【文徒】2017年(平成29)年2月17日(第5巻31号・通巻960号)

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1)【記事】KADOKAWA『岐阜信長歴史読本』誤植問題で校正プロダクションは「名誉回復にならない」
2)【本日の一行情報】
3)【人事】電通 2月14日発表 取締役人事(代表取締役の異動)
4)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】KADOKAWA『岐阜信長歴史読本』誤植問題で校正プロダクションは「名誉回復にならない」(岩本太郎)

1月30日発売のムック『岐阜信長歴史読本』に誤植など大量のミスが見つかった問題で、発行元のKADOKAWAは15日に以下のご報告を発表し、公式サイトにも掲載した。
《『岐阜信長歴史読本』の製作にあたっては、内容の校正・校閲作業を、弊社と取引実績のある専門会社に委託しておりました。当該会社は、弊社が提供した校正刷に、内容のチェックならびに修正箇所の指摘(朱字)を正確かつ的確に行い、弊社担当編集者に納品したことを確認しております。
しかしながら、当該会社から指摘された朱字を、実際の修正を指示する校正刷に反映させる弊社内での作業において、多くの転記漏れが生じ、それが最終的に修正されることなく刊行に至りました。
社内調査の結果、こうした事態を招いた原因として、以下の 2 点を認識しております。
第 1 に、本来 2 回行うはずの校正・校閲作業が『岐阜信長歴史読本』では、1回しか行われていなかった事実です。
弊社では「校正・校閲は 2 回以上行う」ことを編集製作の大原則としております。校正・校閲作業の結果が的確に反映されていることの確認、また、出版物の内容・体裁が発行に適正かどうか精査するためには、複数の校正・校閲作業が必然だと考えているからです。
しかし今回の『岐阜信長歴史読本』の編集製作過程においてはスケジュール管理の不備から、その大原則が遵守されておりませんでした。
第2には、『岐阜信長歴史読本』編集部内での校正刷の内容確認作業において、組織的なチェック体制が機能していなかった、という事実です。》
http://ir.kadokawa.co.jp/topics/20170215_n3evi.pdf
「2点を認識している」といっても、なぜ「2回行うのが大原則のはずの校正・校閲作業が1回しか行われていなかった」のか、なぜ「組織的なチェック体制が機能していなかった」のかについては全く説明されていない。そこは「対策チーム」でこれから解明されるのかどうかはわからないが、そこを説明しないことには誰も納得しないのではないか。
中でも一番納得できないのは、同書で校正を担当したためにあわや大量誤植をやらかした“主犯”扱いされかかったプロダクション「ぷれす」だろう。KADOKAWAから上記の「ご報告」が出た15日の午後にはさっそくぷれす社長の奥村侑生市の名前で《公表された「『岐阜信長歴史読本』における誤表記発生の経緯に関するご報告」について》という、今回もさながら抗議声明といった内容の文書を同社の公式サイトにアップした。KADOKAWAの担当者・川金正法ビジネス・生活文化局長から送られてきた手書きメッセージ入りの「ご報告」FAXも画像として添えられている。
《本日(2/15)午後2時50分頃に、株式会社KADOKAWAの川金正法ビジネス・生活文化局長より1枚のFAX(『岐阜信長歴史読本』における誤表記発生の経緯に関するご報告)を頂戴しました(左画像)。
当方が内容を確認し、川金局長に意見や感想をお伝えしようと思ったところ、すでに同社の公式サイト上にて発表されておりました。
http://ir.kadokawa.co.jp/topics/20170215_n3evi.pdf
同文書は、校正を担当した会社について「弊社(KADOKAWA)と取引実績のある専門会社」、「当該会社」と表現するのみで、当社=「株式会社ぷれす」の名は記しておりません。これでは、明確に名誉を回復していただいたことにはならないと考えております。
なぜ当社の社名を明記できないのか、ふしぎでなりません。まずはこの点につき、当社の社名を記載していない理由を明らかにしていただくか、同コメントの訂正を求めるものであります。
2017年2月15日
株式会社ぷれす 代表取締役 奥村侑生市》
http://www.press-jp.com/news/?p=1#1487149040-144334
これだけでは足りないと思ったらしく、奥村は後刻に以下の《追記》もサイトにアップした。
KADOKAWAから発表された「『岐阜信長歴史読本』における誤表記発生の経緯に関するご報告」について、追記いたします。
同文面において「内容の校正・校閲作業」とありますが、当社が担当したのは、あくまで内容の事実関係の調べまで行わない校正(誤字脱字のチェックを主体とした作業)です。校閲作業は請け負っておりません。そのことは明確に分けて記載されるべきです。
この点においても、とても大雑把な報告書であると判断せざるを得ません。この点についても訂正を求めたいと思います。
2017年2月15日
株式会社ぷれす 代表取締役 奥村侑生市》
http://www.press-jp.com/news/?p=1#1487151263-540667
奥村は、KADOKAWAの「ご報告」を受けた毎日新聞の取材にも《我々にミスがなかったことを社名を挙げて表記していない》《ネット上で(校正側のミスとの)誤解を生み根拠なき中傷にもつながっている。社の信用と名誉の回復を求めたい》とコメントしている。
http://mainichi.jp/articles/20170216/k00/00m/040/057000c
「ぷれす」には他にもいくつかのメディアから取材が入ったようだ。奥村は16日、さらに以下のメッセージを公式サイトに追加している。
《各報道機関の皆様からもきちんとした取材を受け、私どもの主張を掲載していただきました。おかげさまで、当初懸念された風評被害も広がらずに済んでおります。(中略)この事故を教訓として、「校正」の位置づけや重要さが広く再認識されることを望んでいるところです。》
http://www.press-jp.com/news/?p=1#1487241103-748914

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎『岐阜信長歴史読本』での大量ミスが生まれた背景について、この件には関わっていないものの「KADOKAWAでの編集作業の流れ」をある程度把握しているというフリーランスのベテラン編集者がウェブメディア『grape』のインタビューで次のように語っている。
KADOKAWAでは、現在ほとんどの編集部が文字修正などをInDesignというソフトを使い、編集者が行います。
校了データを印刷所に渡す際に、データが先祖返りしてしまった可能性が高いのではないでしょうか。》
《例えば、再校データをイジっているつもりで、初校データを開き、作業をしてしまうことなどを「データの先祖返り」と言います。
つまり、今回の場合で言うと「校了データだと思って印刷所に納品したものが、実は初校などの古いデータだったのではないか」というのが私の予測です》
《今回ほどの規模ではありませんが、過去に「データの先祖返り」が原因で、本文に「あああああああ」というダミーが入ったまま出版された雑誌もあります。
スケジュールにもよりますが、校了前は精神的にも肉体的にも追い込まれている場合がほとんど。
睡眠時間が極端に短い中で「うっかり」ということを考えれば、「明日は我が身」です。本気で、今回の件を笑い飛ばしている同業者はいないのではないでしょうか。》
http://grapee.jp/293641

光文社新書編集長の三宅貴久と角川新書編集長の原孝寿らが語り合う「新書座談会」の後編を『角川新書』が掲載。今回は昨年11月発売の講談社現代新書『ヒットの崩壊』(柴那典)など最近の話題作をテキストにトークが展開されている。角川新書編集部員の菊地悟が途中で“現物”(誌面で写真を掲載)を示しながらこんな話題を披露していた。
《新書で初めて全帯をやったのは、光文社新書の『非属の才能』(著:山田玲司)だったと記憶しています。そしてさらに遡ると、フィクションの文庫で吉田修一さんの『悪人』が、映画キャストのビジュアルの全帯を使って展開し、フィクションのほうでその売り方が広がっていった流れがあるんですよね。で、実はぼく、もっと前にこの全面オビをやっている書籍を発見して……昭和46年に発行された『沈黙』の単行本なんですよ。(略)今日、歴史的資料として持ってきました。 (略)菊地 折しも新しい『沈黙』の映画が上映されているこのときに、全帯が「悪人帯」ではなく「沈黙帯」なんだということを宣言したくて(笑)》
http://shinsho.kadokawa.jp/serial/3057/

◎元農林水産相の西川文也が13日に都内のホテルでパーティを開催し700人が参加。パー券1枚2万円の政治資金パーティだったが、かつて西川が委員長を務めていた衆議院TPP特別委員会において、発売前のゲラ刷りを入手した民進党から追及されて審議が紛糾した曰くつきの西川の著書『TPPの真実 壮大な協定をまとめあげた男たち』(開拓社・刊)の出版記念も兼ねていたそうだ。出席した小泉進次郎が「これほど出版前に読まれた本もない」と挨拶で述べて参加者の笑いを誘ったとか。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/199508
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017021301151&g=pol

◎『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか』(東洋経済新報社刊)の著者ジェフ・ジャービスが、1月27日に都内で開催された「Media×Tech 2017」でのセッション「ローカルメディアはどう生き残るか」に出席した際の模様を西日本新聞がレポート。その席で西日本新聞メディアラボと十勝毎日新聞の担当者がそれぞれ行った自社のデジタル展開についてのプレゼンを見たジャービスが、米国の地方紙での事例を尋ねられて「(西日本と十勝毎日の)2人に比べれば遅れているので、話すことはない」と答える場面があったそうだ。
http://www.nishinippon.co.jp/feature/select/article/308267

◎ちょうど1週間後の24日に村上春樹の新作『騎士団長殺し』が発売されるが、今回も様々な発売記念イベントが各地の書店で企画されている。東京と福岡の天狼院書店では23日に「発売前夜祭」の読書会を、三省堂書店神田神保町店では「誰よりも早く村上春樹さんの新刊を本屋で徹夜して読む会」を24日の午前0時から開催するそうだ。
http://top.tsite.jp/news/book01/o/34392910/?sc_cid=tcore_a99_p_taff_0_tw__2C4D3A4F852A07FA-40000101C0018D43_

◎6日に講談社から発売された乃木坂46白石麻衣の2nd写真集『パスポート』は、発売初週の売上が10万部を突破したそうだ。
http://www.oricon.co.jp/news/2086026/

◎『PLAYBOY』(米国)が今春からヌードの掲載を復活させるらしい。
https://www.daily.co.jp/gossip/foreign_topics/2017/02/15/0009917097.shtml

Facebookが広告主をさらにひきつけて拡大していくための戦略はやはり「テレビ化」であり、そのための技術開発も進められているらしいと『DIGIDAY』が報じている。
https://shar.es/19enW5

Twitterの苦境は売上面での苦戦はもちろん、過去2年間におけるFacebookInstagram、Snapchatとのユーザー数増加の比較においても際立っている。
https://www.businessinsider.jp/post-809

◎アマゾンの日本事業における2016年1〜12月の売上高は107億9700万ドル。伸び率は前期比で30.6%増と、北米(同28.0%増)をも上回る驚異的な数字を記録した。円ベースの売上高でも遂に1兆円の大台を突破した。
https://netshop.impress.co.jp/node/4002
https://netshop.impress.co.jp/node/3997

◎のん(能年玲奈)が朝日新聞(東京本社版)でマンガの書評連載「のんびり〜でぃんぐ」を始めた。毎月第3水曜日の朝刊に掲載の予定。
http://book.asahi.com/book/comicbreak/2017021400003.html
http://natalie.mu/comic/news/220955

凸版印刷と東京書籍は、小中高生が授業を通じて地域産業への理解と就職の促進を図るためのサービス「しごとしらべ」を3月から共同で開始する。小中学生たちが地域の事業者たちを取材した記事を、東京書籍の教育サイト「EduTown あしたね」に掲載するほか、地域の広報誌など他の媒体にも二次利用可能なコンテンツとしていくなどの支援事業を行っていくという。
http://ict-enews.net/2017/02/15edutown/

2020年東京五輪パラリンピック組織委員会は15日、3月14日までの1か月間は電通と新規契約を結ばないと発表した。現時点で期間中に予定されている新規案件は広報に関する2件(計1億円)。
http://www.asahi.com/articles/ASK2H5WVTK2HUTQP019.html

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3)【人事】電通 2月14日発表 取締役人事(代表取締役の異動)

14日開催の取締役会で取締役候補者(代表取締役の異動を含む)を以下の通り内定した。取締役の選任は3月開催の定時株主総会で、代表取締役の選定は定時株主総会終了後の取締役会で決議する。
〈取締役候補者〉
代表取締役(新任) 山本 敏博(現 社長執行役員
代表取締役     中本 蘒一(現 代表取締役
代表取締役     郄田 佳夫(現 代表取締役
取締役       ティム・アンドレー(現 取締役)
取締役(新任)   望月 渡(現 常務執行役員
取締役(新任)   千石 義治(現 執行役員
取締役(新任)   曽我 有信(現 執行役員
社外取締役(新任) 松原 亘子((財)21世紀職業財団名誉会長)
〈退任取締役〉
石井 直   (現 取締役)
松島 訓弘  (現 取締役)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2017/0214-009166.html

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4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

再校と再考をきちんとこなしておいてこそ最高に近づけるのだ。