【文徒】2018年(平成30)5月9日(第6巻83号・通巻1257号)

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1)【記事】朝倉喬司の記憶を辿って斎藤貴男「戦争経済大国」を読む
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】朝倉喬司の記憶を辿って斎藤貴男「戦争経済大国」を読む

「プレジデントオンライン」に掲載された元木昌彦の「なぜジャニー喜多川社長は出てこないのか」。私もそう思う。ジャニー喜多川社長はファクス一枚で「全ての所属タレントの『親』としての責任」と述べるにとどまっている。元木自身もジャニーズ事務所の圧力で飛ばされたことがある。その原因をつくったのが朝倉喬司によるメリー喜多川に対するインタビュー記事であった。
「私の経験から語ろう。1981年、私は『週刊現代』(4月30日号)で「『たのきんトリオ』で大当たり 喜多川姉弟の異能」という記事を作った。異能というのはジャニー喜多川社長(86)の『ロリコン』疑惑のことである。当人は取材を受けなかったが、姉のメリー喜多川(91)が朝倉喬司記者のインタビューを受けた。
4ページの目立たない記事だった。発売直後、事務所側から講談社に対して、今後、たのきんトリオ(当時SMAPのような人気者だった田原俊彦野村義男近藤真彦の3人組)を含めて、一切うちのタレントを講談社の雑誌(主に10代の少年少女向け雑誌や漫画誌)には出さないと通告してきた。
週刊文春がこの騒動を大きく取り上げた。困った社は、私を『婦人倶楽部』という月刊誌に飛ばし、事務所側に全面降伏した」
http://president.jp/articles/-/25086
朝倉喬司は「週刊現代」の特派記者であったが、この一件もあって同誌を離れることになる。朝倉はフリーとして完全に独立することになるのだが、1984年3月30日に伊達(浦島)正保が新宿区役所で不当配転に抗議して区長室で切腹した際に立ち会い逮捕され新宿警察署に留置されている。結局、不起訴に終わるのだが、この一件に関しては朝倉の「続犯罪風土記」(秀英書房)に詳述されている。
実は朝倉喬司が逮捕されたのは、これが初めてではない。早稲田時代の仲間によって「週刊現代」の特派記者に声をかけられる前に朝倉は既に日特金属襲撃事件で逮捕されているのである。朝倉は当時アナキストの活動家であった。
日特金属襲撃事件については朝倉のデビュー作である「犯罪風土記」(秀英書房)の跋文で船戸与一が触れており、船戸は「朝倉喬司が現場以外はほとんど信用しない理由のひとつはこのときの経験が大きく左右してると考えてもいいような気がする」としたうえで次のように続けている。
「行動者の論理が机上で弄ばれるとき、何がどう歪められるのか?犯罪が行われたとき、朝倉喬司をして何をおいてもまず現場に急行させるのは、彼自身が権力そのものと敵対したときのいくつもの記憶のためと断じてよかろう」
日特金属襲撃事件にまるまる一章を割いた書物が刊行された。斎藤貴男の「戦争経済大国」(河出書房新社)は斎藤自身の言によれば「講談社の月刊『現代』と『G2』(いずれも廃刊)に掲載した原稿を下敷きとし、全面的に再構成した上で新たな取材を加え、大幅に加筆した、実質的には書下ろし」だそうだが、序章につづく第一章が「日特金属襲撃事件」となっており、生前の朝倉喬司が本名である大島啓司として取材を受けているのである。むろん、斎藤は大島啓司が朝倉喬司であることを隠しはしない。斎藤は次のように書いている。
「逮捕後に早稲田大学を除籍された大島啓司は、やがて『朝倉喬司』のペンネームでルポライターとして独立する」
ルポライターとして独立したといっても完全なフリーランスではなく、「週刊現代」の特派記者となるわけだから、ここは「逮捕後に早稲田大学を除籍された大島啓司は、やがて『朝倉喬司』のペンネームで『週刊現代』の特派記者をつとめ、その後ルポライターとして独立する」としたほうが正確であろう。
日特金属襲撃事件の実行犯であるも逮捕をまぬかれていた男がいた。第四章の「カーチス・ルメイの勲一等と三菱重工爆破」に登場する斎藤和である。斎藤貴男は次のように書いている。
「北海道室蘭市の出身で、高校時代から社会問題に関心を持ち、一九六六年に東京都立大学人文学部第一部に入学するや、ベトナム反戦直接行動委員会(ベ反委)に参加した。その年一〇月の日特金属事件後は起訴された同志たちの支援活動に携わり、語学教材会社の労働争議などを経て七四年一〇月、三菱重工事件を起こした直後の東アジア反日武装戦線に参加した」
語学教材会社とは谷川雁が専務をつとめるテックであり、この労働争議を担っていたのは平岡正明であった。
斎藤貴男の取材は朝倉が「自殺の思想」(太田出版)を執筆中になされたようである。「自殺の思想」が刊行されたのは2005年夏のことだから、10年以上も前の話だ。
「自殺の思想」でも朝倉の言わば弟分であった斎藤和が取り上げられている。このテック闘争を通じて朝倉、斎藤和は浴田由紀子と知り合うわけだが、「自殺の思想」によれば浴田は朝倉の息子に「ピンポンパン体操」を唱い聞かせていたそうだ。やがて斎藤と浴田は「東アジア反日武装戦線・大地の牙」として逮捕され、斎藤和は逮捕後に服毒自殺してしまうのだ。
斎藤貴男に取材されたことをきっかけにして朝倉喬司は「自殺の思想」で斎藤和を取り上げる決断をしたのだろうか。これについて「自殺の思想」の編集者であり、「戦争経済大国」でも編集にかかわった向井徹はどう考えているのだろうか。
向井と言えば金時鐘の詩集「背中の地図」(河出書房新社)で、金時鐘から「心根の芯からやさしい友人」と評価され、「私は彼と会うたび、なにかにつけ日本を悪く言っている自分が恥ずかしくなる」とまで書かれた編集者である。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309248578/
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309026794/
http://www.ohtabooks.com/publish/2005/07/26202701.html
ちなみに私は中川六平に紹介され、朝倉喬司に出会うことになる。
蛇足ながら更に言うと朝倉は全関東河内音頭振興隊の隊長をつとめ、毎年8月、錦糸町河内音頭大会を開催していた。今から30年近く前になるが、山口昌男ウンベルト・エーコを引き連れ錦糸町河内音頭大会に現れたことがある。このとき小学館の飯田昌宏は、まだ大学生で全関東河内音頭振興隊の周辺にいたという。

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2)【本日の一行情報】

鳴り物入りでオープンした「神保町ブックセンター with Iwanami Books」だが、私には魅力が感じられなかった。岩波書店の出版物しか置いてないんだもの。岩波書店だけで勝負するというのであれば、絶版となっていても、ここに来ればオンデマンド出版で購入できるとか、あるいは岩波絶版出版物の専用図書館としての機能を持つとか、斬新なサービスが欠かせないはずである。
「開放的な空間の店内に入ると、右に喫茶店の厨房があり、正面にはソファや書架が広がる。書架にあるのは岩波書店の出版物のみ。新書や文庫から、全集まで約9千点が並ぶ」(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASL4J71QNL4JUCVL041.html?iref=comtop_8_04

集英社は、5月7日より、C Channelと共同で、動画を使ったインフルエンサープロモーション事業を開始した。集英社は昨年5月より、ファッション誌を中心に、インフルエンサーマーケティング事業に参入し、「専属モデル」「読者ブロガー」など、フォロワーを多く抱えるインフルエンサーのインスタグラムを活用したマーケティング支援を展開してきたが、更にインフルエンサーマーケティング事業を強化すべく、女性向け動画メディアとして大きなネットワーク力を持つ「C CHANNEL」とタッグを組み、「Seventeen」「non-no」「MORE」「BAILA」の4誌で動画に特化したインフルエンサープロモーションを開始する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000011463.html
女性誌はブランド戦略という前時代的発想から解放されるべきである。私がIP戦略という場合、中心を持たない星座的配置が理想となるのである。

集英社ダッシュエックス文庫ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士」(春日みかげ)がテレビアニメ化されることになった。
http://anime.eiga.com/news/106272/

◎「月刊!スピリッツ」(小学館)で2015年6月〜17年1月に連載された真造圭伍の「トーキョーエイリアンブラザーズ」が日本テレビの深夜枠「シンドラ」で実写ドラマ化され、7月23日から毎週月曜深夜0時59分に放送されることになった。「Hey!Say!JUMP」の伊野尾慧と「A.B.C-Z」の戸塚祥太が出演する。
https://mainichi.jp/articles/20180505/dyo/00m/200/024000c

小学館は何でも図鑑にしてしまう胃袋の強さを持った出版社である。読売新聞で宮部みゆきが「鯉のぼり図鑑」を取り上げている。岡本太郎デザインのやつは、さすがにアバンギャルドだ。
http://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20180501-OYT8T50044.html

◎「@DIME」(小学館)は「阿部純子のトレンド探検隊」で調剤薬局のアイセイ薬局が取り組んでいる予防医療啓発キャンペーン「AISEI HEALTHCARE PROMOTION」(アイセイ ヘルスケア プロモーション)を紹介している。
https://www.aisei.co.jp/news/5759831048
https://dime.jp/genre/536185/

小学館の「しごとなでしこ」、良いネーミングだと思う。「小学館女性メディア総合サイト」にとどめず、求人サイト、転職サイトの要素も備えたならば、オーディエンスから大歓迎されるのではないだろうか。
https://shigotonadeshiko.jp/page/333

◎ベネッセはインドネシアで幼児用学習教材「こどもちゃれんじ」を7月に立ち上げる。今年は1〜3歳児向けにサービスを開始し、来年に3〜5歳児、20年に5〜6歳児と段階的に拡大するそうだ。
https://www.nna.jp/news/show/1758910

大日本印刷は子会社のトゥ・ディファクトが運営する「honto」を会社分割により、同社が7月1日をもって継承する。
http://www.dnp.co.jp/topic/__icsFiles/afieldfile/2018/05/02/info_180502.pdf
トゥ・ディファクトは2010年、DNPグループとNTTドコモが共同出資して設立しているが、現在は大日本印刷の100%子会社なのか!知らなかった…。いずれにしてもトゥ・ディファクトは赤字であるとは予想していたが、売上63億で、営業利益が▲13億とは!まあ大日本に吸収されれば、この赤字は消えるのだろうけれど。

◎ミック経済研究所の「ネット広告&Webインテグレーション市場の現状と展望 2018年版」によれば、2017年度のネット広告代理市場は1兆2100億円。
http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1805/07/news017.html

◎4万4千人の調査データをもとにした「ニュースサイトしらべぇ」を運営するNEWSYは、4月1日より、女性向けウェブメディア「fumumu」(フムム)のサービスを立ち上げている。「fumumu」は約8千名の2?30代女性調査パネルをもとに毎月アンケート調査を実施するとともに、女子大生を中心とした編集部員が体験取材や座談会など、現代を生きる「女性の本音」を浮き彫りにする記事を発信し、初月に134万ページビュー、69万ユニークユーザーを達成した。
編集長は、「しらべぇ」編集部で3年間記者経験を積み、自らも大学4年生の加賀谷レナが務める。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000010565.html
周知のようにNEWSYは博報堂DYホールディングス傘下の出資目的子会社、AD plus VENTUREとゲインによる共同出資で設立された。確か中川淳一郎も一枚噛んでいたはずだ。
出版社が広告会社に追い越されてしまった事例のひとつであろう。

◎ハフポスト日本版 編集長の竹下隆一郎は「メディアの記者にならなくても、文章力があれば、悲しい人生も生き抜ける」と書くけれど、私はそうは思わない。文章力があればあるほど人生は不幸になるし、その悲しい人生に耐えられず死を選ぶことになるのではないか。竹下に私は北村透谷や芥川龍之介太宰治は悲しい人生を生き抜けたのか?と問いかけたい。
https://www.huffingtonpost.jp/ryan-takeshita/decoding-time_a_23424123/

電通は、教育とエンターテインメントを掛け合わせたコンテンツに着目し、「MOVE 生きものになれる展」の製作委員会に参画しているが、同展の東京展の成功を受けて、同展の日本を含む全世界でのフォーマット販売権、スポンサーセールス権を獲得した。断るまでもなく「MOVE 生きものになれる展」は講談社が刊行する大ヒットシリーズ「動く図鑑 MOVE」との共同企画で生まれた。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2018053-0507.pdf
私はデジタルシフト、リアルシフトという言い方をしているが、これは出版のリアルシフトの成功例である。「MOVE 生きものになれる展」というリアルシフトの成功を踏まえて、講談社は「動く図鑑 MOVE」のデジタルシフトも考えてはどうだろうか。

ゴールデンウィークに一関のジャズ喫茶「ベイシー」を堪能した私は昨日、「ベイシー」を舞台にした村松友視の「『ベーシー』の客」(マガジンハウス)を読了し、今日は秋吉敏子の「エンドレス・ジャーニー 終わりのない旅」(祥伝社)を読了する予定だ。
https://magazineworld.jp/books/paper/1051/
http://www.s-book.net/plsql/slib_detail?isbn=9784396616342

◎「電子書籍を12時間以内に執筆し、PDFやEPUBファイルとして個人販売する出版形式」(ねとらぼ)だという「マッハ新書」には、ちょいと惹かれるものがある。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1805/07/news091.html
私が惹かれるのは「生成」という観点でのことなんだけどね。

トーハンのほんをうえるプロジェクトは、糸井重里が社長をつとめる「ほぼ日」が販売する、"まるくて、かるくて、やわらかい"塩化ビニール製の地球儀「ほぼ日のアースボール」の取り扱いを開始し、地域の書店を通して全国の公共図書館学校図書館に向けての取扱を開始する。この企画はほんをうえるプロジェクト、複合事業本部、図書館事業部の共同企画であり、3部署が連携して企画に取組むのは初めてとなる。
http://www.tohan.jp/news/20180507_1202.html

◎、TSUTAYAは、「復刊プロデュース文庫」の第11弾として、笹沢佐保の「人喰い』(双葉社)を5月10日(木)より全国のTSUTAYAにて展開する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000530.000018760.html

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3)【深夜の誌人語録】

「はい」としか言えないのは勇気がないからだ。