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Psychotherapist Tetoの日記あるいはふっくらネコてとの日記 このページをアンテナに追加

2009-02-23

[] NHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」を見て思ったこと



NHKスペシャル


 昨日NHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」を見ました。まずは、うつ病歴が長く、その後治療を受けて大きく改善された方がテレビに出て発言していらっしゃったことに感謝と敬意をお伝えしたいなと思いました。患者さんたちは重篤なうつのエピソードの最中には「自分がいつかよくなる」というイメージが描けずにいます。そんなとき、「よくなったよ、あなたもきっとよくなるよ」というメッセージをお伝えしてくださるもと患者さんの言葉と、実際によくなった姿ほど勇気付けられるものはありません。


 さて、薬物療法については、“常識が変わる”というのは大げさかなと思いました(画像診断についてはあてはまりますけども)。東京では精神科での研修を受けていない、精神保健指定医でもない医師が「精神科」を標榜してうつ病の治療をしている、そういう医師が多いのではないかというところにはとても驚きました。

 地方では大学病院で精神科の研修をみっちり受けた精神科医しかいないので、今のところは「何じゃこの投薬内容は!」というようなケースはあまり多くは見られません。時間のない中で生物学的な視点から真摯にうつ病治療に取り組んでいる医師の方が多いように感じます。

 ですから、そのあたりはテレビを見た方が“開業医は全部あやしい”という誤解をもたなければいいなと思っています。


 現在、うつ病などで精神科や心療内科を受診しようとされる方の数は増えています。その一方で、しっかりと研修を受けた精神科医の数は少ない。このままではパンクしてしまう。患者さんが多いから、お断りするわけにも行かないのですべての方にお会いしようとすると、お一人5分未満になってしまう。そうならざるを得ないという実情がある。


 さらに、臨床心理士ならばお一人50分心理療法をできるのですが、カウンセリングには保険点数がつかないので、自費になるか病院のサービス部門になってしまう。だからやっぱり医師がぜんぶ見ないといけない。


 さらにさらに、自殺者数が3万人を超えた、というあたりから国の方針として「うつ病を予防し治療すればいい。精神科を受診させよう」というキャンペーンが起こっている。するともっともっと精神科医は足りない、研修時間も足りない、精神科医は一人当たりの患者さんの話をじっくり聞く時間がなくなる…薬出すしかない…内科などに患者さんをお願いせざるを得ないという背景もあるのです。


 それでは、心理療法について。なんか、視聴者の方が“普通の傾聴や共感だけのカウンセリングではうつ病は治らない。認知行動療法じゃないとだめだ”と誤解しなければいいな…とちょっと不安に思いました。


 もちろん認知行動療法はうつ病治療に治療効果をあげているというデータがあるのですが、もっと大きいところでは「信頼関係」「1対1で長期的に継続的に話を聞いて、理解して、援助するサポート関係」「誠意と熱意」みたいなところに治療要因があるというデータもあります。認知行動療法の研修を受けたことがあり、それをうつ病の方の治療に取り入れている臨床心理士はむしろ多いのですが、“認知行動療法をしています”と看板を出したりはしません。ありとあらゆる療法や理論を学び、研修を受け、そのうえで「目の前にいるこの患者さんにはどのような援助がもっとも適切か」ということを考え、信頼関係をはぐくみながら、時期を見てタイミングを見て心理的成長の度合いを見て、ベストだと思われる心理療法を提供するのが臨床心理士の技量であり役目です。


 これだけの技量を保つために、6年間の専門教育(大学4年院2年)、5年後との資格更新制度(研修や研究を行っていないと資格剥奪)、国家試験に準ずる資格試験があるにもかかわらず、そして現場でカウンセリングを求める患者さんはご家族はかなり多いにもかかわらず、国家資格でもないし保険点数もつかないし、患者さんがカウンセリングを受けようと思ったら、治療の質をあげるために臨床心理士を雇っているよい病院を探し出して、順番を待ち、幸運な人だけカウンセリングを受けられる(保険点数がつかないので、必ず嫌でも薬が必要なくても医師の診察を併用する。長い待ち時間が生じる)、もしくは自費診療として1時間5千円〜2万円必要になる。さらには、国家資格化されていないので、どんな人でも「カウンセラー」「心理カウンセラー」「心理療法師」とかいろいろな名前をつけて占い師のように開業できてしまう。


 ですが心理士だけが必要なわけでもなく、野村先生が言われたように、精神保健福祉士(ちなみに国家資格)や看護師さんがやっておられるデイケアプログラムもすばらしいですし、地域の保健師さんが家を回ってお話を聞かれたり、復職プログラムをつくったりされています。


 うつ病の治療はまさにこのような包括的なプログラムが必要であって、理想的には以下のようなサポートが必要です。実際にはこれを医師一人がやっていたり臨床心理士一人がやっていたり、あるいはいくつもの機関が連携してやっていたり、あるいはこのうちの1つしか受けられなかったりしているわけです。



1)まずうつ病ではないかを気づき、気軽に相談できる場所

2)患者さんの話をじっくりと聞きだし、環境因子、心理因子、身体因子などを理解する役割の専門家

3)生物学的な面から患者さんのうつ症状を治療する医師

4)生活調整、うつ病についての心理教育(どのような病気であって、治るために何が必要か、今はどういう時期でどうやってすごすべきかを患者さんとご家族に伝える)をする役割の専門職

5)認知行動療法など心理療法によって心理的因子の治療、環境調整・ストレスマネージメント能力の向上、思考認知スキルの向上

6)治癒が近づいてきたら、心理教育を行いながらリハビリのマネージメント(今どういう時期で何がもっとも大切か)をオーダーメイドで行う役割の専門職

7)職場や学校への受け入れを調整してくれる役割の人


 つまり、心理療法さえ受ければいいというわけでもなく、適切な薬さえ飲んでいればいいというわけでもなく、うつ病治療の鍵は「その人のストレスや環境因子をアセスメントして、治療と休養のレベルを判断し、その人に合った適切な時期に、適切な減薬とリハビリをマネージメントしてくれる専門家」が必要なのだということです。医師がこの役目をしている場合が多いのですが、これには患者さんの話をじっくり聞く時間が必要、でも現状ではその時間がまったく足りないということなのです。


 NHKスペシャルのうつの特集はとてもよい企画ですし、続いたらいいなと思いますが、せっかく野村先生のような素晴らしい先生に来ていただくならば、企画の段階からもう少し専門家を入れて誤解のないように、広く深い実情を見据えた上で、患者さんが短絡的に判断することのないようにしていただけるといいなと思います。


 今回の場合は、コメンテーターとしてイギリスで学ぶ心理の方ではなく(日本にはいないのかという印象を受けてしまう)、日本でしっかりと認知行動療法を取り入れた心理療法を行っている臨床心理士の方がちゃんといるんだということを紹介してほしかったし、医師のよしあしばかりではなく、デイケアプログラムで高い評価を受けているものがあるということ、患者さんにとっての新たな選択肢がすぐ近くにあるということを同時にきちんと紹介してほしかったなと思います。

norinori 2009/02/23 15:17 初めまして、ブログは全くの初心者です。トラックバックをしたのですが、「送信失敗」のエラーが出て、何度も送信してしまいました。ご迷惑をおかけしていなければ、よいのですが。

teto2005teto2005 2009/02/23 20:50 はじめまして^^
トラックバックをいただきありがとうございます。こちらはとくに何度もエラーメッセージが来るということはないので、ご遠慮なくばしばししてください☆

norinori 2009/02/23 21:33 再度チャレンジしたのですが、送信ミスのメッセージが出てダメでした。手動でリンク貼らせていただきました。これからも、よろしく。

KOVOKOVO 2009/02/23 23:21 初めまして、コメンテーターとして出演した心理の者です。まだ自分では放送を見てないのですが、「認知行動療法を学んでいる」と紹介されていたようですね。本当は日本で認知行動療法の実践をしていた和製認知行動療法家なんです…昨年のBABCPには僕も参加していたのですが、お会いできなくて残念でした。今年のBABCPかEABCTでお会いできるといいですね。

takutaku 2009/02/24 02:13 はじめまして。記事読ませていただきました。テレビは終わり数分しか見れなかったので、再放送を明日、見ようと思ってます。心の病の友人を持つ一人として、てと様のこの記事にすがる思いでコメントに書き込みさせていただきました。不適切であれば削除ください。
自分のしんどさや病状を客観的にどう説明していいかわからない自立心の弱い友人が、全生活史を当然見れるわけのないほど時間がさけない制約のなかでのドクターの診断、なかでも調子の悪いときに受診しその時の患者のことばと顔の表情のみでしか処方できない、薬が毎週変わりどんどん希死念慮が増していくことの繰り返し。現在、ドクターシッピング3回目でも不思議なくらい同じ繰り返しです。最初は確かにパニック障害のうつ併発で、薬が増えて少しづつ増えてしんさが増えるだけで。
現在のドクターも解離性障害?と思ったけどうつをまずやっつけるとのことでの投薬、しかし本人はやはり日増しに希死念慮が増えるだけです。BPD?
今日の夕方も「今から死にます、今までありがとう」今は、落ち着いて寝ているようですが。素人の私にはどう支えたらいいのか・・。
てと様の記事、そのとうりだと思いました。トータルケアが必要ですね。とても参考になりました。
ありがとうございます。

RockRock 2009/02/24 11:02 はじめまして。あの番組が多くの人に誤解や不安を必要以上に与えてしまうのではないか、と心配している精神科医のひとりです。こちらのブログを読ませていただき、わが意を得たり、と感じました。
 心理面接が保険点数化されていない件も、何とかならないものかな、と感じています。

teto2005teto2005 2009/02/24 22:18 >KOVOさま
 コメントいただきありがとうございます^^ 研修中というだけではなくて日本で実践をされていた方だったのですね。(そしてすえぞうさん―ハンドルネームで伝わるかわかりませんが…―のお知り合いの方だったのですね。)イギリスだけではなく,日本でもこういう心理療法が実践されているのだということが十分に伝わらなくて残念でしたよね。ショッキングな投薬内容に時間を使いすぎてワイドショーみたいになってしまっていた部分もあったような。でもこれからにつなげていくという意味ではよかったですよね。
 BABCPではきっとどこかですれ違っていますよね! イギリスの認知行動療法は,本当に“自分達で見つけてつくって実証して実践していくんだ!”という心構えがあってすばらしいなと思っています。ぜひ日本にもいろんなことをお伝えくださいね。イギリスでお会いできたらいいですね!

>Rockさま
 はじめまして。コメントありがとうございます。精神科の先生にそういっていただけるとまた,とても嬉しいです。
 うつというのは簡単に見えて奥深い精神症状ですよね。専門医にとっても難しいのに,精神科医以外の医師が薬物療法をすると大切なことがもっともっと“見えない”ままお薬を出してしまうんだろうなと思います。
 ぜひぜひまたいろいろコメントしてくださいね。

teto2005teto2005 2009/02/24 23:02 >Takuさま 
 コメントをいただきありがとうございます。少しでもお役に立てたのなら嬉しく思います。
 お返事を書こうとしたらやたら長くなってしまったので,今日のブログのページ(2009年02月24日)に書きますね。

うつ病と光療法 サイト管理人うつ病と光療法 サイト管理人 2009/03/14 13:30 私もあの番組をみました。
番組以上に詳しく書かれているブログには驚き、教えられることが多くありました。

「その人のストレスや環境因子をアセスメントして、治療と休養のレベルを判断し、その人に合った適切な時期に、適切な減薬とリハビリをマネージメントしてくれる専門家」が必要との意見にはまったく同感です。

しかし、私が番組を見て感じたのは、原因を取りのぞこうとするアプローチか、対処療法かの違いです。
うつ病を治すためには様々な対応が必要で、その時の状況にもよるとは思いますが、原因を取り除くことに主眼を置いているかどうかで、随分と対応方法が異なってくるのではないかと感じました。

ふるふるふるふる 2009/09/24 09:02 てと様へ
はじめまして。地方の精神科勤務医です。番組は見逃し、ここで少し内容がわかりました。ありがとうございます。

「うつ病の治療成績が悪い? 専門外の先生の治療が増えてるのでは?」と思いましたが、東京での状況は信じられません。いや信じたくないです。でもありそうですね。

てと様のご意見は、私が常日頃臨床で感じ考えていることとほぼ同じですが、とてもわかりやすく整理されて読みやすかったです。
私は昔は、環境・生活史・性格を明らかにし原因を考えお薬を試し精神療法と家族面接と職場調整、と全部一人でやってました。今は臨床心理士の方々と二人三脚(患者さんも含めて三人四脚)であたっていて、とってもラクです。おまけに楽しいです。
臨床心理士が医師と役割分担し、コーディネーター&カウンセラーとして権限と財政的裏付けが得られる日が早く来ることを願っています。

teto2005teto2005 2009/09/25 11:56 ふるふるさま,うつ病と光療法サイト管理人さま,いらっしゃいませ! そして素晴らしいコメントをいただきありがとうございます。これからもまた遊びに来て下さいね。

>ふるふるさま
 臨床心理士との二人三脚をしておられて,とってもラク&楽しい!と言っていただけて本当に嬉しいです! 本当に,コーディネーター&カウンセラーの権限と財政的裏付けが早くできるといいですよね。精神科医の負担を軽減しつつ,心理臨床の専門性を生かして今ここに生きる患者さんのQOLを高めることのできるスタッフがたくさん生まれることを願っています。

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