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「動き」の絵筆で線を引け――スタジオコロリド『台風のノルダ』『陽なたのアオシグレ』評

 新鋭アニメ制作者による短編二本を同時上映。前者は劇場作品初デビューの監督作、後者は同作スタッフ過去作の再上映である。

台風のノルダ』は学園祭前日の高校が舞台のSFジュブナイル。台風に閉じこめられた学校で少年が謎の少女と出会う。その筋立ては月並みで、SFとしても設定や美術にディテールが乏しい。事件の背景や少女の目的などその多くが曖昧なまま、少年がただ何となく世界を救って終わる。

 もっとも表現力不足なのではない。厚く渦巻く雲に、雨飛沫舞い散る突風、そうした勢いある表現の一方で、少女の体の重みを伝える繊細さも備えている。特に、祭りの準備に賑わう教室の風景には懐かしさと高揚感が伝わって来た。にもかかわらず、それらが具体的な何かを描き出すには至らない。

 対する『陽なたのアオシグレ』は、恥ずかしがり屋のヒナタ君と優しい笑顔のしぐれちゃん、二人の小学生の恋物語だ。教室、屋上、飼育小屋、二人の世界がパステルトーンと豊かな空想に彩られ、まるで絵本のように可愛らしい。それでいてこの映画は、クライマックスを力強く一息に駆け抜けていく。

 雨に打たれ、転んでも、ひたすら走り続けるヒナタ君、それを後押しするように、ハクチョウが暗雲を吹き飛ばし、彼を乗せて飛翔する、その羽は青空の下、白い軌跡を灰色の街に描きながら、やがて線路へと合流し、しぐれちゃんを乗せた電車を追いかける、「僕はしぐれちゃんに、思いを伝えるんだ!」、ただそれだけのために。

 躍動感溢れるアニメーションに乗せて描かれるそのまっすぐな思いに胸打たれた。だがそれだけではない。成長したしぐれちゃんの場面で幕を閉じる構成、それこそがこの映画をただの美しい思い出話に留めることなく、ヒナタ君の成長と旅立ちの物語として描き出していた。

 ストーリー展開、カメラ移動、キャラクターの心情変化。優れたアニメーションは映画のあらゆる「動き」を駆使し、映画全体で一つの大きな動きを描くのだと。この二作の失敗と成功にそんなことを思った。

※『キネマ旬報』2015年7月下旬号 「読者の映画評」1次選考通過原稿

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