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タケイブログ

2017-12-30

不名誉な笑い声とアメフトボール――ジェームズ・フランコ『ザ・ディザスター・アーティスト』評


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 若きグレッグが演劇学校で出会ったのは、大胆な演技と妙なアクセントが異彩を放つトミー・ウィソー。意気投合した二人はLAへと飛び出し共に俳優の道を志す。悪名高きカルト映画『ザ・ルーム』の舞台裏を描く本作は、笑いと気まずさ、一抹の悲哀が入り混じる友情ドラマだった。

 役者としても監督としてもトミーはボンクラだ。不要なセットを一から組み立てさせ、キャストやスタッフに水やトイレも用意せず、セックスシーンは彼の尻丸出しで挿入してるように見えない、彼自身の出演シーンは何十回もミステイク。実に悲惨な現場。現実なら関わりたくない手合いだが、そこは監督兼主演であるジェームズ・フランコの手腕なのだろう、一つのキャラクターとして面白可笑しく演じられており彼をどうにも憎みきれない。

 だからこそ、彼の無茶に振り回されながらも堅実にキャリアを積んでいくグレッグに肩入れせざるを得ない。その上彼は愚かにもトミーのため自らチャンスをふいにしてしまうのだ。果てに訪れる二人の決別は、『ザ・ルーム』のワンシーンと重ね合わせられており実に痛ましい。名監督よろしく大言壮語を重ねるトミーに、「カメラの前だ。君こそリアルを話せ!」とグレッグが投げつけるアメフトボール。トミーは一瞬本心を垣間見せながらも答えをはぐらかす。かくして彼らの友情は終わりを告げる。

 ところが、二人が旧知の親友というのは全くのフィクションなのである。この脚色のねらいは明らかで、すなわち映画がその後勝ち得る評価や批評的視点を物語に織り込む仕掛けにほかならない。『ザ・ルーム』の奇跡とは、何だかんだで映画が完成し公開までこぎついてしまったこと。その混沌から一筋のドラマをすくい出すべく、本作はトミーを傍らで見つめ続ける存在としてグレッグを置いた。そして彼の視点はそのまま観客がこの映画を見つめる視点でもあるのだ。

 制作が頓挫した作品は映画史に数あれど、一人の男の稚拙な妄想が形をなして世に出回り、衆目に晒され、散々な評価を受けながら、結局は愛されるまでに至る。それは最早一つの感動的な出来事ではないか。試写場に沸く不名誉な笑い声。それでもトミーとグレッグ、二人が浮かべる笑顔は穏やかだ。

2017-12-29

2017年鑑賞映画総括


どうも年1更新ブログです。皆様2017年いかがでしたか。
今年もやります。毎年恒例映画ベスト記事ですよ。

過去分はこちら↓
2016年映画鑑賞総括 - タケイブログ
2015年鑑賞映画総括 - タケイブログ
2014年鑑賞映画総括 - タケイブログ
2013年鑑賞映画総括 - タケイブログ
2012年鑑賞映画総括 - タケイブログ

■映画鑑賞本数&総合ベスト10

新作:53本
旧作:6本
合計:59本

年120本は見ていた数年前と比べて数がすっかり少なくなりましたが、それでも週一ペースで見てると思えばまあ良い方なんだと思う。

2016年からカナダに滞在している身の上ですが、こちらの映画視聴環境そのものは悪くありません。シネコン名画座もあるのでハリウッド大作はもちろんミニシアター系も見る機会があります(トロント映画祭もありますし)。何より一本10カナダドル(現レートで約900円)前後、一番安くて5カナダドルで観れるのがありがたい。

ただ邦画に関しては、特集上映でもない限りまったく見るチャンスがありません。今年はAmazonビデオで『貞子VS伽倻子』『クリーピー 偽りの隣人』、一時帰国時に機内で『君の名は。』(アニメの方です)を見たくらい。邦画の良い評判をいろいろ聞いているだけにその点は少しだけ残念です。

さて今回も評価基準ごった煮で新作ベスト10を以下の通り選出しました。

1. ワンダー・ウーマン (Wonder Woman)
2. ザ・ディザスター・アーティスト (The Disaster Artist)
3. シンクロナイズド・モンスター (Colossal)
4. スパイダーマン・ホームカミング (Spider-Man: Homecoming)
5. IT/イット それが見えたら、終わり。 (IT)
6. LOGAN/ローガン (LOGAN)
7. ザ・フォーリナー (The Foreigner)
8. スプリット (Split)
9. SING/シング (SING)
10. ライフ (LIFE)

■各作品へのコメント

●1. 『ワンダー・ウーマン (Wonder Woman)』

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絵画のようなスローモーションにやりすぎなくらいパワフルなアクション、神話の英雄のごとき彼女の活躍を目の当たりにして思い至る。『ワンダーウーマン』が目指したのはスーパーヒーロー映画のルネサンス、悲惨な現実を戦い抜かねばならない僕達に道を示す存在として、ヒーローを描き直した映画なのだと。

個人的にぐっと来たシーンが二つある。一つは少女ダイアナが母の言いつけに背いてアマゾネスの訓練の真似事をするくだり。崖から飛び降りたのをすんでの所で救われた時、彼女は泣いたり怯えたりせず笑顔を見せる。戦士への憧れと己の力を信じて疑わない、その真っ直ぐさがまぶしかった。もう一つはダイアナが露店でアイスを食べるシーン。その味に"Wonderful!"と感動した彼女が "You should be proud!!"とアイスクリーム屋を誉める。路傍の人に向けられたわずか数秒の敬意に、ああ僕達が忘れているのは己を誇ることなんだと気づかされた。

ダイアナにあるのは「人が人らしく幸せに生きること」への揺るぎない信頼であり、本作ではそんな彼女の目から戦時下の矛盾が照らし出されていく。そして人の命と尊厳が理不尽に奪い去られる戦場の前線でついに彼女が立ち上がる。このワンシーンが最高にカッコいいんです。誰もが止めろ、現実的ではないという。けど彼女には力があり、進むべき道も見えている。そんな時、あなた達は立ち上がることができるのかと。そんな問いを突きつけられたように感じました。

正直これらのシーンがなければ「クソ真面目な映画だなあ」で終わっていたでしょう。しかしながらここ数年、ヒーローものが扱う「正義」は何ら特別なものでなく日常のさまざまな場面で起こるものだという実感を抱いています。僕自身のそうした思いと映画の盛り上がりが奇跡的に一致して、今回ヒーローものではじめてボロボロと泣いてしまいました。

とにもかくにも人間賛歌。今年のベスト1映画です。

●2. 『ザ・ディザスター・アーティスト (The Disaster Artist)』

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悪名高きカルト映画『ザ・ルーム』を撮り上げた男トミー・ウィソー。その協力者グレッグ・セステロの伝記をジェームズ・フランコ監督主演で映像化した本作。笑いと気まずさと悲哀の入り混じった2017年の締めにふさわしい一本でした。

不要なセットを一から組み立てさせ、キャストやスタッフに水やトイレも用意せず、セックスシーンはトミーの尻丸出しで挿入してるように見えない、彼の出演シーンは何十回もミステイク……。当然スタッフとは対立し、グレッグとの溝も深まるばかり。そんな悲惨な現場が面白可笑しく描かれている。素性も年齢も不明、妙なアクセントで喋るトミー。彼が「なんだかやばいやつ」なのは観客の目には明らかなのですが、若いグレッグは惚れ込んでしまうし、その後も彼を見捨てることができない。実際トミーにはなぜか行動力と金だけはあるから事はどんどん進んでいく。

何よりすごいのはここまでグダグダな『ザ・ルーム』が何だかんだ公開までこぎついてしまったこと。制作が頓挫した作品は映画史に数あれど、一人の男の稚拙な妄想が形をなして世に出回り、衆目に晒され散々な評価を受けながら結局は愛されるまでに至る。そうそうお目にかかることのできないもので、それ自体一つの感動的な出来事ではないかと。

実は本作には重要な設定に嘘があるのですが、それはこういった『ザ・ルーム』への批評的視点を映画に織り込むための仕掛けなんですよね。カルト映画の混沌から一筋のドラマを見出した本作。お見事です。

●3. 『シンクロナイズド・モンスター(Colossal)』

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「大いなる力には大いなる責任が伴う」

スパイダーマン(2002)』でベンおじさんがピーター・パーカーに遺した言葉。彼のこの一言が導きとなり、突如手に入れたパワーに浮かれていたピーター・パーカーはやがて人々を助けるスーパーヒーローへと成長を遂げました。ヒーローもののエッセンスが凝縮された、個人的にも好きなセリフの一つです。

その一方で別の疑問も浮かびます。ならば力を持たぬものは責任をとらなくてよいのか?卑小な私達がとるべき責任もそれ相応にちっぽけなものなのか?

もちろん答えは否。どんな人間も逃れられない重責がある――己の人生に対する責任です。人生のツケはいつだってついて回り、時に耐え難い重みをもって今の自分にのしかかる。それに耐えきれなくなった時、人は周囲を巻き込み被害を及ぼすモンスターと化す。だからこそ身の丈というものは常に自覚しなければならない。

本作『シンクロナイズド・モンスター』の原題は”Colossal(非常に大きな)”。colossalが巨大怪獣を表しているのは言うまでもありませんが、同時にそこには怪獣を“非常に”大きいと感じる、ちっぽけな人間達がいる。この巨大怪獣と卑小人間の対比こそが本作の見所であり、およそ短編向きと思えるアイデアに痛快さと不穏さと一抹のやりきれなさを与えているのです。

●4. 『スパイダーマン:ホームカミング (Spider-Man:Homecoming)』

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でもやっぱり若いうちは元気無邪気、むやみやたらに飛び跳ね回っていて欲しい。そう思ってしまうのは大人のわがままなんでしょうか。そんな視点から見た時、『スパイダーマン:ホームカミング』は本当に気持ちのよい映画。トリッキーで軽快なアクションと後腐れのない展開が爽快でした。

先に述べた通り、サム・ライミスパイダーマンが三部作通して描いたのは「力を持つものの責任」という正統派ヒーローものであり、そこには「大人にならねば」という規範意識があった。また『アメイジング・スパイダーマン』二部作は今思えば、過渡期としての青春を描こうとしていたように思います。そしてLOGAN、デッドプール、GotGと、マーベルが多彩なアプローチでスーパーヒーロー映画の枠を押し広げている現状、今作でスパイディの描かれ方が変わったのもまた必然なんだと思います。

本作冒頭、スパイディが撮影したシビルウォーの舞台裏映像に顕著ですが、ピーター・パーカーの根っこはやはり若者なんですよね。重苦しい葛藤や鬱屈は未だ抱えず、ただアベンジャーズに素朴な憧れを示すティーンエイジャー。周囲の大人がどんな期待を寄せようが、今後のシリーズを通してピーターはピーターなりの成功と失敗を重ねるのでしょう。だってそれこそが若さなんですから。

5. 『IT/イット それが見えたら、終わり。』

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少年達の一夏の冒険を描いたジュブナイルでありながら諸々の描写がエグく、全体を通して邪悪な雰囲気が付きまとう。見世物精神と豊かさを兼ね備えるホラー娯楽作。

何よりもまず”It”ことペニー・ワイズが素晴らしい。恐怖演出が心霊寄りか物理寄りか、そのバランスがホラー映画の難しい部分ですが、今作では冒頭から彼の物理的な側面をはっきり示してるんですよね(「あ、ここまでやるんだ」とびっくりしました)。その上で、子供騙しめいたグロから映像メディア越しの精神攻撃まで、多彩で茶目っ気のある驚かし方をしてくる。人の心への挑戦者=悪魔でありながらも実体をもって迫りくる怪物。この二つを両立させるのはなかなか難しいのではないかと思います。

さらに本作では少年少女の家庭事情や街の歴史といったものが、ある意味ペニー・ワイズ以上にえげつなく描かれているんです。恐怖は外からやってくるのでなく、私たちの内側から滲み出て少しずつ堆積していく。汚水とともに流すことのできない恐怖の化身がペニー・ワイズなんだと。こうした形のない忌まわしさを本作は映像一つ一つで語っていました。

見る前はあまり期待してなかったのですが、思ってた以上に味わい深い映画。

●6. 『LOGAN/ローガン

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荒野と車とおっさんと、そして少女と。Xメンシリーズの華々しさ皆無な血まみれロードムービー

ヒュー・ジャックマンの同役引退が話題の本作だけど、それ以上に今作が銀幕デビューとなるダフネ・キーンが気迫と魅力に満ちていましたね。R指定×少女の格闘戦の絵面もエグくて、敵の間を飛び跳ね叫び回る戦い方はウルヴァリン以上に獣らしかった。もちろん不死でなくなったウルヴァリン=ローガンの剥き身の戦いぶりも凄まじく、作品全体に漂う老いのイメージとの対比でその痛ましさが際立っていました。

老いたエグゼビア教授が住むボロ小屋や最早ミュータントのいない世界という設定。それらに象徴されるように、本作がこの十数年でマーベルが広げてきたスーパーヒーロー映画の可能性、その極北にある作品なのは間違いないでしょう。スピンオフの締めくくりとしても大変素晴らしい出来でした。

ついでに敵役のボイド・ホルブルック、ブラッド・ピットライアン・ゴズリングのあいのこみたいな顔……というのはさておき、敵部隊のリーダー格ながら強すぎず残虐すぎない、ちょっと出来るゴロツキといった具合のキャラクターが素敵でした。もっと活躍してくれてもよかったのに。

●7. 『ザ・フォーリナー (The Foreigner)』

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老い」にまつわる映画といえばもう一つ、今年はこれがありました。

娘のため奮闘する親父という点がリーアム・ニーソン『96時間』シリーズを彷彿とさせる一方、爆弾魔を探すべく対テロ組織を粘着的につけ回すという若干ズレた展開には「私刑」の印象が甚だしい。個人的にはヒュー・ジャックマンの『プリズナーズ』を思い出しました。さすがにジャッキーの演技にヒュー・ジャックマンのような凄みはないのですが、役柄には十二分に応えるもので、彼の無表情でみすぼらしい顔や痛がる姿がとても印象的でした。

さらに演技過剰でないことにより、ジャッキーならではの軽業アクションと荒唐無稽な展開が無理なく映画に馴染んでいる。「ジャッキーの新境地!」という評判に惹かれて本作を見ましたが、映画そのものは背伸びし過ぎずB級映画の枠で面白いものを作っているんですよ。そこがとても好印象でした。やや暗いトーンながらも後腐れなく楽しめるし、土台となるクライムサスペンス要素も割としっかりしていて見応えのある映画です。

あときわめて個人的な話ですが、僕の父親がジャッキーと同じ63歳なんですよね。両親や同世代の見回せば生老病死が視野に入ってくる、そんな年齢に僕自身がなってしまった訳ですが……ジャッキーがあれだけ動き回って新しいことにチャレンジしてるんだ。そう思えば少し元気もでますし、両親にも引き続き健康でいてもらいたいものです。

●8. 『スプリット (Split) 』

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毎年映画ベスト記事は大まかな順位だけ決めて順不同で書いており、実はこの感想を最後に書いています。この映画のどこが良かったかなあ……と机に向かいながら考えているのですが、思い返してみれば本作『スプリット』が実は今年一番ワクワクした映画だったような気がします。

本記事で僕が挙げた他の作品は「あるべき姿を全うした映画」だと思っていて、作品のテーマなり世界なりワンアイデアなりを高い出来で実現しています。その一方、本作のあるべき姿というのは意外と見えてこない。昨年の『ヴィジット』しかり一斉を風靡した『シックス・センス』しかり、シャマラン自身はテクニカルな映画づくりをする監督であるにもかかわらず、です。これはまったく悪い意味でなく、アンバランスで先が読めないからこそ個々のシーンに鋭い面白さがあるということ(今作は特にマカヴォイの存在が大きい)。そして分断された人格が統合されていくようにラストに向けてそれらが着実にまとめ上げられていく。そこにあったのは、言うなれば週刊連載漫画や1クールアニメのようなワクワク感だったのかなあと。

ちなみに本作では過去作『アンブレイカブル』とのつながりが示され、これらと世界観を共有する新作『GLASS』の制作が発表されています。M・ナイト・シャマラン、奇想に満ちた監督であると同時にまとめるのも上手い監督だと思うので「シャマラン・ユニバース」の今後には大いに期待しています。

●9. 『SING/シング

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イルミネーション・エンターテイメントの前作『ペット』では、3DCGで描かれた動物たちの動きがあまりに忙しなく正直辟易したのですが、今作は筋立てから見せ方まで全体としてはオーソドックスなつくりで、見ていてとても気持ちの良い映画でした。コアラになってもマコノヒーは男臭いし、タロン・エガートンのゴリラは思いの外美声だし、スカーレット・ヨハンソンヤマアラシは服装込みで可愛いかった。懐かしの名曲にのせて動物達がステージで歌い踊る姿はシンプルに楽しい。

その一方で世知辛さを感じる描写も節々にあり、それらが良いスパイスになっていました。自分の時間を作るためにブタ母がつくった自動家事育児マシーン、精肉工場めいててブラックです。

●10. 『ライフ (LIFE)』

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最後は佳作枠。”Happy Death Day”とどちらにしようか迷いましたが、クリーチャー造形好きなんでこっちを入れました。

宇宙ステーション内で巻き起こる宇宙生物の暴走。まんま『エイリアン』の2017年版って感じですが、船内外の空間や宇宙生物の造形、無重力表現がアクションにしっかり落とし込まれているあたり良かったです。特に宇宙生物Calvinのデザインが秀逸で、宇宙船=無重力空間の密室に適応した生物としてみると大変説得力のある挙動だと思いました。ゴキブリポジションの肉食生物が宇宙にいたらこんな感じになるだろうなあと。

あとは映画冒頭、船内移動シーンの疑似ワンカット映像が『ゼロ・グラビティ』以後の映画だなあとか、相変わらずジェイク・ギレンホールかっこいいなあとか、真田博之の英語ってこんなに日本語訛りだったっけとか、Calvin刺身にしたら美味そうとか。思ったのはそんな所です。正直いえば目新しさも残るものもない作品ではあるのですが、映画としてよく出来ていて、見てる間はとても楽しかったです。

以上、2017年ベストでした。選外となったのは以下の通り。

『It comes at night』『Stronger』『ヒットマンズ・ボディーガード(Hitman’s Bodyguard)』『ダンケルク(Dunkirk)』『ドリーム(Hidden Figures)』『セールスマン(The Salesman)』『Happy Death Day』

それでは皆様、良いお年を。

2016-12-28

2016年映画鑑賞総括


邦画の話題作が多かった2016年。諸事情により残念ながらその波に乗れませんでした。でもやりますよ、今年の映画ベスト発表です。

過去分はこちら↓

2015年鑑賞映画総括 - タケイブログ
2014年鑑賞映画総括 - タケイブログ
2013年鑑賞映画総括 - タケイブログ
2012年鑑賞映画総括 - タケイブログ

■映画鑑賞本数&総合ベスト10

新作:51本
旧作:6本
合計:57本

2015年の141本からがくっと減ったのは主に環境の変化が原因で、実は今年4月末からトロントに滞在しております。さすが国際映画祭が行われる街だけあって映画へのアクセス環境は悪くないのですが、字幕なしで映画を観るにはまだまだ英語力不足。何より自分自身いろいろと忙しかったというのが正直なところです。

それはさておき、今回も新作から評価基準ごった煮でベスト10を選出しました。

1. 『オデッセイ
2. 『火の山のマリア』
3. 『ドント・ブリーズ
4. 『ラ・ラ・ランド
5. 『ブレア・ウィッチ』
6. 『死霊館 エンフィールド事件』
7. 『メッセージ』
8. 『マジカル・ガール
9. 『ズートピア
10. 『手裏剣戦隊ニンニンジャーVS烈車戦隊トッキュウジャー THE MOVIE 忍者・イン・ワンダーランド』

■各作品へのコメント
●1. 『オデッセイ

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課題解決、メッセージ、契約――『オデッセイ』にまつわる私信
本作への思いは、上の記事でほぼ語り尽くしてますが、もう少しだけ補足しておきます。

僕は2015年のベストに『セッション』を挙げ、そこにある「決闘」の精神を称賛しました。合意の下に行われる戦いは、たとえバカげたものであれ崇高さを帯び、人の精神に成長をもたらすものとなる。「決闘」とはたがいに結んだ契約を果し合うことにほかならず、それは裏返って個の肯定、人間賛歌となるのだという趣旨の記事です。

僕は『オデッセイ』をそれらの先にあるものとして受け取りました。ただ一人、火星にとり残された男は無事生還できるのか――イエス。己の生存を疑わず、手を伸ばして助けを求めることによって。そして他者もまた手を差し伸べることで、はじめて救出ミッションは軌道に乗り始めます。本作が描くのは「火星VS人類」の決闘であり、また私達が暗黙のうちに結んだ「共に生き延びましょう」という社会契約が履行されるプロセス、その理想的なかたちなのです。

僕にとって本作は環境が大きく変わったこの一年間を予告し、総決算する映画となりました。
多くの人に助けられて、いま自分はここに立っていると実感しています。

●2. 『火の山のマリア』

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コーヒー農園の貧しい小作人一家の一人娘マリア。彼女は地主との婚約に納得しておらず、アメリカ行きを夢見る若者ペペとの駆け落ちに期待を寄せていた。しかしペペは一人逃亡し、さらに残されたマリアはペペの子を身ごもっていた。現代を生きるマヤ族の一家を描くグアテマラ映画。

堕胎から蛇退治に至るまで、彼らの生活には迷信や呪術的な慣習が根付いていて、それが貧困搾取アメリカへの幻想といったものと隣り合っている。マヤ語しか話せず学もないマリアは、外の世界に憧れながらもそれらにすがるしかない。結局、彼女は生まれ落ちた土地で一生を終えるのであろう。土着文化と文明の境目にある悲劇を本作は描いていました。

火山とともにあるマリアたちの生活が神秘的に、味わい深く撮られているのがまた何ともやり切れませんでした。諦念とも芯の強さともつかないマリアの表情が何とも美しいです。

●3. 『ドント・ブリーズ

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未だに英語の聞き取りは苦手なので、ジジイの背景をきちんと理解できていないのが正直な所なんですが、それでも終始ヒリヒリとした緊張感でいっぱいでした。

何といってもビンビン伝わるジジイのヤバさ。侵入者がいるとわかった途端、盲目ゆえの探り探りな動きから一転して殺しにかかるその挙動、一つ一つに迷いがないのがまた恐い。それでもやっぱり盲目なので、侵入者が難を逃れるチャンスもたびたび訪れる訳です。仮に敵がモンスターか何かだった場合、いちから説明や組み立てが必要な部分が多く、ここまで切り詰めた内容にはならなかったと思います。敵のアドバンテージとディスアドバンテージが明快で、それらが展開にきちんと練り込まれているのが大変素晴らしかったです。

もう一つ印象的なのが舞台となったデトロイトの風景。泥棒女が命からがらジジイの屋敷から抜け出した所で、うら寂しいあの街並みはどこまでも続いている。言ってみればジジイの家なんてその一つでしかなく、どこに何が住んでいるかもわからないような場所なわけです。そして結局、彼女の追い込まれた先がオンボロ車であったことは何だかとても象徴的だと思いました。

私事ですが、こっちでお知り合いになった方が現在デトロイトに滞在中だそうで。どうか生き延びてください。

●4. 『ラ・ラ・ランド

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冒頭から「え、このロケーションでミュージカルやんの?」って驚かされたし、頭の中にあったミュージカルのカメラワークをぶち壊してきてがっと心を掴まれました。ジャズピアニストと女優志望、夢を追う二人の切なくも多幸感に溢れるラブストーリー。

次々とモブが歌い踊り出すようなことは意外となくて、二人の世界がしっとりとロマンチックに、それでいて極まった画づくりと色づかいで描かれている。特に日没のロスの空の下で踊るライアン・ゴズリングエマ・ストーンは素晴らしいの一言。最初からお互いに表現力マックスでぶつかっていかず、探り探り距離を縮めていく不器用さ。曲も歌声の映えるシンプルなものが多いのが好印象です。

ダミアン・チャゼル監督が『セッション』で見せた一点集中の過激さは、今作では映画全体に分散してしまった感は確かにあります。それでも「こうきたか!」という場面がいくつもあり、理屈を飛び越えていく瞬間が心地のよい映画でした。ただただ最高です。

●5. 『ブレア・ウィッチ』

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タイトルが示す通り『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の正統な続編ですが、ストーリー自体には大きな変化や進展は特にありません。過去作から大きく変わったのは時代をとりまく映像環境。本作ではスマホや高解像度カメラ、ドローン撮影といったさまざまな映像機材が使われています。

ところが進歩した機材が森から暗闇を追い出し、魔女伝説の秘密を明らかにするのかというと……否なんですよね。機材のモビリティはむしろその物理的な限界をあらわにし、それをカバーしていたマルチな視点も一つずつ剥ぎ取られる、最後は残されたカメラで暗闇をわずかな光で駆け抜けていくことになる。POVホラーの限界を押し広げるよりもむしろ原初の闇へと返っていくような作品でした。

今年のホラーだと『ライト/オフ』が80〜90年代ホラーのモチーフを借りたポップな作品だったと思いますが、本作はがっつり映像と演出で勝負していました。いやはや面白かったです。

●6. 『死霊館 エンフィールド事件』

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映像と演出で勝負するホラーも好きなんですが、特撮好きの身としてはクリーチャーデザイン、特に「怪人」的なものが大好物。その点で今作は見応えがありました。

ゾーイトロープ(回すと静止画が動いて見えるおもちゃ)、修道女の絵画、昔ながらのアナログテレビ、媒体を通じてやってくる怪異にはけれん味があって、ワクワクしながら見ることができました。家族ドラマも手堅く作られているし、主要な怪現象三つがどう結びつくのか先が読めないのも良かったです(単に英語が理解できてなかっただけかもしれませんが)

それともう一点、プロフェッショナルが怪奇現象の謎に迫るホラーミステリーである点もポイント高いです。ドラマで言えばXファイル怪奇大作戦。このジャンルで最近目立った作品がなかったので、前作とスピンオフに続けて本作が作られたことは思いの外嬉しく思いました。

●7. 『メッセージ』

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宇宙船地球各所に降り立ち混乱の最中にある世界で、言語学者が宇宙人の言語解析に挑む。ドゥニ・ヴィルヌーヴが監督を手掛けるファーストコンタクトSF。ローキーな画面と水中のようなこもった音響の中、映画はじわじわと展開していくので若干忍耐は必要かもしれません。それでも画面一つ一つが美しく、展開にも繊細な抑揚があります。着実にブレイクスルーを重ねて宇宙人のことばを理解していくプロセスには素朴な感動がありました。

本作の中心にあるのは「言語=認識」というアイデア。SF的に目新しくはありませんが、海外滞在中で、なおかつ英語を勉強中の身としてはそれなりに思う所がありました。英文法を学校で一通り習っただけでは、実際にそれをどう運用すればいいかってわからないんですよね。いつ、どこで、どんな感覚でその表現を使うのか。冠詞って、関係代名詞って、いったい何なのか。実際にネイティブ環境で日々を過ごし、言語にじっくり向き合うことではじめて、自分の中に英語的なものの考え方が根付き始める。

その積み重ねがふと自分の抱える漠然とした思いをクリアにしてくれる瞬間があるんです。相手のものの考え方を受け入れた時、自分の内的世界に変化が訪れる。本作に仕掛けられたちょっとしたトリックはそんな感覚をとらえたもののように思います。

●8. 『マジカル・ガール

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「病気の娘のため父親が罪を犯す」というあらすじは作り方次第でどんなジャンルにも転び得る。しかし本作は大胆にも、一人の人間を取り巻く状況の転変ではなく、場面ごとに主役を代えて脅迫関係の連鎖を描いていました。それでいて一人一人の中心にある動機をはっきりと描いておらず、映画は静かに進行していく。そのただならぬ不穏さに最後まで引き込まれました。

台詞も少なく、語られない過去も多いのに、彼らの現状だけはありありと伝わってくる。直接的には描かれない暴力が想像力を掻き立てる。省略と余白の使い方が実に巧みで、コマ割りの上手い漫画を思わせる映画でした。

●9. 『ズートピア

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本作がポリティカル・コレクトネスといった現代の文脈を織り込みつつ、いかに多様な観客に向けて作られているか。それは皆さん既に語っている所だと思います。面白くてわかりやすく、それでいて隙がない。本作はディズニー本領がいかんなく発揮された娯楽作です。

ところで、僕がいま住んでいるトロントは多くの移民が暮らす多文化社会であり、地下鉄の中を見回すだけでも多くの人に出会います。人種だけでなくその体型から年齢までさまざまで、電動車イスを巧みに乗り回す老人や、自転車ごと乗り込んだ家族、犬の散歩途中の人なんかまでいる。そうした人々を眺めていると、一人一人の顔や体が強い存在感を放って感じられることがある。「まるでズートピアのようだな」と滞在から二週間経った頃に本作を観て感じました。そして僕はこの街で何の動物なのだろう……なんてことも思ったりしたものです。

今ではもうすっかり慣れましたが、それでもこの街で暮らしていると、多様性について考えさせられる機会が多々あります。本作は僕自身のそうした経験と結びついて印象に残った一本でした。

●10. 『手裏剣戦隊ニンニンジャーVS烈車戦隊トッキュウジャー THE MOVIE 忍者・イン・ワンダーランド』

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VS戦隊シリーズは毎回出来が良いのですが、今作はその中でも屈指の出来だったと思います。

実を言えば、トッキュウジャー自体はそこまで好きではありません。アイデンティティ不安を抱える若者が仲間内でお互いを承認し合う、その内向きなドラマがどうにも苦手だったのです。それでもシリーズを通して人間関係を着実に掘り下げ、登場人物に確かな存在感を与えていったのはさすが小林靖子脚本というべきか。彼らを演じる役者の成長も相まって、最後にはお別れが惜しいくらい愛すべきキャラクターになっていました。

その翌年に登場したニンニンジャーは、ネット通販で巨大ロボが注文できてしまうようなギャグ戦隊。ところが一見バカげた設定や展開には、根性論物事を済ませずに解決策を模索するという、きわめて理にかなった課題解決マインドがある。また中心モチーフとなる「忍者」も単なるいち職業、いち業界、いち技術として扱われており、そうしたフラットな世界観の下、夢を追う若者のストーリーが外向きにいきいきと描かれていました。

今回のVSでは、両戦隊の対照的なカラーが良い科学反応を起こしていたと思います。トッキュウの幻想的な設定を土台にしてニンニンらしい遊びのあるストーリーが展開する。両戦隊の絡みを見るのは楽しいし、もちろんアクションは安定のクオリティスーパー戦隊ファンとしては大満足の一品でした。



以上、2016年の映画ベストでした。その他、選外となった作品は以下の通り。

シン・ゴジラ』『ハドソン川の奇跡』『ブリッジ・オブ・スパイ』『キャプテン・アメリカシビルウォー』『マネー・ショート』『ザ・ウォーク』『完全なるチェックメイト』『ゴーストバスターズ(2016)』

それでは皆様。よいお年を。

2016-05-16

Movie Review - 'Freeze, Die, Come to Life!(動くな、死ね、蘇れ!)' : Running past your childhood.


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Hi, everyone. What if you can go back to your childhood? Do you go back? Today I'll talk about the greatest film I've ever seen, "Freeze, Die, Come to Life!"

The film is a story about Valerka, a 12-year-old boy who lives in a desolate coal mine town in the Soviet Union. He plays with the caring girl named Galia. Though it is a kind of coming-of-age story, their life is too messy to be beautiful. In the snow-covered town, everyone looks disgusted and speaks harshly. A drunk staggers singing in a loud voice. A young woman runs after a soldier with her butt exposed. And an insane old professor dips a piece of rationed bread in mud, and munches.

The film was directed by Vitali Kanevsky, who had been jailed for eight years in spite of his innocence. It is a semi-autobiographical film. However, there is no room for nostalgia. Even in such terrible surroundings, Valerka and Galia play around, get into mischief and grow up. How lively they are! And the style of the film is also vigorous. Scenes and shots jump from one to another, therefore, each of the fragments sticks into consciousness. This is what cinema is!

When the film ended up with the unexpected, I couldn't understand what I had just seen, and up to now, it has remained in my mind. "Freeze, Die, Come to Life!" is hard to follow. It just run past his childhood, and it will come to life, before your eyes!

Thank you.

ヴィターリー・カネフスキー DVD-BOX

ヴィターリー・カネフスキー DVD-BOX

2016-05-02

Movie Review - 'Whiplash(セッション)' : the most extreme form of "a duel"

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Hi! My name is Takei Hironori.
Today I'll talk about my favorite movie of 2014, "Whiplash."

"Whiplash" is a story about a music school student. He beats drums, and his teacher beats him. That's the whole movie. Some people focus on the music and say; "How terrible! the performance is just noise!" Exactly, except the movie is actually about "a duel."

"A duel" is a battle under an agreement between someone and you. Once you are in it, you must follow the rules even if they are so absurd. But the more you repeat it, the more purified your will gets, as if a religious ritual let you go up the next stage of your spirit. That is what "Whiplash" shows. Every noise from the movie sounds like knuckles hitting each other!

During the last 11 minutes, you will see the most extreme form of "a duel". If you haven't watched it ... Just watch!
Thank you.

スピーチ原稿のリサイクル口語体のままなのはご容赦。

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