人間仮免中」を読む。

年の瀬にとんでもないマンガに出会ってしまった感覚。帯の通り「生きてるだけで最高だ」の言葉がこれほど似合う本もないのでは。マンガの存在自体は「このマンガがすごい」で数年前から知ってはいたのだが、何のきっかけか今回初めて読んでみた。似た系統の作品として、まんしゅうきつこ氏の「アル中ワンダーランド」や吾妻ひでおの「失踪日記」があるが、それらよりも遥かに笑えない、なのに超面白くてどぎつい。正直、このマンガを創作として読ませられたら、「いや、盛りすぎでしょ。こんな波乱万丈過ぎたら嘘くさいわ」と思ってしまうようなレベルである。あまりショッキングな経歴だけをさらすと安っぽくなってしまうかもしれないが、元AV女優(スカトロとかのハードコアなやつ)の統合失調症患者であり、ヒモの元夫は自宅の目の前で飛び降り自殺、自身の自殺未遂も片手で足りないほど。かつてはストリップ小屋で舞台中に首をかっ切ったりとか、本書では歩道橋から道路に顔から(!)ダイブして顔面複雑骨折、歯を全損、片目を失明しながら生き延びるという。そんな中でも、共に生きていける人や懸命に愛してくれる男性に支えられ、表現活動もしている。そして、訃報が伝えられていないというだけで彼女は今も生きているのだろうし、それだけで安心してしまう。
そして、本書がなにより凄いのは全てをエンターテイメントとして見せる構成や演出力があること。単にショッキングな人生をさらけ出してみました、ではなく、読者の視点を意識しつつ、「読ませる」作品になっていることだ。破天荒で破滅型の天才アーティストは文芸・絵画・音楽など分野を問わずに古今東西たくさんいるが、後世に残るような傑作を残せる人は少ないし、彼女はその一人だと思う。本書に綴られた幻覚や幻聴の生生しさ、それに付き合ってくれる周囲の気配りすら作品に落とし込み、「自分の支離滅裂さ」を笑いに昇華しているのである。そして、最愛のボビーさんとの分かちがたい愛の記録でもあり、これを片目で描き上げたと思うと戦慄する。目が離せない人がまた一人増えた。