「植物図鑑」

tetu-eng2014-07-06

「植物図鑑」
有川 浩
幻冬舎文庫
2013年2月10日発行
686円(税別)

「植物図鑑」という文庫本ですが、いわゆる図鑑ではありません。正真正銘の小説です。ジャンルで言えば、ライトノベルのラブコメ(ラブ・コメデイ)でしょうか?ラブコメって、好きなんですよね。年柄もなく、ロマンチストなんですよ。自分で言うのも何ですが・・・・。

巻頭には、野草の写真が4ページ。巻末には、野草を使ったレシピが付録としてついています。風変わりな小説ですね。

『「『雑草という名の草はない。すべての草には名前がある。』と昭和天皇は仰ったそうですけどね。少なくとも園芸品種じゃありません。
その名を続けたのはほとんど無意識だった。
「その名はヘクソカズラといいます。」
「屁糞・・・・・?」
「はい。つるや葉をちぎると名前のとおりの悪臭がしますよ。花の可憐さや特徴を採ろうとしてサオトメカズラやヤイトバナなんて別名も考えられたようですけど、やっぱり一番インパクトのある名前が定着しちゃった一例ですね。』

ある夜、「さやか」が一人暮らしのアパートに帰ってくると、植え込みに一人の行き倒れの若い男がいます。それが、「イツキ」でした。

『「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか」
そう言った。
まるで犬のお手みたい。膝に載った手を見ながらそんなことを考えていたので、ツボに入った。
「ひ・・・拾って、って。捨て犬みたいにそんな、あんた」
クククと笑い転げていると、男は更に言葉を重ねた。
「咬みません。躾のできたよい子です。」』

 こうして、「イツキ」は、一人暮らしの若い娘さん「サヤカ」のアパートに転がり込みました。ストーリーの設定に、かなり無理がありますが、これが、ライトノベルの特権です。

 この「イツキ」は、めっぽう野草の知識が豊富です。しかも、野草を使った料理も、お得意さん。さらに、家事全般もお任せ。しかも、いい男。やがて、「サヤカ」と「イツキ」は、必然の成り行きになりますが、これだけでは、ちょっと変わったラブストーリーです。この小説の真骨頂は、二人で野草取りに(二人は猟と呼んでいます。)でかけて、その野草で、料理をすることです。これが、面白い。章建ても、フキノトウ/ノビル/セイヨウカラシナタンポポ/イヌガラシワラビ/イタドリなどなど。みんな食べられる野草です。

 この小説を読んでから、散歩の途中で、やたら野草が気になります。まわりは、名前も由来も知らない野草で満ちあふれています。よく見ると、みんな、それぞれ、個性があり、違うのですよね。細君と二人で、この花、何って言うんだろう??これが、散歩の時の楽しみになりました。草の世界は、相当、ふか〜〜いですよ。

『雑草という名の草はない。すべての草には名前がある。』