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2011-08-25 writing without tea(che)rs

今日のタイトルですが、Peter Elbow なんて、若い英語教師の方はご存じないかも知れませんね。

今日から新学期で、エピソードはいろいろあるのですが、それよりも新刊のご紹介。

  • 猪野真理枝、佐野洋 『英作文なんてこわくない 日本語の発想でマスターする英文ライティング』 (東京外国語大学出版会、2011年)

監修は馬場彰氏です。類書との最大の違いは、腰帯にもある「日本語と英語の表現形式の違いを体系的に学ぶことで中学卒業程度の英文法でもスイスイ理解できる」、という点。そのため、想定された読者・学習者はTOEICで言えば、600点は取れるだけの英語の語彙と英文法の知識があることを求められています。その意味では中級以上でしょうか。

本書は、英作文を学ぶ学習者が見落としがちな、「母語の表現形式とその意味を正しく理解する」ことを基本にすえていますその上で、それと同じ意味を持つ英語の表現形式を知り、英作文を容易にすることを目指しています。「英作文をするのに、母語の理解からはじめる」というと、読者の皆さんにはあまりなじみがないかもしれません。しかし、英作文をするにはまず、自分が何を伝えたいのかを意識して、それを正確に把握する必要があります。最初は慣れない母語の文法説明に戸惑うかもしれませんが、読み進めていくうちに、きっと「なるほど、自分の日本語がうまく英語にできなかったのは、こういうわけだったのか」と気づくことでしょう。 (p.3)

とにかく、今風の「イメージ」や「フィーリング」とは対極にある、徹頭徹尾、対照言語学的アプローチで構成されています。今回この本を紹介したのは、母校である東京外国語大学出版会の書籍だから、ということも多分にありますが、

  • Step 5 自然な英語で表現しよう

という部分が、学習英文法における「イメージ」の働きを考える際に、とりわけ有益だと思ったからです。このStepは、次の3つのUnitで構成されています。

  • Unit 1 行為の他動性を意識する
  • Unit 2 状態中心の表現を行為者中心の表現にする
  • Unit 3 静止画をひと続きの動画にする

Unit 1 で扱われる日本語の例は、

  • 「魚が釣れた」、「写真が撮れた」、「お金が貯まった」、「私は傷ついた」、「ドアが閉まります」、「ボタンを押せば水が流れます」など、「誰の行為か」を見極めて英語に移し替えるもの。
  • 「富士山が見えます」、「景気の回復が待たれます」、「写真の画質が悪いのが悔やまれます」など、自発形が「誰に起こったのか」を見極めて英語に移し替えるもの。

Unit 2で扱われる日本語の例は、

  • 「駅にポスターが貼ってある」、「会議は記録してある」、「部屋は片づけてある」など「てある」で表された (またははっきりとはあらわされていない) 行為者を意識して、状態中心の表現を行為者中心の英語表現に移し替えるもの。
  • 「来年転勤することになりました」、「新しく社員を募集することになりました」、「来月結婚することになりました」、「家を購入することになりました」など「ことになる」で表されている「行為者の意志」を意識して英語に移し替えるもの。
  • 「彼にはお金があります」、「私は孫が二人います」「、彼女はきれいな髪をしている」など、「ある・いる」を所有のhaveに移し替えるもの。
  • 「彼女は泳ぎがうまい」、「彼は人がいい」、「彼は飲むとタチが悪い」、「彼の発表はわかりずらい」など、人の属性表現を行為者に視点を置いて英語に移し替えるもの。

といった、ベテランの英作文教師は手元に多くの用例を持っているものが、系統立てて整理され、「豊富な練習問題と解説がついています。」

続く、Unit 3では「日英語の出来事の描写方法の違いを知る」という部分では、明解なイラストを使って、

  • 「木の葉が落ちている」、「部屋がきれいになった」、「私は昇進した」、「本を片づけなさい」など、平常な状態を起点として、そこに力が加わり、変化が起こった終点のところまでを一つの出来事と捉えて描写する英語の表現に移し替えるもの。

が扱われています。ここでのイラスト、つまりイメージの処理方法の日英での違いを理解しておくことが、「ハト感」にしろ、「コア」にしろ、イメージに依存した英語学習では重要になってくるように思います。

本書を読み終えて感じたのは、「外語だなぁ」という感慨のようなもの。あとがきを読んで納得。本書の参考となったのは、『マテジウスの英語入門』とのこと。千野先生の顔を思い出した。群れるのでもなく、さりとて、先人や伝統への敬意を忘れず、流行に阿ることなく、でも、ことさらにオリジナルであるとかエポックであることを誇らない。学部再編後も、こういった資質、属性はなくさないでほしいものです。

母校G大といえば、本業では今日から全日本大学選手権。

私も週末に現地入りします。

本日のBGM: ドヴォルザーク チェロ協奏曲ロ短調 作品104 (ヨーヨー・マ)