「11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち」と「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」

【11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち】

左翼寄りの人物という印象が強い若松孝二監督が、バリ右翼の人物という印象が強い三島を描いている?一体どんなことになっているのだろう?大変興味が湧いたので観てみました。

三島由紀夫楯の会設立から市ヶ谷での事件までを描きます。

いきなりですが、この作品、予算的に相当厳しかったのでしょう、美術やロケーションが中々なおざりだったりします。60〜70年代の風景に寄せるのはハナから放棄しているカンジ。画質もビデオ感全開で、どうにもこうにもショボさがにじみ出ちゃってたりします。
しかし。じゃあ全然ダメかっつったらそんなことはなく、それがとても良い効果を生んでいたりするから映画というものはなんとも面白い。何がどうなのかっつーと、楯の会メンバーによる自衛隊体験入隊シーンがヤバいのです。マジでヤバい。かなりヤバい。相当ヤバい。楯の会メンバーの青びょうたん連中が、富士山麓の荒野を必死こいて走ってる絵のみすぼらしさたるや!もうその時点ですでに結構アレなのですが、そんなに厳しいカンジにはみえない行軍なのにも関わらず、脱落するメンバーが発生しちゃったりなんかして、んで、それを三島が助けて一緒に走って感動――みたいな展開がありましてマジで愕然とします。さらには、隊員がうっかり川に転落しちゃったりしてさ、大声で名前叫びながら助けにいったりするんですけど、んなもん単なるオナニーにしかみえません。足つくんじゃねーか?あの水場。さらには、三島の奥さん役である寺島しのぶさんが、なぜか体験入隊に一緒に来てて、彼らの頑張りを見学してんですけど、この作品における寺島さんの顔面の様相――とくに下半分の様相――が、イイカンジで猿みたいにモワッとしててなんともいえん味わいがあります。なんだかクセになってしまいます。カルト。

勿論、自衛隊体験入隊シーンだけじゃなく、他にも色々アレなシーンがあるのですが、中でも個人的に一番キタのは、後に楯の会No.2となる森田必勝が、ソ連北方領土占拠に対して抗議に赴くところ。それがさ、抗議に赴くつっても大使館に行くとかじゃなくってさ、日本の最北端まで行って、そこで民間人の船を拝借し、北方領土に乗り込もうとするんですよね。正気を疑います。つかさ、このシーン、最終的には船の持ち主に見つかってメッチャ怒られて言い淀んでしまったりするんですけど、あのですね、一言いいですかね。アホかっつーの。でもさ、そのアホさ具合がイイんですよね。じつにイイ。つまり、これこそがまさに「楯の会」なんですよね。ピエール・カルダン*1のオシャレな制服に身を包んでいるけど実訓練はショボショボ。外っ面だけは立派で中身は伴ってないこのカンジこそ「楯の会」的であり、さらにいえば「上半身はパッツパツなのに下半身は貧弱なままだった」といわれる三島そのものなのかもしれません。

なんて言ってると、ワタクシ、三島の行動を全力でバカにしてるように思われるかもしれませんが、そういうわけではないのです。彼の切腹直前の演説や、天皇に対するアンビバレントな感情にはとても共感を覚えます。とても心に響きます。ですが。行動そのものは無茶苦茶としか言いようがありません。「刀は日本軍人の魂だ。刀による改革しか認められん」なんておっしゃってますけど、あのさ、そういうわけわかんねーメンタリティのせいで、この国はクソみたいな敗戦喫したわけでしょう?で、その果てに待ってたのが主権の喪失なわけでしょう?なんでおんなじ過ち犯そうとしてんの?アホなの?ってカンジです。でもでも、やっぱ国を憂う気持ちはよく分かるのです。たとえ、アホっぽくても三島にはシンパシーを覚える。それはつまり、彼の思想に惹かれるのではなく、彼の悶絶具合に惹かれるからなのです。
そんなわけですから、三島の思想を盲信するだけの森田必勝に対しては、正直、嫌悪感を抱くのみでした。異なる主張を一ミリたりとも受け入れようとはしないであろうあの目。若松監督は彼をどのような人物として描こうとしたのでしょうか。三島と同様、国を憂う汚れなき男、しかしそれと同時に、その矛盾・実現不可能性に悩む男――として描こうとしたのでしょうか。正直なところ、その辺りの監督の意図は読み取れませんでした。それを解く鍵は、三島を介錯する際の森田必勝のとった行動に現れているように思うのですが。というのは、実際の事件を色々調べてみたところ、この作品において、あの瞬間、森田の取った行動ってのは事実に基づいてはいないようなのです――つまりは――


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実録・連合赤軍 あさま山荘への道程】

「11.25」では、いまいち見え辛かったところを読み解く鍵にならないだろうかと思い、若松孝二監督が連合赤軍を描いた作品、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」も観てみました。

70年代学生運動における最大最悪のヤマ場、山岳ベース事件とあさま山荘事件を描きます。


この作品のおける監督の立ち位置は、「11.25〜」と比べるとはっきりしています。監督は明らかに当時の学生運動に対してシンパシーを抱いている。とくに前半はその発露が顕著で、原田芳雄のナレーションとジム・オルークの音楽という強力なパーツが当時の実際の映像と絡み合うことによって、スンゴいテンションあがる描写になっています。世界各国で民衆・学生が蜂起!これはマジで世界同時革命起こるんじゃねーの?最高じゃん!俺ら私らも乗り遅れちゃダメだ!!というヴァイブスがビンビン伝わってきます。じつは、この作品も「11.25〜」同様、予算面での制約が大きかったのでしょう、美術やロケーションに関しては、当時の風俗に寄せることはハナから放棄してる印象を受けます。しかし、ジム・オルークの音楽が超絶にイイことにより、かなり締まった印象受ける。それこそ、70年代の映画の持ってた「いん細」イズム宿っています。本当アガります。

ま、とりあえずそんなカンジで、前半は問答無用「クソみたいな政府はぶっ潰せ!」つーカンジでちょー盛り上がるわけですが、それはあくまで前半のみ。山岳ベースでのリンチ事件パートでは、その胸糞悪さをじつに丁寧に描いておるわけで、つまりは学生運動を絶対的に良きものとして描いてはいないのです。いやまあそれにしても、この山岳ベース事件、ホンットに不快で反吐がでます。元々居た指導者層が検挙・逮捕されてしまった結果、その後に残った二流の人物が指導して――って時点でヤなカンジが漂うのですが、この二流の指導者層がさ、マジで二流、いやそれ以下の行動っぷりでホント胸糞悪いのです。
キャンプに水筒を持ってくんのを忘れたことが原因で狂気が加速してく時点でアホさと不快さがハンパないのですが、そこからリンチに至る理由がさ、「銃の手入れがなってない!」とか、「山降りた時に風呂入ってくるなんて気合いが足りん!」とかそんなカンジでして、それはもう完全に旧陸軍なんですよね。そのくせ、狂気の空間を産み出した帳本人である森恒夫永田洋子は山降りた時セックスしててさ、やることなすこと完っっ全に旧陸軍なんですよね。色んな意味で万死に値します。

ところで、この作品における連合赤軍のメンバーの描写っつーのは、森恒夫永田洋子二名のみを極端に胸糞悪い人物として描いており、他のメンバーに関しては、ある程度節度を持って行動していたかのように見せています。これはおそらく事実ではないでしょう。それはややもすると連合赤軍の活動を美化しているように映るかもしれません。しかし、ワタクシはそうは思わない。だってさ――山岳ベースの酷さは事実。でも、それと同時に、正義の革命を求める熱狂があったのも紛れもない事実。そして、この作品においてはあさま山荘のパートで醸し出される青春映画感つーのも一つの事実だと思うのです。こういう作品描く時ってさ、得てしてどっかのサイドにのみ都合がイイ風に描かれがちだと思います。でも、若松監督はそんな安易な道を選ばなかった。運動における正邪の両面、高尚卑近の両面、あらゆる部分をきっちり描いている。「絶対的に良い!」「絶対的に悪い!」という盲信こそがもっとも邪悪なんですよね。

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というわけで「あさま山荘」と「11.25〜」を観ますと、なるほど若松監督という人物は、間違いなく反権力の人だが、彼が捉える権力というのは――安易なカテゴライズに基づいたものではなく――敵味方・組織の大小問わず、あらゆるコミューンで発生し得る権力なんだなあと思います。右翼も左翼も変わんねー。アホはアホなんです。ほら最近、ネトウヨと呼ばれる層が、自分らにとって気に食わん情報が目に入った際、ことごとく「反日反日」つって揶揄するじゃないですか。これってまさにネトウヨ連中がいうところの左翼がよく使うロジック「反革命」と同じなわけです。ネトウヨがバカにしているサヨク像、その体現者はネトウヨなのです。じつにアホらしい。逆にいえば、真剣に国家の有り様に憂いてる人達は、例えイデオロギーが真逆でも相通ずるわけですが、そうなってくると、この国の場合、純化純化自家中毒を起こして自滅していってしまうのでホント困ったもんです。まあなんつーか、一人一人がちゃんと自分で考えていかんとダメですよね。ちょー当たり前のことなんだけど、この国においてはこれがなかなか。

*1:だとずっと思ってたけど違うんですね