teruyastarはかく語りき

TVゲームを例に組織効率や人間関係を考える記事がメインのようだ。あと雑記。

アニメにおける人物と背景の描きこみ落差について。

彼女の顔には細部がない・・・アニメの中の描写の落差について - Ohnoblog 2
http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/20110815/1313421598



背景と人物の描写のレベルが明らかに違う点については、
前から多少気になっていた。


背景の描写が陰影も含めて細かくリアルに描き込まれているのに、
そこに登場する人物はベタ塗りでペラッとしていて所謂アニメ絵。
ジブリに限らず日本のアニメの「美術」は、
背景画だけで展覧会が開催されるほどのレベルに至っていたりするので、
結果、人物とのギャップが生まれ易くなる。


ヨーロッパのアニメは例えばチェコ・アニメにしても、
背景と人物とのテイストや描写レベルの落差がなく、
概ね全体的な統一が図られているという印象がある。
ディズニーは人物に比べて背景の描き込みがかなり丁寧だが、
人物に施されたようなデフォルメやファンタジックな配色によって
全体がまとめられており、不統一だと感じることはほとんどない。


なぜジブリだけが(日本の他の商業アニメもその傾向があるとは思うが)、
背景=具象絵画、人物=アニメ絵に分裂しているのだろう。

元記事は、


「なぜ、人物の描画密度を背景に合わせて上げないのか?」


という方向で考察していますが、
人物がデフォルメされるのは、
むしろアニメだから当たり前のように思えるので
ここでは、


「なぜ、背景の描画密度を人物に合わせて下げないのか?」


という方向で理由をいくつか考えてみたいと思います。

スクリーンの大きさに対して満足感を高めるため

(理由1)


例えば、小さな重箱に箱から溢れんばかりに
いろんな料理がぎっしり詰め込まれてたら
とても豪華に見えます。
おせち、重箱の注文写真とかが
そういうふうに載ってますね。


でも、まったく同じ量の料理内容でも、
届いた重箱の箱が大きすぎて隙間ばっかりのおせちだと
なんかガッカリです。
箱の大きさに対して、どれだけつめ込まれているか?
という期待で視覚的な満足感が変わってきます。
(たい焼きのあんことかね。)



これをTVアニメと、劇場版アニメに置き換えて、
20インチTVと、
400〜800インチのスクリーンとで、
その中身(キャラクター)が例え一緒だとしても
画面密度(背景)を豪華に彩ることで、
映画という舞台の説得力や鑑賞した満足感の一要素につながると
僕は考えます。


劇場版のポケモンも、ドラゴンボールもそこまで背景密度高くないが?


いや、TVシリーズよりたくさんお金かけて豪華ですよw
綺麗にスクリーンに納めてるということでは
キャラクターと落差あるほどの背景は必要ないのでしょうけど、
ただそうすると


「しょせん子供が観る漫画アニメなんかを、同じ"映画"として並べて欲しくない。」


という人が、昔はよくいたわけですよ。
日本の実写映画全盛期とか特に。
別に実写映画と張り合ってるわけじゃないはずですが、
こう言われると、誰とは言いませんがジブリに約一名ぶち切れる人がいるわけです。


「俺は"映画"を作ってるんだ!! 実写のやつらいずれ全員ひざまずかせてやる!!」
*1


そんな子供向けアニメでありながら、あくまで「映画」を作ってるという意識
自然と、劇場のスクリーンを映画の背景美術として埋める
ような密度へ高まっていったのではないかと。


ジブリ映画の興行収入は60億から、ときに300億にもなる
例外中の例外みたいなスタジオですが、
スクリーンの枠からはみでんばかりにあふれ出る密度と躍動感は
超ヒットの一因かもしれません。


でも、TVアニメでも一部のスタジオ作品で「聖地巡礼」とか、背景密度高まってない?


あくまで印象論ですが、初代ガンダムとかの昔のアニメと比べて
背景描きこみがリアルになってきてるように思えます。


上のスクリーン論を当てはめてみると
昔20インチぐらいが普及価格だったTVが
今では37インチで7万円台とか、大型化が進んでるというのも
理由のひとつかもしれませんが、


アニメ制作がセル画からデジタル化になったことで
(理由2)、使える色数がほぼ実写と変わらず無限になったことと、
(理由3)、グラデーションや、光源エフェクトの取り扱いが楽になった
こともあると思います。


地デジ化のせいで、背景をきちんと描く必要性が出てきた

(理由4)


2003年からスタートした地デジ化によって、
TVアニメも徐々にワイド化して行きました。


画面がワイドになるということは、
人物をバストアップで喋らせると、両脇が結構空くわけです。
ワイド化は遠景がより画として映えるため、さらに背景が重要に。
4:3のブラウン管だったら無視できたかもしれない隙間を、
カメラワークなり演出なり、
あるいは背景をキッチリ描かないと高解像度の画にならなくなった。
という理由もありそうです。

ブルーレイ販売のため

(理由5)


スポンサーがおもちゃを売って成り立つアニメなら、
キャラクターこそ最重要でしょうけど、
DVDや、ブルーレイを売ることで成り立つ深夜アニメという場合、
背景も売り物の一つだと思うんですよね。


キャラクターはもちろんのこと、
背景も手を抜かず、アートとしての鑑賞に耐えうる画作り
ブルーレイの所有感を満たすことにつながると思います。


まとめ


アニメ制作の人たちがいちいち
こんな屁理屈考えてるわけじゃなくて、
感覚的にデジタル化のノウハウが溜まったとか、
スタジオのブランド化を意識してとかで、
進化というか、変化してきたのでしょう。


僕のまとめとしては、


デジタル、ワイド、高画質化による時代の流れと
ロリコンの意地が、日本の背景美術を押し上げた。
ということでいいんじゃないかと思います。

*1:こんないい方はしないだろうけどw