「草の根」と同様に保育園死亡事故への痛みが感じられない厚労省の対応


東村山市民新聞」の12月11日付更新(2009/12/11 19:43:43)については、10日付の記事の文中およびまとめWikiの該当項目に追記しておきました*1まきやすとも・写真著作権侵害裁判の第2回口頭弁論についても、まとめWikiの該当項目に関連記事を追加済みです。それにしても、複数の裁判の期日を同じ日にしたぐらいでいま、流行りの時短テクニックですね。 あったま、いい〜自画自賛するまきやすともを見ていると、ますます物悲しくなってきます。


さて、引き続き保育園における死亡事故の話です。「赤ちゃんの急死を考える会」の調査により、認可保育園での事故は保育所の規制緩和が加速した2001年を境に増えていることがわかったわけですが、これについて厚生労働省保育課は次のようにコメントしています。


「保育施設での死亡事故については国への報告を義務づけておらず、自治体から任意で連絡があった分しか把握していない。データがないので、定員の弾力化など規制緩和との関連性があるかはわからない」毎日新聞認可保育園:01年境に事故死増える 規制緩和影響か〉2009年11月19日配信)


そもそも、保育施設における事故について国がデータを収集していないというのがおかしいのではないでしょうか。そういえば、りんごっこ保育園でキャンディチーズ窒息事故が起きた時も、当時の保健福祉部長は市議会でこう述べていました(2008年10月29日付〈キャンディチーズ事故の真相をあらためて推理する〉の資料2参照)。


「今回の事故につきましては、園側の保育士さんなり、看護師さんなりの迅速かつ適切な対応によりまして、大事故に至らなかったという状況でございますので、東京都には報告はしてございません」


この点について私は、
りんごっこ保育園の事故報告書で事足れりとし、保育士等が『適切な対応』をとったという結論で片付けてしまわずに徹底的な調査を行なっていれば、園児の安全をよりよい形で守る方策が見つかったかもしれないのに。もっとも、どうせ調査は拒否されただろうとは思いますけれども
とコメントしておいたのですが、今回の報道を受けてあらためてそう思います。「ヒヤリ・ハット」の事例を記録・蓄積・共有することは、危機管理の基本なのではないでしょうか。自称リスクコンサルタントの中村克サンは、そんなことには興味がないみたいですけれども。


厚労省の報道発表資料〈保育施設における死亡事例について〉でも、長野県立こども病院副院長・田中哲郎氏が「専門家のコメント」として次のように述べています。

(3)情報の共有化
 ○ほとんどの認可保育所では大きな事故は発生しておらず、新聞報道されるもの以外は情報として共有できておらず、それらの情報は、多くの園で共通点もあり、他園での事例を通して、自らの保育環境や対応を見直すことが必要である。
  また、ニアミスやインシデント(一つ間違えば事故になったと考えられる出来事)を園内で確認し報告し合うことがまず大事、重大事故を防止するためには小さな事故から学ばなければならない。
 ○保育施設における事故の発生要因を分析し、関係者で検討し、防止策を講じ、全国の保育現場に周知することこそ重要であり、できれば、そうした分析・評価を行う委員会などを機能させてシステム化することが望ましい。
 ○子どもの命を守ることは大人の責任であり、事故報告やその分析、評価を現場に還元しながら(プライバシーには十分配慮して)事故防止策を広めていくべき。


「できれば、・・・望ましい」とか言ってないで、直ちに着手すべきではないのでしょうか。東村山市議会としても、このような対応を求める意見書の採択を検討していただきたいものです。矢野・朝木両「市議」も、もっぱら宣伝責任転嫁が主眼であったとしか思えないとはいえ、キャンディチーズ事故について東京都に報告するよう求めていたのですから、少なくとも報告システムの確立については反対はしないでしょう(第三者による調査の制度化についてはどうかわかりませんが)。


他方、田中哲郎氏は首をかしげざるを得ないコメントもしています。

(1)現状について
 ○認可外保育施設の事例の中には、保育体制の不備や観察不足があったと考えられ、認可保育所よりも事故の発症〔ママ〕率が高い。
 ○認可保育所がこれほど増えていることや、子どもの育ちに様々な課題がある中、死亡件数は増えておらず、保育所が事故防止に努めていることがわかる。


厚労省「データがない」と言っているのに、認可保育所での「死亡件数は増えて」いないことがなぜわかるのでしょうか。「赤ちゃんの急死を考える会」の分析では、認可保育所での死亡事故は明らかに増えています(毎日新聞の報道より)。

  • 2000年度までの40年:計15件(60年代2件/70年代6件/80年代1件/90年代6件)
  • 2001年度以降の8年:計22件


厚労省が調査の対象とした6年間(平成16〔2004〕年4月〜平成21〔2009〕年11月)でも、認可保育園で19件の死亡事故が起きているわけです。そのことをもっと問題にすべきなのに、認可保育所がこれほど増えていることや、子どもの育ちに様々な課題がある中、死亡件数は増えておらず、・・・」などと言っている場合でしょうか。「認可保育所がこれほど増えていること」や「子どもの育ちに様々な課題がある」ことを考えればもっと死亡事故が起きても不思議ではないのに、現場の保育士ががんばってくれているおかげでかろうじて20件前後で抑えられている、と言っているように聞こえます。


そして厚労省は、保育所に関わる最低基準や保育士の労働条件等を改善するつもりはないけれども、現場はもっとがんばってくださいという方針のようです。

4 保育施設における事故防止等のポイント
(1)発育・発達に応じた事故防止策
 乳幼児の発育・発達の特性の理解とそれにより予想できる行動・状態等に応じた事故防止対策を講じる。
 特に、乳児のSIDS(乳幼児突然死症候群)の予防と対策(睡眠時の十分な見守り等)、窒息事故防止のための観察を、設備等の安全面も含め十分に行う。
(2)危険の可視化・言語化、評価・改善
 複数の大人の目による点検・チェックリストへの記入、インシデントリポートの作成等、危険を可視化、言語化することにより事故防止対策を検討し、実行するとともに評価を行い、改善に繋げる。
(3)組織的、日常的な取組
 施設長の下、全職員で共通認識を持ち、組織的に対応するとともに、子どもの健康・安全の確保、事故防止の徹底を最重要課題として日常的かつ継続的に取り組む。


本来、ひとつひとつの事例について詳細な調査・分析を行ない、その上で、児童福祉施設最低基準改正の必要性も含めて検討を進めていくことこそ、厚労省がやるべきことなのではないでしょうか。厚労省は、保育の規制緩和推進を所与の前提として、そのことに不都合な事実には目を向けないようにしているという印象です。


庶民派を騙る「草の根市民クラブ」矢野穂積朝木直子両「市議」も、この点では厚労省の方針に全面的に賛成なのでしょう。保育の規制緩和の問題について、東村山市が現に抱えている具体的問題を正面から見据えながら疑問を呈してきたのは、佐藤市議ぐらいです。


今回の一般質問では保延市議(共産)もこのあたりの話を取り上げたはずですが、これは会議録が公にされてからあらためて検討しましょう。また、公立保育園の民間委託は絶対に容認できませんとか分園を導入できるのなら・・・社会福祉法人立の認可保育園の導入に力を入れるべきだと思いますなどと述べる福田市議(共産)が「草の根」をきちんと批判できるのかどうかも、いちおう見守っていくことにしましょう。


なお、保育の規制緩和に関する保育関連団体のアピールは、保育園を考える親の会保育所にかかわる国基準の堅持・向上を求める緊急アピール〉を参照。

*1:【追記】東村山市民新聞」の12月12日付更新についてここで注記しておきましたが、話の関連性を考慮し、12月13日付記事の本文に移しました。