「Ank: a mirroring ape」を読む。

山形浩郎の紹介で知った一冊。江戸川乱歩賞受賞作。すげースリリングで面白かった。ディザスターものでありパニックスリラーでありSFであり、凄く映画化に向いたエンターテイメント小説だと思う。アンクというチンパンジーとその研究者、そして事件全体の記録者としての記者という主要人物の紹介に徹した緩やかな前半から、一転して「虐殺器官」のようなリアルな軍隊や暴徒による激しい戦闘描写が続き、後半では人間の起源に迫っていくいという壮大なお話。
場所や時間軸を切り刻み、小さな章を積み重ねて物語の全体像が見えてくる仕組みになってきており、全ての線が一本に繋がっていく気持ちよさ。そして、「猿の惑星・創成期」のように人間の領域に近づくチンパンジーを生み出すという話も興味深くて凄く面白い。「自己鏡像認識こそが、われわれの意識を進化させる。鏡を見る自分をさらに見る-このことによって、これは自分だ、これは自分ではない、という神経のフィードバックが起こる。これが脳を活性化させ、より内容的な意識を生み、抽象的なイメージを描くことを可能にする。イメージは共感を生み、ある対象を別の対象に置き換える比喩を生み、ついには言語を生み出すに至る」とか超ワクワクする。そしてアンクと主人公の悲しいラストシーンも主人公と母親のシーンと重ね合わせて描写されており、見せ方が上手い。著者の前作の「QJKJQ」も凄く気になるので読んでみようと思う。