BEYOND SMART CITIES

近年注目される「スマートシティ」。ところが、この重要なはずの都市ビジョンが、例えば「ITや環境技術などの先端技術を駆使して街全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型都市」(知恵蔵mini)のように解釈され、一人歩きしているのが現実です。
本書は、「BEYOND」SMART CITIESとあるので、少なくとも著者のTIM CAMPBELL氏がとらえるところのスマートシティの課題を乗り越える議論をしているようだと、まずはしておきます。(本当は、そもそも「スマートシティとはなんぞや」という議論を、日本ではどうで、世界ではどうで、それらがどうかかわっているかを整理したあと、では、「超えて」とはいかなることかを問わなければならないはずですが、それは横に置いておきます。)
さて、では本書は何について書かれているかというと、副題に「HOW CITIES NETWORK, LEARN AND INNOVATE」とあるように、いわば、11/7〜9日にかけて考えた「ベルリンの壁崩壊25周年」の話の続きになりそうな議論です。
都市そのものが主役となったベルリンの壁崩壊後の世界では、都市自身が相互にネットワーク化し、学び合い、そのなかからイノベーションを起こしつつあるとの視点から、実証的・定量的データを開発してその結びつきを「見える化」する一方、そうした活動に力を入れて実際にイノベーションを起こしている都市を類型化しつつ取り上げて、イノベーションが可能となるメカニズムを解き明かしています。
類型は「informal learners(第6章)」「technical learning(第7章)」「corporate styles(第8章)」の3つ。スタディーされているのは「informal learners」がトリノポートランド、シャーロット(米・ノースカロライナ州)。「technical learning」では、クリチバのIPPUC(イプキ)が集中的に分析されたあと、その方法を導入しようとしたメキシコのフアレス市(IMIP)と、その他の事例としてアンマン(Ai)、フィラデルフィア(Economy League of Greater Philadelphia)の計4つが取り上げられています。最後の「corporate styles」ではビルバオとシアトルの組織的取り組みを分析。
知識社会である21世紀都市のイノベーションの成立要因を新たな観点で読み解いた、他にはない図書に仕上がっています。Routledge、2012刊。