「跳び超えるか、泳ぎ切るか、力尽きるか…」

  • 山口県はさすがに教育県といわれるだけあって、研究助成や見学旅行の機会を与えられて、ありがたかった。昭和10年2月、旅費25円頂いて九州の中学校英語授業の見学に出かけた。主として、長崎、鹿児島、熊本三県の有名校をまわった。どこへ行っても、下級生に対してはある程度Oral Methodを用い、発音記号を教えるぐらいは常識と考えられていたようである。そして、今から思うと、共通に、先生は迫力があり、教室の中でガヤガヤあるいはヒソヒソとしゃべる生徒などは見たこともなかった。

(皆川三郎、「『非常時』下の英語教育界」、『昭和50年の英語教育』(大修館書店、1980年)所収)
この皆川氏の述懐からすでに四半世紀以上。今、この県の英語教育はどうなっているのか、国公私立含めて情報交換の場がもっとあってしかるべきだろう。ということで、本日学校長よりGoサインが出ましたので、山口県での英語教育イベントを9月に行うことを一足先にお知らせしておきます。講師陣は以前お知らせしたとおり、

  • 田尻悟郎先生
  • 久保野雅史先生
  • 阿野幸一先生

です。詳細は今月中に正式アナウンスの予定ですので、今しばらくお待ち下さい。基本的に県内の中学校、高等学校の英語の先生が対象です。乞うご期待。
そんな、近未来の明るさとは対照的に、高2は苦戦。こちらも試行錯誤。教壇で自分一人得意になって授業を進めることから一歩前進したことは確か。脱皮途中の蛹の状態か産みの苦しみか。英語の基礎体力トレーニングとして、『P単』と音読を欠かさないことが大切。
高1は2コマ。前半戦は、6月の歌の読み合わせ。背中合わせ一人一行読み。充分な口慣らしのあと、合唱その1。続いて、前日導入した規則変化動詞の活用の徹底。類例を追加したり、新たな語がどのグループに属するかを考えさせたりしながら、発音練習。教科書レベルの規則動詞とはいえ、これらの動詞を使いこなせれば、英語表現も少しは豊かになるだろう。動詞の活用は英語史的に考えると悩みが大きくなり過ぎるので、とりあえず、今現在の姿を扱うことでご容赦を。
残りの時間は、前時に扱ったフォニクスのルールに則った、単語を綴るワークシートをSassoon Joinerで作成・印刷。生徒に使ってもらって様子を見た。綴り方を見ていると、いわゆる「筆記体」のストロークと、joiningでの軌跡の関係がよくわかる。crossbar joiningかbaseline joiningか、というのも 思いの外大きな要素なのだ。joiningをして初めて、小文字のbとdの難しさに気づき、dullでのlのloopの出来方に気づく。b/dだけでなく、p/q、n/u、h/y が鏡文字となり、習得に困難を感じる者がいることに高校の英語教師は自覚的でありたいものだ。(詳しくは、Rosemary Sassoon (2006), Handwriting Problems in the Secondary School, Paul Chapman Publishingなどの概説書を参照されたし。)

空き時間に語源の話しに興味を示していた数学の先生と雑談。
こういう情報交換が意外な真理に目を開くので愉しくもある。『ハンディ語源辞典』(有精堂)と『英語ニューハンドブック』(新訂新版、研究社)を見せる。私が、「昔の本はきちんと作られていると思いますね。」と振ると、

  • 昔は「良い本」を作って出していたんだろうね。今は、昔と違って「売れる本」を出している。

との返答が。この会話だけで充分良い昼休みだったと思える。
1年生の後半戦は、7限。疲れも見せず6月の歌、歌詞の対面リピートから。ペアを替えて2セット。
歌詞の中の一節、

  • All I want to do is talk about you.

が難しいようなので、取り出して簡単に解説。「メインの動詞はどれ?」「is」。「じゃあ、主語は?」「I」。「主語がIだったら、動詞がis ってのはおかしくない?」「ああ、そうか。」。「be動詞、時制が決まれば、とじかっこ。はい、XX、be動詞の時制5つ!即答!」「is, am, are, was, were」。「Good! XXは中学校の時、それすぐに言えたか?」「言えませんでした。」「きちんとやれば、かならず出来るもの。その気が大事。」
というやりとりを経て、Allが主語であることを説明。和訳で説明すると難しいので、「I want to do something. と普通にいうのではなく、何をしたいのかを強調する言い方。」として、いわゆる「自己表現」風の活動。

  • talk about youの部分に自分のしたいことを入れ替えて言えるように、具体的な内容を5つ考えよう。

前半戦に動詞の活用を扱っているので、その動詞のリストも参照させながら、まずは3分間 idea generation。その後、男子チーム、女子チームでベストアンサー5つを選んで板書。シェアリングと訂正。

  • make my friends happy
  • clean my room
  • become a doctor
  • play video games
  • listen to music

などの答えをもとに、より具体的な内容へと拡げるヒントを提供。

  • believe you

  • believe in youと対比。

女子からEXILEに関する表現が出てきたので、それなら、

  • sing and dance with EXILE

とか、

  • become a new member of EXILE

とか、

  • be the first girl member of EXILE

などと言えるという流れ。
情報交換の際に、”open the door”って言うよな?などと生徒が言う声が聞こえていたので、

  • open the door to the wonderful world of English!!

と板書して音読。笑顔が出たところで斉読。
板書された意味の実感が伴った英文を繰り返し音読。All I want to do is…のパターンが10回練習できたことになる。15分ほどかけて、たった一つのパターンしか練習できなくて時間の無駄だ、とは思わない。
限られた、閉じた例文を暗記する学習だけではなく、与えられた材料から自分で世界を拡げていく学習にこそ驚きや喜びを感じることに意義を見出したいから。2年生も去年、同じようなことやったはずなんだけどなぁ…。
7限後、帰りのSHRを終えて放課後。本業のはずが、インターハイ予選が終わったと思ったら、新入生が次々と理由を作っては退部の希望を伝えに来る。すぐに結果が出るものなど有りはしないし、練習せずに強くなれる方法があるわけないだろうに…。この理由をひねり出す才能を練習に使ったらどうなのだろうかと思う。出直しボート塾か…。シブケンからのメールに励まされる。
仕事を終え、父の一周忌法要のための帰省の手筈をなんとか整える。
授業の振り替えが出来ないと休暇もとれないので、色々な先生にご理解とご協力を願う。新幹線と航空機とホテルと、と立て続けにネットで予約。なんとか、旅程が繋がった。
帰宅して、杉山忠一氏の学参的文庫『英類語の考え方』(三省堂、1977年)を読む。
英語を書くためのハンドブックとしても使える良質の読み物となっているのは、日本語も含めて著者の言葉の力によるところが大きい。あれこれと策を講ぜずとも、本質を掴むことで読み手に訴えかけることは出来るのだ。こういう類語の使い分けの力を学生の内に自分の掌に入れておきたかったなぁ。副題は英語で、”Talks on English Synonyms” となっている。自分が高校生の頃は高3になるまで受験勉強とはほぼ無縁で、最後の1年間というか半年くらいで40冊くらい、英語の参考書や問題集を使ったのだが、この『クリスタルブックス』のシリーズは、記憶になかったなぁ。1976年から1977年くらいに刊行されているので、書店に並んでいたはずなのだが。
他には、

  • 『クリスタル英語の発音』、田島伸悟著
  • 『クリスタル英作文集中練習』、牧雅夫著

などがあるようだ。学習者の目と教師の目の両方で読んでみたい。
三省堂の関係者の方、または、このシリーズをお持ちの方情報をお寄せ下さい。礼。

本日のBGM: FLY(真心ブラザーズ)