螺ス倉庫

ほぼ倉庫

MONSTERS 1

―――3年前村だった場所―――

すでに廃墟と化していた村には雨が降っていた。
生物が何一つ見られない場所に青年が1人仰向けに倒れていた。青年の右腹には風穴があいており、そこから雨水と一緒になって大量の血液が流れ出ていた。栗色の髪は彼の血で毛先が赤に染められている。誰から見てももう「助からない」。そんな状態だった。青年は焦点の合わない目で灰色の空を仰ぎながら掠れた声で呟いた。
「オレ・・・死ぬのか・・・」
その言葉を待っていたかのように少女がどこからか現れた。少女の足は無数の傷で覆われていた。
「あなたは、生きたいの?」
「オレは・・・」

そして、月日は流れ―――



―――3年後現在 とある村のとある酒場―――

そこは人にあふれていた。その村で唯一の飲食店は昼になると多くの村人が集まるのだ。ある人は普通に昼食を楽しむため、ある人は昼間から酒を飲むため、またある人は情報を得るため。そんな騒がしい中でひときわ目をひく男女の2人組がいた。
男は黒髪に赤目、左耳に結晶型のイヤリングと、この時代ではさして珍しくないどこにでもいるような青年だった。ただ右腕が途中から欠けていることを除いては。
逆に女、というよりも少女は服装からすでに周囲の目をひいていた。大きな黒い瞳に金髪のショートヘアとここまでは普通の少女なのだが、黒いビスチェのような服に白い花を模したミニスカート、太ももの半分ほどまで伸びた黒のロングブーツを身につけており、周りから見ればその姿はまさに「魔女」だった。
「だからな、黒い髪に赤目、ようするにオレみたいな外見のやつが魔物(モンスター)だ。それから、黒髪赤目のただの人間と魔物を見分けるには相手の目を見るんだ!魔物の目は濁ってるからなっ。わかったか?」
得意げに話す青年に少女は酒場のメニューを手に取りながら淡々と言葉を返した。
「・・・ウィズ、その話もう5回聞いた」
「ん?そうだったか?まあいいじゃねえか、減るもんじゃねえし」
「ウィズ・・・」
「なんだ?」
青年、ウィズ・ライトは頼ってくれと言わんばかりに少女の顔を見た。
「・・・食べたいもの、決まったから、店員さん呼んで?」
「はいはい。あ、ウェイトレスさーん!」
少し肩を落とした後に店員を呼ぶと、店員は早歩きでウィズのもとへ向かった。
「ご注文は何でしょう?」
「んーとね、片手で食べられるものの中でおすすめのものって何かない?オレ、こんな腕だからさっ」
そう言ってウィズはない方の腕をパタパタと振って見せた。
「それでは当店自慢のカレーなどはいかがでしょうか?」
「辛さってどれくらい?」
「中辛となっております」
「じゃあそれで。サメリは?」
少女、サメリの方に顔を向けるとサメリは無表情のまま口を開いた。
「チョコパフェとプリンパフェを1つずつ」
「またお前甘いもんばっか食って!太るぞ!」
「・・・悪い?」
棘のある言葉とは裏腹にサメリは優しい笑みを浮かべた。それを見たウィズはため息を吐く。
「あのーお客様・・・ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「あ、うん。ごめんね」
気まずそうな顔をする店員にウィズは慌てて返事をした。
「かしこまりました。ご注文を繰り返させていただきます―――」

店員が去った後、ウィズは半ばあきれながらサメリに言った。
「サメリー、また言葉と顔が合ってないぞ・・・。さっきみたいな時はもうちょっと、『むっ』てした顔をするんだ。まあ、あれはあれで怖いけどな」
ウィズは不満げな顔を作ってみせる。
「こんな顔して『悪い?』って言うんだぞ。わかったか?」
サメリはウィズの顔をしばらく見つめていたが相変わらず無表情のまま口を開いた。
「・・・わかんない。それに私、まだあの顔しかできない」
「んー、まあ徐々にいろんな顔ができるようになるよ」
ウィズはにぃと明るい顔で笑いかける。それに合わせてサメリも微笑んでみせた。
「これでいいの?」
「今のところはな」

ザーッ、ザザザッザ―――

どこからかノイズ音が流れる。発信源はどうやらウィズのイヤリングからのようだった。

――ザー・・・ガガガ・・・おーい、聞こえるか?ウィズ、サメリ―――
少しのノイズ音が流れた後、イヤリングから若いとも老いているともとれる不思議な男の声が漏れ出た。
「はいはい、聞こえてますよっと」
「・・・聞こえてます」
どういう仕掛けかは謎だが、ウィズのイヤリングは無線機の役割を果たしているようだ。ウィズはイヤリングに向かって話しかけた。
「何の用ですか?」
―君たちが今いるところの近くに魔物が出没しているらしい。だからそいつらを退治してほしいんだよね。ー
「オレたち今から昼飯なんですけど・・・」
相手には見えないのだが露骨に顔をしかめてみせる。
―まあまあ、ちゃんと手当は出すからさ。じゃあよろしくね―――
「あっ!ちょっと待って下さいよ!レイダさん!!」
抗議しようと声を荒げるが、空しくも無線を切られウィズは深いため息をついた。
「ほんっとにレイダさんはいつもタイミングが悪いっ!狙ってんじゃねーの?なあ、サメーー」
ウィズの言葉を遮るように派手な音を立ててサメリは席から立ちあがった。
「・・・?どうした、サメリ?」
いぶかしむようにウィズは眉をひそめるが、そんな彼の様子に一瞥もせずサメリは店の壁を、そしてさらにその壁の先を凝視した。
「・・・来る!」
「え・・・?」
「魔物が3人。今はまだ遠いけど確実に近づいてる・・・」
「お前いつの間にそんな能力・・・」
「行こう!」
真っ先にサメリは酒場の外へと駆けだしていった。ウィズはそれを追いかけようとするが、一旦足を止め厨房の方に声をかけた。
「おっちゃーん!オレたちちょっと外に出るけど、ちゃんと戻ってくるから飯ちゃんと作っといてくれよな!」
すると厨房から体格の良い料理長が現れ、びしっと親指を上げた。
「サンキューな!」
にやりと笑い、ウィズは急いでサメリのあとを追いかけた。