ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」を観る。

実を言うとほとんどストーリーを知らず、スティーブン・ダルドリー監督とかトム・ハンクス主演ということで観てみた。原作は小説らしい。感受性の強すぎる鬱屈した聡明な少年が主人公という点で「リトル・ダンサー」が思い出されるけど、本作はより喪失と再生という感じが強かった。面白いっちゃ面白いけど、気軽に人に勧めにくい感じはある。主人公の少年に共感しづらいから。9.11で父親を失った少年が、父との繋がりの手がかりを求めてNYを舞台に様々な人と話して冒険し、残された母親や自分の祖父との交流を通じて何とか父の思いを自分なりに咀嚼して納得するまでのお話。セントラルパークとか、ブリックリン橋とかNY旅行帰りからするとちょっと楽しめる景色多し。タイトルについては、最終的には少年の調査レポートのタイトルとして繋がってくるんだけど、うまく呑み込めないけど恐らく少年の体験する「世界」における父親の存在について謡っているんだと思う。
少年は、ありていに言えばアスペルガー症候群的な傾向が観られる臆病で頭の良い、かつコミュニケーションに難のある少年である。自分の興味のある分野に関しては異常なほど細かい知識や記憶を持つものの、言語外の状況察知がすごく乏しい。少年が初めて手がかりとなる「ブラックさん」という女性に会ったときの、「夫に怒鳴られて喧嘩して涙している、という明らかにそれどころじゃない感」の時に、全く躊躇せずに「写真に写ったクジラについて知っている話」を詳細にしてしまう少年の「空気の読めなさ」が誠実で痛々しくて胸を締め付ける。勿論少年にとっては「それどころじゃない」から父を追っているわけだが、この場面は彼の人となりを表す象徴的なシーンだと思う。彼は劇中を通じてほとんど笑わない。大体がしかめっ面か、もがき苦しむ表情である。終わってからも、ディズニー映画のような座りの良さがない、異物感も残る(例えば、祖父はなぜ口を利かなくなったかとか、少年がなぜ頑なに留守電に残った父の最後のメッセージを隠し続けたのかとか最後まで読み取れなかった)。でも、なんかリアルである。
サンドラ・ブロック演じる、母親もすごく良かった。最愛の夫を失っただけでなく、息子から「パパじゃなくてママが死ねばよかった」なんて酷い言葉を受けながらも、仕事をつづけながら息子を案じる母。突然の死を処理しきれない、怒りをどこにぶつけていいか分からない母の疲れた表情がすごく印象的だった。