミックス&コラム
「こじらせ女子でも失敗しない婚活ガイド」において、サービスの提供やインタビューなど全面的に取材協力をした。
http://www.ibjapan.jp/information/2016/02/cheeseibj.html

小学館は「犬バカの犬バカによる犬バカのための」をテーマに制作された デジタルコミック「いぬまみれ」Vol.1 をリリースした。
http://natalie.mu/comic/news/177678
猫の次は犬か。

魔夜峰央パタリロ!」 がWebサイト「花LaLa online 」へと連載媒体を変更することになった。
http://natalie.mu/comic/news/177750

◎H.A.Bookstoreと双子のライオン堂 の企画で「百書店の本屋祭」を3月23日に北青山京都造形芸術大学東北芸術工科大学外苑キャンパス で開催する。全国の書店 に「もし自分の店で10冊だけ本を売るなら」をテーマに選書 を呼びかける。主催者が仕入、販売 するが、イベント終了後、選書された本の販売額の10%を選書者 へ支払うという。
http://www.habookstore.com/%E7%99%BE%E6%9B%B8%E5%BA%97%E3%81%AE%E6%9C%AC%E5%B1%8B%E7%A5%AD/

◎「週刊少年サンデー」(小学館)で連載中のコトヤマのマンガ「だがしかし」に登場する駄菓子屋「シカダ駄菓子」の店先が、東京・六本木の東京ミッドタウン地下1階「TSUTAYA BOOK STORE 東京ミッドタウン」店内に3月23日まで 再現される。
http://mainichi.jp/articles/20160225/dyo/00m/200/014000c

クリーク・アンド・リバー社は、シリーズ累計発行部数500万部を誇る若木未生ライトノベル「ハイスクール・オーラバスター」シリーズの電子書籍をリリースした。今や入手困難となった集英社文庫コバルトシリーズ版「ハイスクール・オーラバスター」を復活させたことになる。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000614.000003670.html
電子書籍書き下ろしのBLやオトメ系の場合、5000DLを弾き出すタイトルが出つつあることも付記しておこう。

大日本印刷と同社グループの書店およびトゥ・ディファクトが共同で運営するハイブリッド型書店サービス「honto」は、スマホ向けの拡張現実を活用した位置情報ゲームアプリ「Ingress」と講談社のマンガ「聖☆おにいさん」のコラボ企画 をジュンク堂書店 立川高島屋店 のオープンを記念して実施している。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000079.000009424.html

田中芳樹 の秘書をつとめる安達裕章 が次のようにツイッターで報告した。
「本日、光文社の編集さんが来社されまして、田中さんから『アルスラーン戦記』第15巻の最終章の原稿を受け取って帰られました。 お待たせいたしました、『アルスラーン戦記』第15巻、脱稿であります!」
https://twitter.com/adachi_hiro/status/702749691939688449
「さぁ、あとは光文社の編集さんのお仕事になりますね。 イラストの丹野忍先生にも、お世話になります。 5月初旬に荒川弘さんのコミック版『アルスラーン戦記』第5巻が刊行されるということですが、ちょうど足並みが揃う感じかな?」
https://twitter.com/adachi_hiro/status/702750643425923073
「光文社の編集さんが帰られたあと…… 田中『予定よりも2週間早く書き上げたよ』 安達『ですね。お疲れさまでした』 田中『二、三日はのんびりさせてもらうわ』 安達『はい。じゃあ週明けからは新しい仕事ということで』田中『……四、五日はのんびり』 安達『ダメ』 田中『え』 安達『ダメ』」
https://twitter.com/adachi_hiro/status/702751508526333952

◎「本屋大賞」にデビュー作「君の膵臓をたべたい」がノミネートされた住野よる が「また、同じ夢を見ていた」 を刊行した。ともに双葉社からの刊行だ。
http://music-book.jp/book/news/news/114324

白泉社鳥嶋和彦、良いこと言うなあ。同感です。
白泉社には、『自分』のことを好きな人に来てもらいたい。
編集者に必要なのは、熱烈な好奇心と、深い愛情。
それを保ち続けるには、自分の軸を持っていること、
自分を好きでいる必要がある、と考えています。
個人があってこそ、組織がある。
だからこそ白泉社の成長には、個人の力、個人の成長が必要です。
私は今、白泉社にどんな個性を持たせようか、毎日、真剣に考えています。
だから、学生の皆さんにも話を聞いてみたい。
面接の場では、誰よりも真剣に話を聞くことを約束します。
私と一緒に、白泉社のあり方を語ろう 」
http://www.hakusensha.co.jp/recruit2017/

◎「地球の歩き方」のダイヤモンド・ビッグ社は、「クックパッド地球の歩き方 世界のおいしいおかず」を発売。27の国&地域から75品のレシピ を紹介している。「ムール貝のワイン蒸し 」が好きなんだよねぇ。定価は790円+税 。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000010017.html

アメリカで2007年以来初めて、書店の売り上げが増加に転じた とハフィントンポスト日本版が書いている。
アメリ国勢調査局が発表したデータによると、2015年の書店売り上げは111億7000万ドル(約1兆2500億円)で、前年に比べ2.5%増えた 」
また、全米ベストセラーノンフィクション部門で1位は片づけコンサルタント近藤麻理恵の「The Life-Changing Magic of Tidying Up(人生がときめく片づけの魔法)」だそうである。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/02/24/female-authors-helped-bookstore-sales_n_9312426.html

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3)【深夜の誌人語録】

転びながら学べ!