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tkenichiの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2012-02-07

[]ダニエル・カーネマン心理と経済を語る

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ノーベル賞受賞講演、自伝、サーベイ的な論文を一つにまとめたもの。学問的には、受賞講演の方が面白いかもしれないが、私には自伝の方が面白く読めた。カーネマンの専攻は経済学ではなくて、心理学だというのも興味深いし、研究を始めたばかりの頃に、新しい国イスラエルの軍の面接システムに関わるといった、実践的な経験を積んでいることも、その後の研究に与えた影響を想像させる。トヴェルスキーとの共同研究の素晴らしい体験談は、共同作業がうまくいくとはどういうことなのかの最高のサンプルだろう。分担を決めずに、まとまっていないアイディアを出し合い、納得が行くまで議論しながら進めて行く方法は、いわゆるブレインストーミングであり、アジャイル的である。

もともとは合理的モデルに対する批判が目的だったのではなく、ヒューリスティックスの問題を扱っていた。それが徐々に、意思決定論や効用やリスク回避の問題に興味の対象が移っていく。そして行動経済学へ。行動経済学との関わり方は、学問分野の創始者というよりも、きっかけを与えた後は、若い経済学者たちが分野を発展させていくのを応援するという立場だそうだ。この客観的な立ち位置がかえって新しいことへの挑戦を促しているのかもしれない。

近年の行動経済学のブームで、自伝や受賞講演の中の紹介されているパラドックスの多くは、すでに目にしたことがあるものが多かったが、「一つだけの質問による心理学」についてはあまり啓蒙書では言及されていないようで、不勉強ながら、この自伝で初めて知った。

2012-01-12

[]メッシュ

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メッシュ すべてのビジネスは〈シェア〉になる

メッシュ すべてのビジネスは〈シェア〉になる

メッシュとは著者が命名した新しいシェアビジネスの仕組みのこと。古典的なシェアの仕組みとしては、ホテル、地下鉄、図書館などがあるが、ここではモバイルネットワークソーシャルネットワークの仕組みを利用した新しいシェアビジネスの仕組みのことを言っている。典型的な例がカーシェア。レンタカーとの違いは、特定の場所に行って車を借りるのではなく、至るところに車があって、好きなところで利用できるということ。すべてをシェアするのではなく、価格が高くて使用頻度が少ないものをシェアするという考え方である。

もちろん、成功した事例について説明しているので、たまたまうまく行っただけだという批判もあるだろうが、人々の価値観から所有よりも共有(モノだけでなく体験も)を重視するようになってきているという変化もあるのだろう。シェアビジネスを体験して、その良さをソーシャルネットワークで表現する人たちがいることで、メッシュビジネスはよい循環を生んで発展していく。

ちょっと変わった例も紹介されていて、ワイン作りをシェアするクラッシュパッド、プロジェクトへの少額投資を仲介するキックスターターなどは、厳密にはメッシュビジネスではないのかもしれないけれど、面白い試みだと思う。

最後の方は、メッシュビジネスを始めてみようとする人のためのガイドになっている。それ以外の多くの業界でも当てはまることが多くて参考になった。

数年前、情報が偏在化したユビキタス環境が実現すると言われた時に、それがシェアビジネスを変えるということに私は気付かなかったが、テクノロジーだけを見ていてはわからないということか。

2011-12-26

[]宇宙太陽光発電に挑む

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夢物語として「宇宙太陽光発電」という言葉は知っていたけれど、実際にどこまで研究が進んでいるのかを確かめるために読む。

素人でも気になるのは、どのように宇宙空間に発電所を作るのか、どうやって電気を送るのか、どれくらいの出力が期待できるのか、だと思う。それぞれの疑問点について、まだまだ道半ばの技術もあるが、現状どこまでできていて、どういう構想があるのかを説明してくれている。簡単に要約しよう。

1968年にグレーザー博士がソーラー・パワー・サテライトというアイディアを提唱し、ここで基本的な枠組みは考えられている。時代背景としてはアポロ計画の次のテーマとして考えられたようだが、組み立てコスト(まだスペースシャトルのような再利用可能なロケットも組み立て用のロボットもなかったので)が膨大で打ち切りになったとか。その後オイルショックや温室効果ガス削減問題などから90年代後半から再び注目されるようになったそうである。

送電方式はマイクロ波を使うものと、レーザーを使うものなどがある。マイクロ波電子レンジと同じ原理で、直進性と透過性がよいためによく研究されている。レーザーを使うものは、アンテナを小さくできるメリットと、減衰が大きいというデメリットがある。

発電所のどこに作るかは、静止衛星軌道にすれば一定の場所に送電するのが楽だが、高度が高いため組み立てと受電装置のコストが高いのが問題である。一方、低い高度で赤道を周回させる場合は、受電設備がたくさん必要になる。太陽を追尾するのに、鏡で集光するタイプと、パネルを回転させるタイプがある。宇宙空間で発電をする場合は、宇宙線宇宙塵の影響も考慮しなければならない。

太陽光発電の出力や、マイクロ波送電量については、目標としている値と1万倍以上の隔たりがあり、技術的にはまだまだ解決しなければならないことが多いが、ロードマップでは2035年に実用一号機を完成させるということになっている。

TVの内容を本にしただけのものなら、あまり期待できないなあと思っていたのだが、いい意味で裏切られた。

2011-12-18

[]デフレの正体

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話題の本を今さらながら読んでみました。確かに絶賛する人が多いのも頷けます。なぜか。経済というものを理解する上では、お金の動きを見て景気が悪くなったよくなったという議論をしているが、実感としては景気以前の根本的なところに原因があるような気がしてくる。そのもやもやした根本的なところとは何かを解き明かしてくれるのが本書である。答えは、「人口の波」ということ。すなわち、生産年齢人口の大きな波がやってきたときに高度成長期がやってきて、団塊の世代がお金を使う時期になったときにバブル景気がやってきて、引退の時期になったときに長期の消費縮小が起こっている、ということ。

それ以外にも誤解されている事実を、統計データ証拠を挙げながら説明している。例えば、国際的には日本は経済勝者であること、都心部も消費は不振であること、サービス業がもっとも付加価値率が高いこと、など。データリテラシーの練習としてもよい本だと思う。

原因は分析できたとしても、解決方法を考えるのはそれ以上に難しい。高齢化社会の対策として、高齢富裕層から若者への所得移転というのが挙げられているが、経済政策として効果があるのはわかっていても、実際には意思決定者は高齢者自身だったり、選挙など高齢者の意向が意思決定に大きく左右することが多く、そのような行動を社会として取れるかどうか、が問題なのではないかとも思うのでした。

とはいっても、人口問題と経済問題の関係について、現状分析と問題提起が非常にわかりやすくまとまっている本。ぜひともおすすめ。

2011-11-10

[]ウェットウェア

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ウェットウェアとは、聞き慣れない言葉だが、細胞内で情報を扱うプロセスのことで、ハードウェアソフトウェアの中間に位置づけられる。この本では、単細胞生物が意思決定をする仕組みをタンパク質が行う計算で説明する。コンピューターの黎明期には、神経細胞など生物学の比喩でコンピューターの仕組みが設計され、説明されてきたが、ここでは逆にタンパク質トランジスタに、酵素論理回路に、単細胞生物をコンピューターにたとえて説明する。

生物現象をコンピューターの比喩で説明しているが、似ているということを強調するだけではない。コンピューター(半導体)との対応関係を考えることによって、生物の特質を明確にしているのも面白い。それは、周りの環境に応じて、自分自身を変化させることができるということ。すなわち新しい回路ができるということ。この辺は遺伝の話と絡めて詳しく論じている。

複雑系コンピュータシミュレーションをしたことのある人は、単純なルールから多様な現象が生まれることを知っていると思うが、著者はそれは現実の歪曲だとして批判的である。生物の現象はさらに複雑であり、個体差があり、ノイズを伴う振る舞いをしている、とのこと。

この分野の研究者が自分に向けて研究のまとめを記述するようにして書いた、ポピュラーサイエンスの本だが、単純化して理解させようとせずに書いているために若干の読みにくさがあるかもしれないが、それは科学者としての真摯さだと感じられる。生化学の知識があまりないので、結構難しかったが、新しい分野の学問が始まるときのワクワク感が感じられた。

2011-09-19

[]眠りにつく太陽

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眠りにつく太陽――地球は寒冷化する(祥伝社新書215)

眠りにつく太陽――地球は寒冷化する(祥伝社新書215)

著者は太陽物理学の分野では有名な人。こういう題名の書物をこの時期に出すことは、とても勇気がいることだし、本文中にも述べているように、確実なこととは言い切れない、外れるかもしれないことを、あえて一般向けの書物に書くのは、科学者としてとても大きな決断だと思う。

二酸化炭素地球温暖化の原因かどうかについてよりも、太陽の活動が今後低下して地球が寒冷化する可能性があることを論じている。太陽活動が地球の気候にどのような影響を与えてきたのか、太陽活動を測るための指標、その実際の測定結果と今後の予測、と言った内容を、大学教養の集中講義のような感じで説明してあってロジカルにわかりやすい。太陽活動と気候との因果関係は、光エネルギーの変動といった単純なものではなく、太陽起源の磁場の変動による大気中に侵入してくる宇宙線の量が関係している、というのがこの本の主張である。

とは言え、正直一読者としては、何を信じるかを判断するのはとても難しい。ただし寒冷化する可能性があるということは、人類全体の意思決定において、考慮しておくべきことだと思う。

2011-08-27

[]エントロピーがわかる

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エントロピーがわかる (ブルーバックス)

エントロピーがわかる (ブルーバックス)

ブルーバックス読むのは何年ぶりだろうか。熱力学統計力学情報理論にあらわれる、エントロピー。その間の関係をほとんど予備知識なしに説明しているのは見事。ただし、それぞれにおけるエントロピーの定義を明確にしていないために、形式的な証明を求めている人には期待はずれかもしれない。私の場合は、そういう形式的な理解はできているけれど、どこか腑に落ちない感があったので、それを解消するためイメージを持つために読んでみた。そういう意味では「当たり」の本だった。エントロピーがわかる、というのはエントロピーとは何かがわかるというよりも、エントロピーという概念で表される量がなぜ増え続けるのか、がわかるということである。すなわち、熱力学第二法則とは何かというイメージを持たせるのが主題である。

熱力学の第二法則をマクロな系(熱力学)とミクロな系(原子論的)とでどのように定式化されてきたか、ということから話は始まる。2章から5章まではサイコロを用いた思考実験のたぐいで、この手の思考訓練ができている人にとっては、ちょっと冗長すぎるように感じるかもしれない。

サイコロの思考実験から実際の物理現象をつなぐことで、6章あたりからエントロピー増大の法則が自然なものに思えてくるようになってくる。7章では大胆なことに、エントロピーを情報と同一視して理解するために、温度にボルツマン定数をかけたものを新たに温度としてエネルギーと同じ単位にすれば、エントロピーが無次元にできるとしている。これは同意。むしろこうすることによって、単なるエントロピーの公式が次元の違うものを結びつける式ではなく、同一視して理解するための式だと考えることが容易になるはずだ。

法則なので、決して成り立たない、とか、いつも成り立つ、といった表現にしなければならなくなるが、ほとんど1の確率で成り立つことをカッコ付きの「決して」とか「いつも」として表記することで、読者に注意を促すと同時に、確率的に正しい推論のような考え方が自然に導かれるのはうまいやり方だと思う。