自由のドア

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環りの海に込めた思い(5)

早い!早いですね。2015年、この前始まったばかりだと思っていたのに、もう3月も終わり、4月、新年度に入りました。という前振りに、あまり関係ないですが…著書「環りの海」に込めた思いシリーズ、地味に続いていますが…続けます!今回は、琉球新報さんと組むという、地方紙連携についてです。

よく、竹島尖閣諸島は、状況が違い過ぎて、一緒に取り上げても意味がないんじゃないかと言われましたが、逆だと感じました。違うからこそ、相対化できるのです。例えば、最近は尖閣諸島に漁民が近づけなくなった、という記事を琉球さんが書いてこられたのを見て、最近まで行けていたのか!とびっくりし、逆に、竹島はずいぶん前から近づけないわけで、これが、実質的に支配しているかしていないのかの違いなんだということが浮き彫りになりました。

もちろん、共通しているものもありました。日韓漁業交渉と、日中、日台漁業交渉は、大枠でみると「漁民を後回しにした外交」という構図が共通していて(細かいところではもちろんたくさん違いますが)、それぞれは一地方の問題として捉えられてきましたが、決して一地方の問題ではなく、日本全体の問題なんだということも、山陰と沖縄をつないだからこそ見えたものでした。

あと、嬉しかったのは、読者が増えたこと。地方紙なので、普段の読者は山陰の方々なわけですが、それが、沖縄の方々にも読んでもらえる。一気に読者2倍!やったー!!という、単純な喜びはありましたですね。

環りの海――竹島と尖閣 国境地域からの問い

環りの海――竹島と尖閣 国境地域からの問い

地方紙同士が連携し、お互いに記事を載せるということは、これまでも他社で前例がないわけではありませんでした。ただ、やはり、各社の編集方針がありますし、一つの社が書いた記事をそのまま掲載するスタイルが基本でした。そこから、私たちは一歩踏み込み、両社で一緒にチームを組んで、忌憚なく意見をぶつけ合い、特に最終章の5部では、一本の記事を両社の記者が一緒に書く、というスタイルに挑みました。

「これでは載せられません」。山陰中央新報側が書いたある一連の原稿(5本シリーズ)を事前に見せたときに、琉球新報の方に、こう言われました。掲載予定の4日前くらいだったでしょうか。驚きましたが、なんというか、すごく、嬉しかった。だって、本当に妥協なくいいものをつくろう、と思っていたら、ダメなものはダメと言いますよね。でも、他社の記者に言うのは、とても勇気が必要だったと思います。それなのに、きちんと、言いにくいことを言ってくれました。真剣に向き合ってくれているんだなと、喜びというかやりがいが腹の底から湧いてきたのを覚えています。スケジュール的にもキツかったですが、全面的に書き直しました。おかげで、より質の高い記事ができたと思っています。

5部は、両社の記者が出し合った素材を編集して、一本の記事にまとめる、という記事の連続でした。私も琉球新報の記者に「もっとこういう素材がほしい」とずいぶん無理を言いました。多分、他社の記者にそんなこと言われて、内心むかついたのではないかと、心配もしていましたが、打ち上げで「むかついたでしょ」と聞くと「妥協しないでいいものをつくろう、と最初から繰り返し田中さんが言っていたのはわかっていたし、自分もそう思っていたから大丈夫でしたよ」と言われ、、号泣しました。社という組織を越えて、本当にいい仲間にめぐりあえましたですね。いよいよ次回、まとめの最終回にしたいと思います!

●新聞協会賞受賞の連載「環りの海」が書籍化されました!

●環りの海に込めた想い(1)

●環りの海に込めた想い(2)

●環りの海に込めた思い(3)

●環りの海に込めた思い(4)