「強制的包摂ソーニングの功罪」

月刊『UP』に最近連載されている「移民の街・ニューヨークの再編と居住をめぐる戦い」(森千香子著)を毎回楽しみにしています。今回はその「3」で、前回6月号のその「2」の際も言及させていただきましたが(⇒関連記事1)、2018.8号の標記の記事はさらに都市計画的内容で、実際の評価を下すには時期尚早と思われるものの、動いているニューヨークの新しい都市計画について、都市計画の立場から重要そうなことを書き留めておきます。
第一。「強制的包摂ソーニング」が指定された地区について。UP8月号では2016年に8地区を決定したこと、さらにいくつかの地区が候補にあがっていることまでが書かれています。本日出ている最新の2018年6月28日版(「ZONING RESOLUTION Web version THE CITY OF NEW YORK」APPENDIX F)によれば、確かに2016年には8地区が指定されています。その後2017年に31地区が、2018年6月28日までに12地区が指定されて計51地区になっています(出ている図を1つ1つ数えたもの)。
第二。51地区といっても、地区的なひろがりのものから、街区のほんの一部のスポット的なものまで多様で、多くはスポット的もしくはせいぜい1街区くらいのもののようです。
第三。例外的に数街区にまたがるものもあり、さらに、2016年4月20日に指定されたブルックリンのとある地区(このあたりがUP8号で出てくるイースト・ニューヨークと呼ばれるエリアと思われる。あくまで「思われる」ですが)。ゾーニング・マップ17cのかなりの部分を占める大きな指定です。この2016年4月20日の指定が第1号で、第2号は同年10月まで飛んでいるので、ある意味この地区指定が政策の目玉的存在ではなかったかと感じられます。(こうした「強制的包摂ソーニング」が地元から批判されているというのがUP8号の内容)。
第四。この第1号の指定の特徴をストリートビューも使って確認すると、まず、指定の主力になっている東西方向の4本の路線は比較的広幅員の街路に沿った中層建物もみられるアベニュー。直交するストリート側は基本的に対象外とされています。類推すると、開発余力のあるアベニューに側にインセンティブを与えて、そのインセンティブを使った開発業者にはアフォーダブル住宅供給を一定割合で義務付ける(これが「強制的包摂ソーニング」)というもの。その「アフォーダブル」の基準が全市的なもののため当地区の所得水準からみるととても手が出ないというのが反対の理由の1つめ。そそもそもそんな開発がなされると既存の手が届く家賃の住宅が壊されてしまうではないかというのが理由の2つめ。

政策の改善の余地はあるのかもしれません。

この春に訪れたポートランドではホームレスが大きな問題になっていました(⇒関連記事2)。先日の日経新聞(2018.7.15)ではシリコンバレーのホームレス問題(7400人に増加。家賃高騰が主要因とされる)が大きな記事になっていました。「強制的包摂ソーニング」のような政策がどこまで「都市イノベーション」政策になれるか。何をもって成功したといえるか。興味は尽きません。

[関連記事]
1.ガーメントセンター運営委員会報告&勧告(2017)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20180605/1528178125
2.『THE PORTLAND EDGE』
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20180311/1520771285

[その他の関連記事]
・『GLOBAL GENTRIFICATIONS』
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20161214/1481688864
・世界の中産階級
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170627/1498551901