英語教育の明日はどっちだ! TMRowing at best Twitter

2012-02-11 Do I have to draw you a diagram?

「呟き」の方で少し指摘しておいたのですが、文科省から発表となった、中学校段階の英語で「書くこと」の調査結果がどうにも気になっています。http://www.nier.go.jp/kaihatsu/tokutei_eigo_2/index.html 

委員の名簿を見る限りでは、千葉大の大井先生も、外語大の根岸先生も入っているので、しっかりとした議論がなされた上での調査・研究だと思っています。

それであればこそ、次のような点は、どのような議論があったのか、またなかったのか、知りたいのです。

例えば、「符号」に関して、

  • What are you reading, Tomoko?

は、誰がいつTomokoに向け「書く」英文でしょうか?

しかも、この設問では、What are you reading (空所) Tomoko (空所) のように、2カ所に空所を設けておいて、その空所に適切な句読点を記入できるかを問うことによって、句読点の使い方が身についているかを「測る」問題となっています。この問題、

  • What are you reading (空所)

で最後に適切な句読点を求めるのであれば、かなり正答率は高かったと思うのです。

ところが、cueとなる英文に、「聞き手への呼びかけの言葉」である Tomokoがつけられたが為に、混乱してしまった生徒が多かったと思われます。もし、このcueとなる英文が、

  • Tomoko (空所) what are you reading (空所)

だったら、結果はどうなっていたでしょうか?

中学校段階の教材の多くが、必要以上に「対話文」になっていることが、マイナスに働いたとは考えられないでしょうか。

  • 「ライティング」の指導は文字指導から。

と言い続けている私としては、看過できない出題例でした。

この「符号」に関わる出題では、「引用符」の「形」の「正しさ」を問うものがあって困惑しました。「指導」と「定着」の間にはギャップは付き物ですが、この「符号」はその最たるものでしょう。母語か第二言語かを問わず「大人」や「教師」が参考にする書籍や教材でさえ、いわゆる「パンクチュエイション」の「ルール」が説かれていることの意味をよく考えてみて欲しいと思います。

日本の英語教育の世界では、「ハンドライティング」の指導にそれほど関心がないのか、まとまった概説書があまりありません。

以上、私は、書写・印刷の両時代を通じ、書法と最も深い関係を持つローマン字体の歴史のあらましを辿って、現代のイギリスに及んだ。現場で英習字を教える人たちにとっては、無用の知識とも考えられるかも知れないが、こうした知識が、わが国のこれまでの英語教育でほとんど供給されてこなかった実情にかんがみ、私は最小限度このくらいのことを常識としておいてほしいと思う。 (中略) あとはさしえの図版を参考にして各自くふうし、また末尾にかかげた参考書目によって、知識を深めていただきたい。

これは、寿岳文章氏の「英習字」 (p.248、『語学的指導の基礎 (中)』、研究社、1959年) からの抜粋。この指摘、啓蒙から既に50年が経っているのですが、今回の「最新の調査結果」を見る限り、ほとんど改善されていないように思えて仕方がありません。

「外国では」とか「本場では」という、事例の取り上げ方は、私が最も忌み嫌うものの一つですが、寿岳の言うように、「こうした知識が、わが国のこれまでの英語教育でほとんど供給されてこなかった実情にかんがみ」英国での「教則本」や英米の「研究者」などからいくつか、実例を見ておこうと思います。

まず、Alfred Fairbankの The Story of Handwriting Origins and Development (1970年) より、Fairbank自身も編者となって作成したBeacon Writing Booksのシリーズ (1958-61年) での「イタリックハンド (= Italic Hand) のお手本」から。(DLされる方はこちら→Fairbank, Storyより、Beacon.jpg 直)

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左頁下のFig. 17を見ると、Fairbankが規範とする「イタリックハンド」での「引用符」がよく分かるでしょう。右頁では、実際の手紙形式で「引用符」が使われている様子がわかります。

では、「規範」はともかく、当時の一般的な書き方はどうだったのでしょうか?

書家であるReginald Piggottは、Handwriting A National Survey (1958年) で前年に英国で行った広汎なhandwritingの調査結果をまとめています。その中で興味深い引用が、Marion Richardson女史の Writing & Writing Patterns (1935年) の説く書き方に従って当時の人が書いた実例です。

(National SurveyよりRichardson_style.jpg 直)

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下段の手書きでは、5行目に “Violin” という語を引用符で囲った例が見て取れます。実際の手書きでは、「はじめ; 起こし (=opening)」は左上から右下へ、「終わり; 受け (= closing)」は右上から左下へ、という運筆だったことが窺えます。

では、大家の直筆は実際にはどうだったのか?またFairbankから見てみます。

  • A Handwriitng Manual. Faber & Faber

私の手元にあるものは、1975年の改訂版です。

米国を代表する書家と寿岳氏も言うJames Hayesの直筆。(Fairbank, ManualよりJames Hayes.jpg 直)

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  • “straight off.”

でかなり「個性的」な「はじめ」の引用符を書いています。

1970年代の終わりから、国内で人気を博し、英国ナショナルカリキュラムにも影響を与えたとされる、Thomas Barnardの直筆。(Fairbank, Manualより Thomas Barnard.jpg 直)

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  • “silent majority”

での「美しく」て「正確な」引用符がおわかりでしょう。

それでは、現代の「教則本」では?というと、やはり『ネルソン』でしょう。Book 4になると、「引用」がもっともらしく思えるレベルの「文章」で視写の課題が出てきます。(ネルソンのBook 4.jpg 直)

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形はよくわかるのですが、「はじめ」の運筆に関しては、この「テキスト」自体には何も解説やガイドラインがありません。

私がこの長話をする契機となった、今回の「調査結果」で、「不正確」とされた「符号」のどこに問題があったか、考える材料は提供できたと思っています。概説書などの写真も載せておきますので、参考にして下さい。

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一番左がA National Survey。Sassoonもよく引用しています。一番右は、John Jacksonによる19世紀末の米国の概説書の復刻本。

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手に入り易いのはSassoonでしょうね。Sassoonは個人的には好きな書体ですが、書体以上に、Rosemary Sassoonがこれまでにまとめてきたhandwritingの分析・考察が素晴らしいと思います。ちなみに、Sassoon はHandwriting of the Twentieth Century. 1999. Routledgeで次のようにMarion Richardson女史を評価しています。

In retrospect it could well be argued that Marion Richardson made the most significant contribution to the development of handwriting in the twentieth century.

(中略)

Marion Richardson’s letterforms were, however, attacked by those promoting a more sophisticated italic hand. They failed to understand the advantages of a beginner’s model with slightly rounded strokes, making it easier for young children, and helping them to joint letters at an early age. Her copy books were carefully graded leading pupils on to the broad-edged nib and narrower slanting letters. Richardson considered that: ‘A child needs a model not only when he first learns to write by but also to protect him from slovenliness and affectation while his writing is forming’. (p. 78)

慧眼だと思います。

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立てかけてある左奥の新書が寿岳氏も書いている『語学的…』。真ん中は某学校の教則本というか練習帳。一番右は大正時代の雑誌『ABC』(研究社)。平置きが『ネルソン』のシリーズ (Books 1-4)。

他にもまだいくつか、職場にありますので後日ご紹介を。

さて、

フィギュアスケートは四大陸選手権。

銀河も越える点数で優勝してしまう選手のいる興醒めの男子シングルは放っておいて、女子の活躍に期待したいと思います。

本日のBGM: Human Hands (Elvis Costello)

tmrowingtmrowing 2012/02/12 09:11 写真のキャプションに大幅に加筆修正。

tmrowingtmrowing 2012/02/12 17:17 handwritingの実例で書籍から引用した写真をDLできるようにリンクを追加しました。著作権に留意の上ご活用いただければと思います。