「日本人はなぜ存在するか 知のトレッキング叢書」を読む。

面白かった。気鋭の歴史学者が大学の一般教養の講義をまとめたものであり、非常に語り口が易しく読みやすい。日本人って定義することって結構難しいよね、ということを色んな例を挙げながら説明していく内容となってあり、キーワードは「再帰性」。現象として日本人という人間がまず先に存在するのではなく、語ることによって日本人という概念が生まれる、みたいな。参考文献や様々な芸術作品の言及も豊富で、巻末に読書ガイドもある。講義で触れる学問分野も極めて多岐に及び、「日本人らしさ」を説明する際に使われるデータや検証方法に注意すべし、という統計学的な考え方や、「法学」と「法社会学」がどのような視点によって違う学問となっているかを考える社会学的な考え方や、著者の専門である歴史学という営みが過去の出来事を調べるだけの死んだ学問ではなく、「ALWAYS三丁目の夕日」を題材に人間の立場の違いや資料の解釈によってアクティブに語られ直される面白い学問であるということを説明したり、アイヌ民族在日韓国人の国家へ包摂される歴史について解説したり、色んな学問のとっかかりになる素晴らしい内容となっている。あと、日本の国籍法が結構世界的にも独特な「家」制度を基にしているとか、スーダンに「死んだ人の子供を作れるルールがある」という文化人類学の話とか、ウルトラマンと沖縄の複雑な
関係性、ハリウッドにおける早川雪舟の描かれ方などトリビア的な話も面白かった。向学心のある人なら高校生でも読めると思うし、人にも勧められる良書。