「星を継ぐもの」を読む。

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

先日、おときた駿氏の政治について学ぶタウンミーティングに参加し、改めて彼の姿勢に共感し興味を持った。その彼は昔SF好きだったらしく、ブログでお勧めだったので読んでみた。かなり面白かった。いくつかのどんでん返しがあるので詳細は伏せるが、近未来の2030年前後(本作が書かれたのは1970年代)で月面から遺伝子的に地球上の人類と相違ないミイラが発見されたことにより、人類の主としての起源を探るという物語である。若干ネタバレ注意。
途中になってやっと意味が分かるプロローグがにくい。母星での戦争の影響で月面で仲間を助けるべく死に絶えたチャーリーと、現代の研究者であるハント博士が月面に降り立った時のシンクロし、鮮やかに5万年前の景色が浮かび上がる様を文章で体験するときは興奮した。破城しないようにただ精密に設定を練り上げるだけのSFじゃない、物語としての面白さがここにあふれていると思う。真実を知りたいという一心で、学説上敵対していたダンチェッカー博士とも意気投合し、最終的に自説の補強を彼が担う山場となる演説シーンも素晴らしい。本作はSF的な考証に詳しい人間からすると穴や矛盾もあるようだが、俺としては物語として酔わせてくれたので評価はゆるぎない。確かに傑作だと思う。
本作はシリーズものとなっており、地球に降り立った巨人コリエルのアナザーストーリーも楽しめるらしい。ネアンデルタール人を駆逐し、ホモ・サピエンスとして地球に蔓延る人類の別の物語もぜひ読んでみたいものだ。改めて、世界全てを記述するような広範囲の知識を必要とする本作のようなジャンルの読み物をエンターテインしながら書ける作家に戦慄した。