必要とされる混合診療はすでにある


ブクマコメ、コメント欄に応答しつつ昨日のエントリの補足をしますにゃ。
最初にいっておくけど、

id:pollyanna
経験と知識を積み上げてきた専門家を信頼することと権威らしきものに盲従することはまったく違うんだけど、たぶんそこがわかりにくいんだろうなと思えてきた。どう伝えたらいいのかなあ。これも自分への宿題。

ここについては僕も宿題とさせていただきますにゃ。

保険適用外の「玉」

id:andalusia
いや保険適用か適用外かなんて予算の都合が大きいでしょ。保険適用のいわゆる「銀歯」より、保険外の金歯やセラミックのほうが精度や耐久性など性質的にも優れていることは100人中100人の歯科医が認める話でしょ。

保険適用外の療法がすべてダメだといったつもりはにゃーですよ。ちゃんと注までいれて確認してあるはずですにゃ。僕がいったのは、保険適用を認められた医療とは、効果があると認められたものだ、ということですにゃー*1
インチキ療法はここでは論外として、科学的に効果があると思われる、あるいは効果があることがほぼ確定している療法にも保険適用外のものはありますにゃ。その理由として、おっしゃるとおりに費用の問題が1点、そして、安全性や効果の確認に時間がかかるというのが1点にゃんね。保険適用外のものは玉石混交なのよ。多くは石だろうけど。

すでに混合診療は認められている

では、保険適用がされてにゃー「玉」をどうすればいいのか?

id:blacksorcery
国の認可をもう少し幅広く出来ないなら、混合も仕方ないと思う。先進医療は書いているけどそれ以外、漢方とかも要考慮。漢方自体は莫大な経験値を元にした立派な治療だけど、生薬の量とかで認められてない

漢方がまっとうな医療だということは僕も認めているし、実際に保険適用になっているのではなかったっけ? 近所に漢方を処方している内科医があって、僕もお世話になっているにゃんが。漢方の処方におかしな縛りがあるんだろか?
まあ、漢方はおいといて、「国の認可をもう少し幅広く」というのはもっともな意見だと思いますにゃ。混合診療の「緩和(全面解禁ではない)」に賛成する良心的な医師の意見もだいたいこれみたいにゃんね。


「現在の日本の公的医療保険制度においては、原則的に保険適用が認められた療法のみを使うこととされ、保険適用外の療法との併用は認められていません」と書いたけれど、これはあくまで原則で、例外的に保険適用の医療と保険適用外の医療の併用が制度的に認められていますにゃ。昨日のエントリの注にも「例外はいろいろある」と書いたけど、今回はこのあたりを少しとりあげてみますにゃ。

厚労省のHPをご覧くださいにゃ。
【評価療養】と【選定療養】に分類される保険適用外の医療行為については、保険を使った医療との併用が認められている。つまり一定の条件下で混合診療はすでに認められているということですにゃ。
選定療養については、見てのとおり「差額ベッド」「金歯」「予約」などが対象で、ここでは特に説明しませんにゃ。問題は評価療養のほうで、こいつのポイントは

  • 1)一定の条件を満たした医療機関
  • 2)高度な医療、あるいは治験的(=実験的)な医療を
  • 3)患者が希望し、医師がその必要性と合理性を認めた場合に行われる

というところですにゃ。もちろん、評価療養の部分は全額自費ね*2


というわけで、保険適用がされてにゃー高度な医療、先進的医療、あるいは治験的医療と保険範囲内での医療との混合診療はすでにあるわけですにゃ*3


ここで重要なのは、科学的に根拠のありそうな先進医療と保険の併用ができる混合診療の制度はすでにある、ということだにゃ。

高度医療について

ところが、高度医療・先進医療・治験的医療の内容を担当医が自由に決められるというわけではにゃーようだ。
高度医療承認の手続きというのは具体的にどうなっているかなんだけど、

あたりの記述から抜き書きすると


高度医療の認定は、厚労省に新たに設けられる「高度医療評価会議」において行われる。ある程度の安全性と有効性が認められ、かつ、実施する医療機関が一定の条件を満たした場合に認定される予定だ。


学会が代表して申請を行うことで、各医療機関は、厚労省との事前相談を個別に行う必要がなくなり、申請書類の作成にかかる負担も軽減されている。


高度医療として認められるためには、まず、各医療機関において臨床研究計画を作成し、機関内の倫理審査委員会で認められたうえで、高度医療評価会議でも承認を得なければならない。そのため、承認を得るまでには半年以上の期間が必要になるだろう。


これまで厚生労働省厚労省)は、未承認薬の個人輸入は医師と患者の自己責任として、ほとんど関与してこなかった。その厚労省が、新制度から未承認薬の管理に踏む込むことになる。


療法ごとの認可、および病院単位の認可が行われるようにゃんね。病院単位の認可については、診療所への拡大も検討されているようですにゃ。
高度医療を行なえる医療機関に条件を付けるのは合理的でしょうにゃ。また、治療内容を細かく縛るのはどうなんだという話もあるだろうけど、実験的な医療も含まれることを考えると一定の縛りは必要だろ。手の届かにゃーものにはしたくない、という役人の感覚もわからなくはにゃー。なんかあったら役人も責任を問われるのは間違いにゃーもんな。
問題は、認可に実質半年ほどの時間がかかるということで、特に進行性の疾患に苦しむ患者にとっては長すぎるものといえるでしょうにゃ。

スピードを重視すべきか?

2007年11月に、「混合診療解禁訴訟」において、地裁レベルではあるけれど、混合診療解禁を求める原告側がほぼ全面勝訴したという裁判がありましたにゃ。

この裁判はいろいろな意味で話題になったもので、調べると面白いよー。ここで1点指摘しておくと、この裁判で争われた「活性化自己リンパ球移入療法」という療法には現時点で科学的な根拠はにゃーということらしい。あの慎重なNATROMもここで「はっきり言えばインチキだと私は考えている。」と言っていますにゃ。


2008年にはじまった高度医療評価制度は、この判決に対するリアクションと考えられるでしょうにゃ。「保険外医療にはアヤシイものがあり、安全性を考えると混合診療は認められない」と裁判で厚労省が主張したタテマエに沿った制度改革だと一定の評価はできるのではにゃーかと考える。


現状で半年ほどかかる高度医療評価会議のスピードが患者にとって長すぎるものであり、その短縮を求めるというのはよーくわかるんだけど、データをとり、効果があるという判断を下すのはどうしてもそれなりに時間のかかるものだということも間違いにゃーところだと思われますにゃ。

id:sivad
混合治療は微妙な問題。先進(実験)的医療推進の場でもあるけど、これはいわゆる人体実験。ガチな評価機関がないと危険でしょうね。

という側面もあるわけで、拙速を許容するわけにはいかにゃーだろう。ある程度時間をかけて、科学的根拠のある判断をする必要があり、僕としてはスピード重視は支持できにゃー。根拠レスの医療が保険と併用されることで、かえってヒトが死ぬのではにゃーだろうか。

結局は資源配分の問題

先ほどリンクした「がんナビ」にもあるとおり


そもそも、新しい薬剤の承認に時間がかかりすぎるというドラック・ラグが問題。ドラック・ラグを前提に新しい制度を作るのではなく、ドラック・ラグの根本的な解決策が求められている

 高度医療制度、生活保護受給者への未承認薬の供給、コンパッショネート・ユース制度とも、ドラック・ラグに対する対症療法的な制度に過ぎない。ドラック・ラグを根本的に解決するためには、欧米並の速度で新薬の承認が可能な体制を日本に整備することが不可欠だ。厚労省には根本的な問題解決のために全力を投入してもらいたい。


高度医療評価制度が未承認薬を扱うだけではにゃーというところはおいといて、「ドラッグ・ラグ」は確かに問題ですにゃ*4
ただ、ここに関しては


id:poccopen
本題じゃないけど、薬事審査を担当するPMDA(医薬品医療機器総合機構)は採用人数を増やしつつあるみたい。審査が迅速化すれば、混合診療解禁派からのツッコミも厳しくなくなるのかな?

ということで、期待したいところですにゃ。
しかしここでも述べたけど、日本の人口当たりの公務員の人数は先進国中最低だというのに、いろいろとつっこまれ放題で、役人もたいへんにゃんねえ。
医療にしろ教育にしろ、資源配分が先進国中最低レベルで、しかもそれなりの結果を出してきたものが叩かれ放題ってのはにゃんとかんとも・・・*5


高度医療についても、その評価のありかたも含めて、どれだけ資源を配分するか、どれだけカネをかけるかという問題なのですにゃ。

原則は保険適用、しかし

現状で、科学的な評価に基づいて規制のある混合診療が認められている以上、全面的な混合診療解禁という主張は悪徳医者、代替医療、保険屋の利益誘導でしかにゃーということは明らかなのだにゃ。奴らは患者の味方ヅラをするし、そこに騙されるヒトもでてくるけれど、ご注意くださいにゃー。
今ある制度はベストではにゃーが、運用を改善すればよい方向にいくはず。日本の医療制度は基本的には世界中から垂涎の的であることを忘れてはならにゃー。変にいじくるべきではにゃー。


有効な治療法であれば速やかに保険適用をするのがスジというものですにゃ。
このスジ論を主張している点において、医師会も厚労省も支持しますにゃ。医師会にも厚労省にも言いたいことは山ほどあるけど、この部分については支持。ごくごく個にゃん的にいわせてもらえば、日本の医療制度を支えてくれるのならば、それなりの権益にあずかろうがぜんぜんかまわにゃー。願わくばそのスジ論を実現してくれよ、と。


ただ、効果が確実に見込まれるにしても、費用のかかりすぎる療法を保険適用すべきかどうかはムツカシイ。現状では、金歯なんかは効果があるけど適用外となっているけれど、これは直接に生命にかかわることでもにゃーし、替わりとなる療法も確立しているので問題は特ににゃー。けれど、特定の生命にかかわる疾患に、確実な効果のある療法が確立され、それが目茶苦茶にカネのかかるものだとしたら?
これは簡単な問題ではにゃーのだ。

資料

最初の高度医療評価会議の資料は、ここからDLできますにゃ。


高度医療が診療所にも拡大されることが検討されているというニュース。このあたりまでは適切かと思いますにゃ。
リンク切れに備えて、全文引用しておきますにゃ。


高度医療、診療所にも拡大へ―厚労省が検討
2月27日19時40分配信 医療介護CBニュース


 厚生労働省は2月27日、昨年4月に始まった「高度医療評価制度」の運用を見直す方向で検討に入った。緊急時の対応が可能で、医療安全対策に必要な体制が整備されていれば、診療所でも高度医療を実施できるようにしたい考えだ。また、高度医療の申請時に原著論文などの提出が求められる点についても、見直しを検討する。高度医療の対象が希少な疾患の場合には、原著論文の提出自体が困難なこともあるためで、同省の高度医療評価会議で検討し、意見集約できれば制度の運営要領を改正する。


 高度医療評価制度は、薬事法上の承認がない医薬品や医療機器を使用した技術でも、一定の条件を満たせば「高度医療」(第3項先進医療)として保険診療との併用を認める仕組みで、昨年4月にスタートした。
 高度医療は、同省医政局の高度医療評価会議と、保険局の先進医療専門家会議の2段階で審査する。現時点では、高度医療を実施できるのは特定機能病院のほか、「緊急時の対応が可能な体制」「医療安全対策に必要な体制」が整備された病院に限られているが、厚労省ではこれらの要件を満たす診療所にも拡大することを検討する。


 同省は、27日の高度医療評価会議にこれらの方向を盛り込んだ論点メモを提示。高度医療の実施医療機関の拡大については、「技術ごとに施設要件を決めるので、(すべての医療機関が)一律にできるようになるわけではない」と説明した。


 委員からは「技術によっては、施設の要件を広げてしかるべきだ」といった前向きな意見の一方で、「混合診療の禁止の観点からも、経済的な理由から過度に広がらないような歯止めは掛けておくべきだ」「(安全性の裏付けのない)民間療法を扱っている施設に高度医療制度が入ってくると、訳が分からなくなる」といった慎重論も出た。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090227-00000005-cbn-soci

*1:医師としては「おいおいこれが保険適用されてんのかよ」といいたくなるようなものもあると聞いたことはあるけど、まあそのあたりはおいといて

*2:医師主導の治験的医療の場合は、保険適用されるようだ

*3:この「混合診療はダメ」の記事のどの辺りが気に食わないかというと… - touhou_huhaiの日記というトラバをもらったし、前回エントリのコメ欄でもいろいろとtouhou_huhai は書いているけれど、混合診療を認める部分的例外について僕はちゃんと触れてあったはずにゃんがねえ。論点が拡散するからそちらはあえて触れなかっただけのこと

*4:薬でなんかあると役人が叩かれるので、防衛に走る気持ちはわからんでもないけど

*5:だからといって土建屋を叩けばいいかというと、建設業界が日本である種のセーフティネットになってきたということは確か