小林泰三『玩具修理者』

表題作「玩具修理者」と、中編「酔歩する男」の2篇を収録。


玩具修理者」は始まりから不穏。喫茶店の2人の男女、昼間ずっとサングラスをかけている理由を尋ねられた女性が、
子供の頃に体験した「玩具修理者」とのことについて語り始める。・・・衝撃。
プロット自体はわりかし有りがちに思えるものの、描写のグロテスクさやストーリーを転がしていく手つきは作者ならでは。
冒頭から、読者は男性に不快感をいだきかねないがそれも。


「酔歩する男」。学生時代に「手児奈」を取り合った2人の男。しかし手児奈は線路に飛び降りて死んでしまう。
手児奈を救うために過去へ遡る手段を探し続け、脳のある部位を破壊することで時間遡行をする方法を遂に発見した彼らは、
時間遡行を試みるが・・・。
「学生時代に好きだった女の子が死んでしまった。彼女をなんとしてでも助けるためにタイムマシンを発明した僕らは・・・」と書けば、
何度も失敗するけど最後に(2人の協力によって)女の子を助けることができてハッピーエンドの感動作になるんだろうな、と思うよ普通。
でもそんなことはなく。



解説の井上雅彦が述べるように「玩具修理者」がホラーに思弁と論理を持ち込んだ短編だとすれば、
「酔歩する男」はSF的な思弁と論理を追求することで、読者に根源的な恐怖を抱かせる掌編となっているといえる。


玩具修理者 (角川ホラー文庫)

玩具修理者 (角川ホラー文庫)