九冊の猫:時鐘館の殺人

 直木賞作家の辻村深月さんは、今邑彩さんの大ファンです。
以前、ハヤカワミステリマガジンの
アンケート企画「私の好きな短編ベスト3」で
今邑さんの短編を3作ご紹介されたほどです。

 そのうちのひとつ「黒白の反転」は、
短編集「時鐘館の殺人」に収録されています。


 この『貸本棚を作る』という企画に申し込み
本をお送りするにあたっては、
絶版の書籍を選びました。いま流通している本、
新刊書店に並んでいる本では、貸本の意味が
失われそうな気がしたのです。

「この本は出回ってない、手に入れにくいけれど、
あの本屋では貸し出されている、行ってみよう」と
なればいいな、そう考えたのです。
 実際には電子書籍化された作品がありますし、
この「時鐘館の殺人」は文庫版を
買うことができます。そう、文庫版なら買えます。

 私がセレクトしたのはこちら、
ノベルス版です。

 ノベルス版と文庫版は、やや内容が異なります。
 私のつたない説明よりも、今邑さんの
お言葉をそのまま引用しましょう。以下は、
文庫版に掲載されている「あとがき」の一部です。

 文庫化に当たって、最後に収録した「時鐘館の殺人」だけ、かなり手を加えました。ノベルス版の時にはあった箇所が大幅に削除されています。
 削除の理由は、時がたつと意味が分からなくなってしまうような時事的なネタを扱っていたためと、実在する作家の方々を揶揄するような表現が多々あることが気になったからです。
 この作品は、私がまだアマチュアだった頃(今もアマチュアに毛が生えた程度ですが)に書いたものが元になっています。

 というわけで、ノベルス版はアマチュアだった頃の
今邑さんによる、ギリギリのネタが読めるのです。
 文庫版では読めない文章です。
 今邑さんがアマチュアだった頃の
お茶目な一面が見られる
ノベルス版「時鐘館の殺人」、ぜひどうぞ。


 ……せっかく削除したものを
こうして大っぴらにすると、
私を叱りとばすために
泉下の今邑さんが
生ける屍となって現れるかもしれません。