「星降り山荘の殺人」

倉知淳: 星降り山荘の殺人
星降り山荘の殺人
著者: 倉知淳
出版社: 講談社(文庫)
発売日: 1999/08

雪に閉ざされた山荘。ある夜、そこに集められたUFO研究家、スターウォッチャー、売れっ子女流作家など、一癖も二癖もある人物たち。交通が遮断され、電気も電話も通じていない陸の孤島で次々と起きる殺人事件…。果たして犯人は誰なのか!?あくまでもフェアに、読者に真っ向勝負を挑む本格長編推理。

思い切りベタな設定なのだが、やっぱり騙された!
考えていた、というか期待したようなドンデン返しの返しにはならず。
各章の始めに、推理に影響する事項が現れている部分や特に深読みしなくても良い部分など注意事項が書かれているので、留意していたはずなのに。
この注意書きは読んでいる間、見落としがあってたまるものかーと意気込まされるので、すごく緊張感が煽っている。

内容に触れます。
犯人に言及しているので文章を反転表示させています。未読の方は白抜き部分を飛ばしてお読み下さい。

最後まで彩子が怪しいと思っていたので、最後で追い詰められた時はよっしゃ!と思ったのだが、あれれ、なんか形勢逆転?
ドンデン返しの返しがあるかと、無駄な抵抗をしてしまった。
・・・やられました。
これは、冒頭部分で星園の愛嬌ある一面が和夫の視点を通して描写されていた事が大きな影響を与えているのだろうか。
探偵役が犯人という設定は珍しくは無いが、やはりお茶目な一面を披露することで、より容易に「善意の主人公」として感情移入する。
特に星園は女性には受けが良いようなので、女の読者だと効果抜群?なのかも!?
あの注意書き自体も、かえって集中力を散らすバッファーの役目を果たしているのだろう。

犯人探しの為、あれこれ技法やトリックなどを考えさせられるが、凝りに凝ったトリックを利用したと言うのではないので、読み物としてもさっくり楽しむ事が出来る作品になっている。
とはいえ、手法に力を入れているわりにはストーリー自体の面白みが今ひとつ纏まりきれておらず残念。
著名らしいがこれまで読んだ事が無く本書が初めてだったのだが、筆力はかなりあるようなので作品を読むのが今から非常に楽しみ。

読んでいて同じく奇想天外?のトリックを使ったと言う点で、最近読んだばかりの我孫子武丸の「殺戮に至る病」を思い出した。
残念ながら我孫子作品は、なるほどと思うトリックではあるものの途中でなんとなく推測できたし、何より該当人物の心理の書き込み方が物足りなくて不満足感が残った。
倉知作品はその点、ストーリーや人物像がきちんと掘り下げられていて奥行きが感じられ読み応えがあるし、文章もキビキビ嫌味が無くすっきりした読後感でなかなか良い。
「猫丸先輩の推測」を読了し、かなり気に入ったので、更に現在、「猫丸先輩の空論」と「日曜の夜は出たくない」を読書中。