【文徒】2016年(平成28)10月4日(第4巻185号・通巻872号)

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1)【記事】講談社がアマゾンによる「Kindle Unlimited」からの自社作品1000作以上全面削除で抗議!
2)【記事】 ジャーナリストの黒藪哲哉が新聞の「押し紙」問題を考える全国集会を開催
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.10.4.Shuppanjin

1)【記事】講談社がアマゾンによる「Kindle Unlimited」からの自社作品1000作以上全面削除で抗議!(岩本太郎)

講談社は昨3日午後、読み放題サービス「Kindle Unlimited(KU)」に提供していた同社の作品が9月30日夜以降に全て削除された件に関して、KUを運営するアマゾンジャパンに抗議する声明を公表した。
http://www.kodansha.co.jp/upload/pr.kodansha.co.jp/files/pdf/20161003amazon.pdf
KUのサービスがスタートした今年8月3日以降、講談社は自社で発行している書籍・雑誌のタイトルから全部で1000以上の作品を、これまでKUに提供してきた。ところがKUをめぐっては開始後ほどなくから、当初は提供されていた作品が突然サービス上から姿を消してしまったとの指摘があちこちから上がるようになっていたのは承知の通りだ。
講談社に関してもそうした例が生じており、当然ながら既にアマゾンに対して抗議をしていた中での、突然かつ一方的な全作品削除だったらしい。上記の声明はこの間の経緯を以下のように述べている。
《同サービスが展開する過程において、先日、一部報道にございました通り、アマゾン社側の一方的な事情により、同社ランキング上位に並ぶ書目が提供元の弊社に何らの連絡もなく、配信を停止されるという事態が発生しておりました。この際、弊社の提供書目は十数作品がサービスの提供から除外されております。この事態により、著作者との間で合意している提供書目が著作者のかたがたへ事前にご説明させていただくことなく同サービスから消えることとなり、さらに人気書目の閲読を楽しんでいただいている読者の皆様に も大きな不利益をもたらすこととなりました。
弊社といたしましては、アマゾン社が独断でこのような配信停止措置を採り得るものではないと考えておりますし、今回のような事態を、読者の皆様や提供した書目の著作者のかたがたにご理解いただくことが困難であると考えています。そこで弊社は今回の事態に対し、これまでアマゾン社に強く抗議をし、また、同時に同サービスにおける配信の原状への復帰 を求めてきました。
しかしながら事態は好転いたしませんでした。そればかりか、弊社が抗議を行っている最中に、アマゾン社は、9 月 30 日夜以降、弊社が提供する 1,000 を超える作品すべてを、一 方的に同サービスから削除しました。このような状況に、書目を提供してきた出版社として大変困惑し、憤っております。
弊社はこの一連の事態に遺憾の意を示すとともに、アマゾン社の配信の一方的な停止に対 して強く抗議いたします。サブスプリクション・モデルと呼ばれる定額のコンテンツ提供サ ービスの健全な発展のためにも、引き続きアマゾン社には善処を求めてまいります》
KUが先週末の30日夜から大量削除に踏み切った作品は講談社だけではない。声明を受けてさっそく日経新聞が次のように報じている。
講談社以外の出版社でも提供作品が減少している。8月末時点で小学館の作品は600以上並んでいたが、3日時点で430作品に減っている。白泉社の574作品や光文社の550作品も現時点では全てサービスから外れている》
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ03HPT_T01C16A0TI5000/
鳴り物入りで始まったKUから人気の作品が次々に消えて言った背景には、アマゾンの予想を超える読者が詰めかけてきてしまったことによる予算不足の問題が先に指摘されていた。ただ、今回の30日夜からの大量削除は「10社ぐらいの版元の作品で行われたようだ」(ある出版業界関係者)との声もあり、上に挙がった出版社名からしてもコミックの版元を主なターゲットとして行われたのではないか。おそらくアマゾンとしては日本においてコミックが読み放題サービスでこれだけ読まれるなどとは予想していなかったことだろう。
「やはり外資との付き合い方には慎重さが必要だということでしょうね」と、某出版社の社員は言う。彼らは彼らのルールを、自らの圧倒的に有利な力をバックに押し通してくる。それに首根っこをつかまれた日本の出版社が先方の言うがままにやったら、こういう事態になったというわけです」
黒船のごとき巨艦アマゾンに対して日本ローカルの出版社が振り回される一方という展開の中で、起こるべくして起こった事態だと言えるのではないか。

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2)【記事】ジャーナリストの黒藪哲哉が新聞「押し紙」問題を考える全国集会を開催(岩本太郎)

新聞の「押し紙」問題を一貫して追求してきたジャーナリストの黒藪哲哉らによる「新聞の偽装部数『押し紙』を考える」全国集会が、さる10月2日午後に都内の板橋文化会館で開催され、筆者(岩本)も出席してきた。
http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2016/09/11b9f97c1e37af8ae4f15e5aff97f03c.pdf
集会ではまず最初に黒藪による「押し紙」についての具体的な説明と、実際に新聞販売店から「押し紙」が古紙業者によって人知れず回収されていく場面をひそかに撮影した映像の上映が行われた。実際、この日の参加者には新聞販売店で働いた経験を持つ関係者のほかに「今年の初めにネットで初めて『押し紙』というのがあると知った」という若い男性もネット上での告知を見つけてやってきており、これまで視覚的なイメージを伴った形ではなかなか報じられてこなかった(当然、新聞はもとより新聞社の系列下にあるテレビ局も全く報道してこなかった)「押し紙」について、いわば”初心者”にもわかりやすく伝えるための試みが盛り込まれたわけだ。そのうえで黒藪は、敢えて今回こうした集会を行うことを決めた理由を簡単に説明したが、そのあたりは彼が自らのサイト「MEDIA KOKUSHO」に掲載した集会告知にも詳しく書かれているので引用しておこう。
《新聞批判といえば、紙面批判を意味する昔からの同じパターンが繰り返されてきたのだ。記事の質を嘆き、新聞記者の職能を罵倒し、心がけを改めて不屈の精神を手に入れれば、新聞ジャーナリズムは再生できるという観念論の視点からの議論が延々と繰り返されてきたのである。
そこには新聞社のビジネスモデルの中から客観的な問題点と原因を探ろうとする科学的な姿勢は皆無だった。紙面の劣化を記者個人の能力、あるいは不見識の問題として片づけてしまう主観主義の傾向があったのだ》
http://www.kokusyo.jp/oshigami/10359/
そのうえで今回のメイン講演の講師として登壇したのは、福岡県久留米市で法律事務所を営む弁護士の江上武幸だった。江上はもともと特に新聞などメディアの世界に詳しいわけではなかったが、たまたま2002年、同市内で新聞販売店「YC広川」を営んでいた真村久三が読売新聞によって一部営業区域の返上を強引に求めてきた(筑後地区における別の大物店主の弟が経営する隣接店へと、ようするに縄張りを譲れと言ってきたらしい)ことの相談を受けたことをきっかけに、YC広川を含む近隣3つの読売専属新聞販売店を原告とした裁判の弁護団長として、その後の読売側との14年に及ぶ熾烈な裁判合戦に関わることになった。
http://www.kokusyo.jp/oshigami/10427/
そのあまりに込み入ったプロセスについては、既に当日の講演の抄録が上記に掲載されているので参照されたいが、この過程で江上も新聞販売における闇の部分である「押し紙」の存在を知るようになった。というのも、読売新聞はこの3店舗に対して実に40〜50%もの「押し紙」(新聞社内では「残紙」と呼ぶ)を押し付けていたのだ。
「向こうが『押し紙』を逆手にとって店の改廃(販売店との契約の打ち切り→実質的な廃業通告)を迫ってきたこともありました」と江上は講演で語った。
「ある日、先方(読売側)の販売担当者が『押し紙を減らしてはどうか』と提案してきたんです。それを聞いた販売店も、当時まだ『押し紙』についてよくわかっていなかった私も『よかったね』と喜んでそれに応じたんですが、ここから先方は『今まで読売をだまして、実際に配達している部数よりももっと多くの読者がいるかのようにやっていたのは契約上の信義則違反にあたる』として、逆に店に契約打ち切りを通告してきたんです」(江上)
こうした福岡における一連の裁判では、読売側は最後まで頑なに「押し紙」は1部もないと主張し、最終的には裁判所側もその主張を認める形で裁判が終結する結果となった。しかも、同裁判での読売側の代理人を務めた弁護士は「自由人権協会」代表理事喜田村洋一。日頃は民主主義や人権の大切さを訴える弁護士がそうした立場で立ち向かってきたのだから何とも皮肉ではある。
しかし、現在でも「押し紙」をめぐる訴訟は隣県の佐賀新聞とその販売店主との間で行われており、「この裁判は販売店側が勝つ可能性が高いのではないか」と江上は見る。全国各地の販売店が苦しんでいる「押し紙」の実態のうち、上記のようなケースはまだ氷山の一角であり、「これからも各地における裁判などを通じて、この問題を明らかにしていくことが重要」と江上は述べていた。

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎先日の米大統領選におけるクリントン・トランプ両候補による第1回目のテレビ討論会では「ファクトチェッカー」なる存在が注目された。ある言説内容(政治家や著名人、メディアの報道など)が事実かどうかを調査・分析する人を指す職能のことで、米国には専門職としてのファクトチェッカー、およびその専門サイトが多数存在。世界全体でも少なくとも115個のファクトチェック専門サイトがあるが、日本には一つもない――と、日本報道検証機構楊井人文(弁護士・元産経新聞記者)が紹介している。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20160930-00062707/

ベネッセコーポレーションが発行する女性誌『サンキュ!』は、ここ5年間で男性読者の数が約3倍に増えたのだそうだ。産経ニュースが同誌編集長の武田史子にインタビューのうえ紹介。
《同誌でも、創刊から10年ほどは読者のほとんどが専業主婦だったのに対し、ここ数年で共働き家庭の割合が増え、全体の6〜7割を占めるほどになった。武田編集長は「自分は専業主婦家庭で育ったが、妻とは共働きという人が多い。自分で家事をしようとしても、何から手を付けていいのか分からない“共働き第一世代”が増えているのでは」と分析。読者の間で共働き世帯が多数派になるとともに、「家事のできない夫が読めるページが欲しい」という声も、この5年で7倍以上に増えた》
http://www.sankei.com/life/news/161002/lif1610020009-n1.html

◎マガジンハウスのウェブマガジン『コロカル』が、岐阜県の飛騨地方で将来的に“地域編集部”を作ることを目的としたワークショップを高山市内のコワーキングスペース「co-ba HIDA TAKAYAMA」にて、来る10月末から来年2月にかけて計4回開催する予定。対象は「飛騨地域で生まれ育った人々、UターンIターン等の先輩移住者で、次の地域づくりを担う15歳以上の方」。プロの編集者、フォトグラファー、ウェブディレクターが講師を務めるそうだ。
http://colocal.jp/news/82376.html

◎ネット企業のサイバー・バズが運営するスマホ情報サイト『SIMコンシェル』が、SmartNewsやグノシー、MERYなど主要ニュースアプリ10個の通信量を比較。それによると5分間使用した場合の通信消費量が一番少なかったのはSmartNewsで、MERYはその約6倍。最も多かったアンテナの通信消費量はSmartNewsの約8倍にのぼったそうだ。
https://koteihi-minaoshi.jp/sim/article/0280436

◎かつて双葉社の『コミックハイ!』(既に休刊)で『盤上の詰みと罰』を連載し、現在はKADOKAWAの『コミックフラッパー』で『将棋めし』を連載しているマンガ家の松本渚が、マンガの連載が打ち切りか継続かが判断される基準について次のようにツイートしたところ、たちまち1万リツイート以上も拡散され、様々な質問が寄せられるなど大反響を巻き起こしたそうだ。
《たまに漫画家さんが呟いてるけど、作品は単行本発売後一週間の売り上げで打ち切りか継続が大体決まるのよね。本屋さんも人気作や大御所作家作品しか置かなくなってきているし新人には厳しい状況なのよね。応援したい作品や新人作家さんがいたら是非一週間以内に買って読んであげてね》
https://twitter.com/matsumon23/status/779618883107901441
http://woman.infoseek.co.jp/news/neta/davinci_12192

◎9月初めに吉原で遊郭専門書店「カストリ書房」をオープンした渡辺豪(一人出版社「カストリ出版」代表)はもともとIT企業に勤める普通のサラリーマン。『週刊プレイボーイ』のインタビューに自らを「完全に無趣味な人間でした」と振り返りつつ、遊郭に興味を覚えて各地を調べて回るようになったプロセスを以下のように述べている。
《国内旅行をしている時、観光名所ではなく、なんとなく横道を歩いていたんです。「雰囲気が少し違う、面白い場所があるなあ」と思ったら、それが遊郭跡地だった。ところがそこにどんな歴史があるのかを調べようとしても、ネットには情報が何も載っていない。「知られていないことが多くて面白いな」と思いました》
《文献調査もするんですが、全国の遊郭に関する情報は、実はほとんど残っていないんです。特に地方のことになると資料が極端に少なく、国会図書館や大学にもない。過去、日本には最大で500くらいの遊郭があった時代があるんですが、そもそもどこの土地にあったのかさえわからないことが圧倒的に多い。歴史に空白が多いんです》
《そもそも遊郭文化というのは、性欲と金銭欲がベース。そういう意味で、遊郭に関する文化を高尚なものとして捉える感覚は僕にはなかった。今の時代だからこそ、遊郭専門の出版業を起こしてみようと思いましたね》
《サラリーマン時代はWEBサイトのプラットフォーム運営をするディレクターをしていました。そのため、『情報をお金に換える』ということについては学んでいました。せっかく自分が夢中になったことですし、自分の足で集めた情報価値をマネタイズしたい、という思いが生まれましたね》
https://news.nifty.com/article/item/neta/12176-72901/

◎TBSが月額900円で過去の人気ドラマやバラエティなど約3300本を見放題とする動画配信サービスを始めるそうだ。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO07909220S6A001C1TJC000/

◎相次ぐ中毒死事件が報じられた横浜市神奈川区の大口病院に、扶桑社の46歳の男性記者と20歳の男子大学生が侵入し、病院の警備員らにより建造物侵入の疑いで現行犯逮捕された。2人は「病院内を撮影するためだった」と容疑を認めているという。
http://www.asahi.com/articles/ASJ9Z65CZJ9ZULOB01T.html

◎ヤフーが新卒者の一括採用を廃止すると発表。昨日から始まった採用のエントリーでは技術・営業などの全職種が対象に、新卒・既卒に関わらず18歳以上・30歳以下の通年応募が可能となった。
http://pr.yahoo.co.jp/release/2016/10/03b/
http://www.huffingtonpost.jp/2016/10/02/yahoo-entry_n_12303336.html
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1610/03/news075.html

電通タイムアウト東京、JTBコミュニケーションデザインの3社が共同で、「リアルな東京」を世界に向けて発信するアワード「Time Out Love Tokyo Awards 2016」を今月から12月にかけて開催する。
http://lovetokyoawards.com/
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2016/0929-009056.html
http://www.jtbcom.co.jp/news/2016/09/-time-out-love-tokyo-awards-2016.html

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4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「ここらが自分の限界だ」と思う一線は、たいてい本当の限界の二〜三歩手前に引かれているものだ。