ネブラスカ」を観る。

これも傑作。モノクロのロードムービーというから、もっとストーリー性が希薄で文芸的な淡い物語なのかと思ったけど、じっしりと響くような重厚な物語で、かつ笑いどころも多くて想像してたのと全然違う面白さだった。100万ドルの宝くじに当たりましたという偽の手紙を信じてはばからない粗野でアルコール中毒の老いた父と、AV機器店の店長を務めて真面目に働くも、同棲していた彼女(かなり太っていてブスなのが物悲しい)からは愛想をつかされどこかパッとしない生活を送っていた息子がお互いの関係性を改めて構築し直す素敵な物語。
登場人物たちが皆一癖も二癖もあって面白い。主人公の息子は真面目でうだつの上がらない感じだが、もう一人の主人公・父はとにかく酒が飲めればいいというだけで家族のことを全く気にも留めず、親類含めてこれまで疎んじられてきたダメオヤジ。だが、二人旅を続けるにつれて父のピュアさが浮き彫りになってくる様を描き出しており、それがすごく自然で旨い(実は過去にインディアンの娘と浮気していた、とかいうちょっと恥ずかしいエピソードを古い友人にばらされたりするのもお茶目で笑える)。主人公の兄はテレビのニュース番組のキャスターをしており、ちょっと勝ち組っぽい感じではあるが、基本は弟と変わらず家族や親類の絆を大切にするナイスガイだ。二人兄弟のカトリックの母もまた父に劣らず強烈な人で、だらしない父を尻に敷くしっかり者であることは確かなんだけど口が悪く、従妹たちをしかりつける時も「くそったれ」とか言っちゃうし、自分の貞操を狙っていた過去の男たちの墓で自分の股をおっぴろげながら「あんたの話がつまらないからふったのよ!」的な捨て台詞を吐いたりとかなり激しい人だ。親類たちは皆まさにアメリカの田舎のレッドネックといった体で(こういう描写大好きなのよ、「ウィンターズ・ボーン」しかり)、汚いネルシャツにだらしなく肥満しているといった風貌で、皆で集まってもろくな会話もせずにテレビにくぎ付けでポロポロと話すことと言えば「最近何乗ってんだ」と車の話ばかり。主人公の父が一山当てたと聞けば「昔工面してやった金をよこせ」と群がる下種さが非常にリアル。主人公たちの従兄はこれまた屑野郎で、レイプ事件を起こして刑務所帰りの上、主人公たちから金をせびり、なんと宝くじの当たり文章を強奪するというすがすがしいまでの卑劣漢。昔の友人たちも次々に金をせびり、醜悪で滑稽なアメリカをリアルに見せつけてくれるのが面白い。この毒のある描写は演者がサタデー・ナイト・ライブ出身者であることも大きいのかもしれない。
だからこそ、ラストシーンは爽快だ。宝くじに当たってないことを遂に認めた父に息子が新車(これがピックアップトラックというのがまた父の自尊心をくすぐるチョイスで粋)と友人に借りパクされたコンプレッサー(何に使うか不明)を買ってやり、昔の友人や親類たちに見せびらかしながら街を通り過ぎるという。父は息子を認め、息子は父を認めるというとても大事な経験をしてアメリカ的な水平線まで伸びる一本道を車で進むシーンはちょっと涙が出そうになった。